5枚の紙が教えてくれる、自分が本当にやりたいこと――週末北欧部chika【learn learn FINLAND―北欧で、生き方を学ぶ記録】

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北欧好きをこじらせて、ついにかの地への移住を果たしたコミック作家、週末北欧部chikaさん。そこで出会ったのは、「学び」によって人生を耕す人々と、それを後押しする社会。学びをとおして“世界の見え方”が更新され、新しい人生が形作られてゆく――そんな「学びの先にあったもの」を見つめるエッセイです。(毎月第1水曜日更新)

※NHK出版公式note「本がひらく」の連載「learn learn FINLAND ――北欧で、生き方を学ぶ記録」より

#07 「”わからなさ”を、見える形にする」こと

何かをやりたいと思っても、最初からすべてが見えていることはあまりない。
「こんな仕事をしてみたいな」「こんなふうに暮らしてみたいな」と思い浮かべることはあっても、
そこへどう近づいていくのかまでは、まだぼんやりしていることも多い。

そんな中で印象に残っているのが、
「“わからなさ”を、見える形にする」という授業だった。

やりたい仕事の風景を描いてみる

「手元にある5枚の紙のうち、まず1枚目には、自分がしたい仕事をしている様子を描いてください。
誰と、どこで、どんなふうに働いているのかを、絵にしてみるんです。

絵は上手でなくても大丈夫。大事なのは、できるだけ細かく思い浮かべることです。
目を閉じて、その場に本当にいるつもりで想像してみるのもいいですね。

目の前には何があって、誰といるのか。もしかしたら、一人かもしれません。
どんな言葉や音、会話が聞こえてきそうでしょうか。
その景色を、紙に描いてみてください」

そうして私たちは、しばらく静かに考える時間をもらった。
それぞれペンを持ち、自分の中にある景色をたどっていく。

最初は静かだった教室に、しばらくすると、あちこちからペンを走らせる音が聞こえはじめた。
私の小さな紙の上にも、見てみたい景色が少しずつ現れていった。

誰にも見せない1枚目

ダンサーのクラスメイトは、自宅の教室で生徒たちと踊る自分を。
画家のクラスメイトは、自分の絵が思い入れのある場所に飾られた景色を描いていたかもしれない。

けれど私は、みんなが何を描いたかを知らない。
なぜなら先生は、1枚目に描いた絵を見せ合う時間をつくらなかったからだ。

それまでの授業では、「未完成でも自分の考えを外に出すこと」を何度も勧められていた。
だから今回も、描いたものをあとで見せ合うのだと思っていた。

でも、この1枚だけは誰にも見せなくてよかった。
あとから考えると、それはとても大事なことだったのだと思う。

私が描いたのは本当に自分がしたい仕事の風景だったけれど、
それはあまりにもささやかで、とてもパーソナルなものだった。
言葉にすると「なんでもない小さな風景」に見えてしまいそうで、
発表する時間がないと知った時は、心からほっとした。

でも同時に、こういうものは本来それでいいのだろうな、とも思った。
もし最初から「誰かに見せる」を前提にしてしまったら、
「もっと立派に」「もっと志高く」「もっと説明しやすいものを」と、
自分の本音に飾りを足してしまいそうだったからだ。

大事なのは、誰かによく見える夢を描くことではなく、
自分が本当に見たい景色を、その1枚に描くことなのだと思う。

夢の絵コンテを描きましょう

そして、ここからが本番だった。
1枚目を誰かに見せる時間をつくらないまま、先生はすぐに次の課題を出した。

「みなさんの手元には、いま描いた1枚目と、残り4枚の白い紙がありますよね。
これからその四枚を使って、その仕事がどうやって実際に生まれるのかを、順番に描いてみましょう。

どこでニーズが生まれ、どうやって依頼が届き、仕事につながっていくのか。
やりたいことだけではなく、そこに至るまでの流れも、漫画や絵コンテのように描いてみるんです」

先ほどまで見つめていたのは、自分の中にある、とても個人的な風景だった。
けれどここから先は、内側にあった願いを、外の世界とのつながりの中で見てみるような時間になった。

わからないことが、見えることに意味がある

1枚目の時とは違って、教室の中でペンを走らせる音は少しずつ鈍くなっていった。
見渡すと、白い紙を前にしたまま手が止まっている人もいる。

私も「こんなふうに仕事ができたらいいな」という景色は思い浮かんでいたけれど、
それがどこから生まれ、どう仕事につながっていくのかを考えてみると、まだ見えていないことが思っていた以上にたくさんあった。

「はい、みなさん、いったん手を止めてみましょう」
先生が、教室に声をかけた。

「描いてみて、どうでしたか。
スラスラ進んだ人もいれば、途中で『この先が見えないな』と感じた人もいると思います。
わからなくて、白いままの紙が残っている人もいるかもしれません。

でも、大事なのはそこなんです。

わからないなら、まずは『ここがわからない』と知ること。
そこに気づくことが、何よりも大切なんです」

頭の中だけで考えていると、何が見えていて、何がまだ見えていないのかも、曖昧なままになりやすい。
けれど紙に書き出してみると、手が止まった場所が、そのまま次に知るべきこととして見えてくる。

このワークで大切だったのは、完成した答えを出すことではなかった。
今の自分には、どこがまだ見えていないのか……
その「わからなさ」を、見える形にすることだった。

良い質問をしましょう

みんなが自分の「わからない場所」に気づいたあと、
先生は「これを“良い質問”に活かしていきましょう」と言った。

わからないことがある時は、誰かに聞くことが大事になる。
でもその前に、自分が何を知りたいのかが少し見えていると、質問はぐっとしやすくなる。

ただ「教えてください」と聞くのではなく、
自分はどこで止まっていて、何が見えていないのか。
そこがわかると、問いかけはもっと具体的になる。

そして授業の最後、先生はこう言った。

「自分の頭の中だけで考えていると、すべて整理できているように思えることがあります。
でも外に出してみると、思いがけない反応が返ってくることもある。

アイデアは、頭の中だけでは完成しません。
だからこそ、まずは外に出してみることが大切です。

そして、いちばん忘れてはいけないのは……
やりたいことや仕事は、頭の中でも紙の上でもなく、
世界の中で、人と人とのあいだで起こるものだということです」

まずは、自分の「わからなさ」を見える形にしてみる。
それは、外の世界に向かって問いをひらき、
誰かとつながっていくための最初の一歩なのかもしれないと思った。

プロフィール

週末北欧部chika
フィンランドが好き過ぎて13年以上通い続け、ディープな楽しみ方を味わいつくした自他ともに認めるフィンランドオタク。移住のために会社員生活のかたわら寿司職人の修業を始め、ついに2022年春に移住。モットーは「とりあえずやってみる」。好きなものは水辺、ねこ、酒、一人旅。著書に『北欧こじらせ日記』シリーズ、『マイフィンランドルーティン100』シリーズ、『世界ともだち部』シリーズ、『フィンランド くらしのレッスン』、『Tasty! 日刊ごちそう通信』、『まいにちヘルシンキ』など多数。

バナータイトルデザイン 山崎友歌(Y&Y design studio)