セルフレジで「困っている高齢者」は格好の標的に…有罪確定の元詐欺師が告白「詐欺師が潜んでいる身近な場所」
■数千万の詐取で、執行猶予中のA氏
2023年、複数の知人から合計数千万を騙し取ったとして逮捕され、懲役3年・執行猶予5年の判決を受けた元詐欺師の男性がいる。A氏(仮名)は現在、被害者への弁済を第一に生活しているという。今回、筆者はA氏を直撃。本人の口からは「騙した相手は60人くらい、総額は20億円近くにのぼるはずです。本当に申し訳ないことをしました」と、被害の大きさと後悔が語られた。読者の防犯に役立ててもらうため、“詐欺師が獲物に近づくときの手口”について詳しく聞いた――。
筆者のもとに、友人から1通のLINEが届いた。「人を紹介したい」という。仕事柄、こうしたことはまったく珍しくない。だがそのあとに続く文面に、内心唖然とした。以前、自身を騙した詐欺師を紹介したいというのだ。
その詐欺師こそ、冒頭で紹介したA氏だ。2023年に逮捕され、現在も執行猶予中の身だ。

遡ること1年半前、件の友人から相談を受けたことが頭をよぎった。友人は仕事で接点を持ったA氏のため、自身のクレジットカードを使ってA氏の買い物をしていたという。経営者をしているA氏から、「海外口座の凍結に遭い、すぐに動かせる金がない」と言われたからだ。“おねだり”の金額は大金ではなかった。「利子つけて返すから」。果たしてその約束は守られ、半信半疑ながら“貸した”金は無事だった。この人は信頼できる――そう判断してからは加速度的に“おねだり”が進む。幾度も同様のことが繰り返され、気づけば徐々に返済は遅れ始めた。
「総額で2000万円くらいはやられたんじゃないかな」
今回のやりとりで、友人はそう明かした。続けて、A氏がすでに逮捕されていること、現在は弁護士が入り被害弁済をさせている最中であることを語った。
A氏を紹介するとき、友人は「詐欺師が考えていることがわかれば、これ以上被害者を出さないための啓発にもなるから」と語った。だが通常、犯罪の被害者は加害者と極力かかわりたくないと感じるものだ。筆者には、友人が額面通りの言葉以上に、A氏を信頼しているように見受けられて不思議に感じた。
■「投資」「クレカ」で相手を騙した
取材当日、A氏は時間ぴったりにやってきた。「本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます」。無地のシャツに特徴のないパンツ、特に若々しいわけでもなければ老けているともいえない顔貌――人の外見に物を申すのもおこがましいが、A氏は極めてありきたりな男性に思えた。
話を聞くうち、A氏がこれまで行ってきた詐欺には2つのパターンがあることを理解した。
1つは、主に事業をやっている人間から金を集めて、投資を代行するもの。ただし「契約書を書いて、あくまでボクが金を借りるという立て付けにせんと、金融業法違反に抵触するんでそのへんは慎重にやりました」と法の抜け穴を突く周到さを見せる。
もう1つは、筆者の友人が被害に遭ったパターンだ。何らかの接点を持った人間に、「クレジットカードを切ってくれんか」と頼む。応じた人間がA氏のためにカードで使用した金額以上を翌月に振り込み、信頼を得る。その後、徐々に返済が遅れてやがて返さなくなる。

■経営の失敗が“詐欺師転落”のきっかけに
A氏がいわゆる投資詐欺を始めたのは、2020年頃、自身が31歳のときだという。九州地方で生まれたA氏は、関西の学校を卒業し、会社に就職した。だが駆け出しの社会人の給料など、たかが知れている。ちょうど、友人のすすめで買った日本の個別株が当たった。会社の給料以上に稼げることに「感動した」。
その後、株の利益などを元手に、A氏は何店舗も展開する老舗飲食店を買収し、会社は退職した。経営者の仲間が増えるにつれ、A氏の株式運用の手腕が噂になった。
「最初の1年間くらいは、真面目に他人のお金を預かって運用していました。それなりに成果も出していたと思いますよ。ただ、本業である飲食店の経営がうまくいかへんくて……『預かっている金を運転資金にしたほうが早い』と気づいたんです」
当然、最初のうちは黙っていた債権者たちのなかにも、A氏に預けた金を案ずる者が出てくる。「完全にバックレることはしないで、なるべく数万円でも返済するようにはしていました。その債権者から、新たな対象者を紹介してもらえることがあるからです」。だがその生活は長く続かず、A氏は知り合いの少ない地域を転々とすることになっていった。
■“セルフレジ”の高齢者に近づき、店の配慮の無さに共感
筆者がもっとも気になったのは、A氏が“カモ”を物色する際の基準だ。どのような場所で、どのような属性の人間を狙うのか。それがわかれば、友人が言う通り啓発になろう。A氏は「年代によっても違ってくる」としたうえで、ある程度の類型を示した。
「一般にお金持ちが多く住んでいる地域のスーパーマーケットは、詐欺師にとっては好都合な場所でした。近づいたのは、特に不服そうにしているお年寄りです。商品を探したいけど、店員に気づいてもらえない……みたいな状況を不満に思っていたりするわけです。そこに付けこむのです。
『おばあちゃん、大丈夫か? この店、ほんっと、不親切よなぁ。俺が店員呼んできたろか?』と。その場はそれで終わる。でも、会計のときにセルフレジがありますよね。お年寄りは必ずそこでまごまごしています。操作方法がわからない苛立ちにくわえ、店員が気づかないという配慮のなさにまた少しイラッとする。そこにボクが登場する。『また会ったやん、セルフレジって俺も嫌いやねん』とか言いながら、やってあげる。そして『俺の家もこっちのほうやねん』とか言って、買い物袋持ってあげたりする」

その後、すぐに詐欺を仕掛けず、余裕をあえて見せるのも詐欺師の手口だ。
「わざと言うんです。『おばあちゃん、このへん俺みたいな詐欺師が狙ってるかもしれんから気を付けてや』とか」
思えば、A氏は関西で投資詐欺をやっていた時代も「いやいや自分で投資したらええやん、俺なんか持ち逃げするかもしれへんのに」と相手に話すことで逆に信頼を得ていたらしい。いったん退いて、相手に自ら選択させる狡猾な手法だ。
■ティッシュ配り、スマホの修理待ちに現れる
A氏は「家をみれば、だいたいどれくらいの資産があるか想像がつきます」と断言する。親切にして信頼を得られた高齢者の自宅を査定する際の、A氏の目は冷静で鋭い。
「西日本なら芦屋、東日本なら田園調布とか成城学園などの、いわゆる高級住宅街にある、こぢんまりした戸建ては狙いやすいと思っていました。あまり大きすぎる家は、自宅にお金をかけすぎていて現金を保有していない可能性が高い、お手伝いさんなどの複数の監視の目があって付け入る隙がないという理由です。こぢんまりした戸建てほど、すぐに現金にありつく、と考えていました」
一方で、大物を狙わない場合もある。物色するA氏はまさに神出鬼没。たとえばこんな近づき方もあるのだと明かした。
「先ほどのは資産家クラスへの取り入り方でしたが、比較的若い層を狙うときは、権威性をちらっと見せるのです。仲良くなる端緒は何でもいいんです。ティッシュ配りのティッシュを貰った人を追いかけていって、『実はその(ティッシュ広告に描かれている)店のオーナーなんですけど……』とか。
有名メーカーのスマホの修理待ちで、偶然隣り合った若者に『すみません、これの操作わかります? ボク全然機械のことわからへんくて』とか言って近づくこともあります。お互いの田舎の話などを交えながら、『境遇が似てる』と思わせたら連絡先を交換するんです」

■居酒屋で隣り合った人との“連絡先交換”に注意
また、居酒屋なども注意が必要だと警鐘を鳴らす。
「あとは、若者が集まる大手の居酒屋チェーン店に女性と一緒に行って、わざと男性2人組に話しかけたこともありました。『うるさくしてほんますみません』と謝って、『どうですか? この子。彼氏募集中です』とか話しかけたり。女性がいると相手の警戒のハードルが一気に下がり、和みやすいのです。『お兄さんたち絶対普通の仕事していませんよね』なども尋ねてみる。たいがい賑わっていますから、『ちょっと席近づけていいですか』なんて言いながら、連絡先を交換する。

そうやって連絡先を集めたら、次の日以降、何度かやり取りをする。
そして、後日、実際にボクが面識のある飲食店に誘います。そのとき、店員に手土産渡して『いつもありがとうね』と距離が近いことをアピールします。おもむろにスマホを取り出して『あぁよかった、店のHPから俺の名前消えてるわぁ』と示す。相手が『どうしたんですか』と聞かれれば『いや実はここ、オーナーやねんけど、名前なんて載ってても意味ないやんか。国税こわいし』と言う。意味がわからなくても『なんか金を持ってそうだな』と思わせたのです」
どれも日常の延長であることが怖い。金持ちには素朴な善意の青年を演じ、夢見る若者には成功者としての振る舞いを見せる。そのいずれにおいても、“獲物”として狙いやすい属性は存在するようだ。
■「不機嫌そうな人」「田舎から出てきた人」は危ない
「もっとも重要なことは、相手が“陽キャ”ではないことでした。たとえばどれほど成功している事業者でも、水商売に大金を落とす層は、投資にほぼ関心がありません。それに毎晩飲み歩いているような明るい性格の人たちは、必然的に交遊録ができてきますから、早い段階で詐欺にも気づかれてしまいます。したがって、詐欺師からすれば、こうした人々を騙すメリットは大きくありません。
一方で、どちらかというと偏屈で、人が寄り付かない、不機嫌そうに見える人に話しかけるのが定石でした。若者も基本的には同じです。田舎から出てきて、ネットワークのない人に近づいて『俺も最初そうだったわぁ、友達少ないねん』と共通項があると思わせていたのです」
インタビューの冒頭から筆者には気になっていたことがあった。A氏の言葉にときどき交ざる関西弁だ。指摘すると、A氏は「知る限り、ほとんどの詐欺師が関西弁を使用しています」と明かした。
「おっしゃるように、ボクは九州地方の出身で、もともと関西弁を話していませんでした。もちろん、関西地方で真っ当な商売をしていたのは事実です。でもそれ以上に、関西弁が便利だからボクは使っていました。
最初は、飲食店を経営していた時期に知り合った関西圏の人々に親近感を覚えてもらうために使い始めました。もともと九州訛りがひどく、『マイペース』というイメージを持たれることが多かったんです。翻って標準語は関西からすると『なに都会人ぶってんねん』と嫌われる傾向にあります。余談ですが、関西生まれではないのに関西弁を話す詐欺師はたくさん知っています。これも注意が必要かもしれません」
■追い詰められた逮捕間近、襲った後悔
A氏の詐欺師人生は、2020年に投資詐欺に手を染めてから2023年に逮捕されるまでの3年弱。そのあいだ、相手を信頼させるための“必要経費”を差っ引いた純利益は、月平均で500万円程度あったという。だが経営者を騙していた初期の詐欺に比べ、起業したい若者などをターゲットにした詐欺はいわば「末期」であり、実入りが格段に減っていった。
「どんどんお金が回らなくなり、最後のほうなど、毎日警戒してびくびくしながら生きていました。高級なご飯を食べていてもまったく味がしなかった。とにかく『どうやって金を引っ張ろうか』しか考えることができなくて。眠ることさえ浅くなっていました。そんな状態ですから、正直な話、逮捕されたときは全身から力が抜け、心からホッとしました。自分からやった過ちなのに、やっと一区切りついたと思ってしまった」

偽りの日常は限界まで追い詰める。その声は過去の悪行への後悔が滲んでいた。
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黒島 暁生(くろしま・あき)
ライター、エッセイスト
可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
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(ライター、エッセイスト 黒島 暁生)
