「長年貢献してきたのに」日本国籍・ラグビー元代表ラファエレ選手が“新制度”で出場資格不利に…“独禁法違反”で仮処分申し立て
ラグビーの国内最高峰リーグ「リーグワン」の新たな選手登録制度をめぐり、日本国籍を取得している海外出身者を含む選手ら約20名が、新制度は独占禁止法に違反するなどとして、公正取引委員会への申告と東京地裁への仮処分を申し立てた。
7月30日、この問題について選手の一人であるラファエレ・ティモシー選手と、選手らの代理人である牧野誠司弁護士が記者会見を開いた。
牧野弁護士は、本件の争点は「外国出身で日本国籍を取得した選手らにすでに認められていた地位を剥奪することが許されるか否か」であると指摘。
ラファエレ選手は「屈辱を味わった」と語り、自身を含め長年日本ラグビーに貢献してきた選手らが不利益を受けることについて、悲しみを表明した。
「日本生まれ」でない選手は帰化していても不利に一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン(以下「リーグワン」)は2025年5月、2026-27シーズンから選手登録制度を見直すと発表した。
現行制度では、日本代表資格を有する選手や、日本ラグビー協会への継続登録期間が48か月以上ある選手などが「カテゴリA」に分類される。
新制度では、このカテゴリAが「A-1」と「A-2」の2区分に再編される。
A-1は、他協会(外国のラグビー協会)の代表歴がないことを前提に、義務教育9年間のうち6年以上を日本で過ごした選手や、本人または両親・祖父母のうち1人が日本生まれの選手などが対象となる。
一方、A-2は、他協会の代表歴がなく、日本ラグビー協会への継続登録期間が48か月以上ある選手が対象となる。
このため、外国生まれで日本国籍を取得した帰化選手であっても、義務教育期間中に日本で6年以上生活していない場合はA-2に分類される。
ただし、日本代表として30キャップ(※)以上を獲得した選手は、例外的にA-1へ分類される。
※ラグビーでは国・地域代表による国際試合「テストマッチ」に出場した回数を「キャップ数」と呼ぶ
新制度(リーグワン公式サイトから)
制度変更に伴い、試合登録の基準も変更される。23人の試合登録メンバーについては、現行制度ではカテゴリAの選手を17人以上登録する必要があるところ、新制度ではA-1の選手を14人以上登録しなければならない。
また、試合中にピッチへ立つ15人についても、現行の「カテゴリAを11人以上」から「A-1を8人以上」とする基準へ改められる。
この結果、A-2に分類された選手は、試合登録・同時出場の面でA-1より不利な扱いを受けることになる。
選手側は「独占禁止法に違反する」と主張今回の申立てを行った選手らのうち、5名が氏名を公表している。いずれも日本代表としてラグビーワールドカップをはじめとする国際大会でプレーした経験を持つ。
また、自身は新制度下でもA-1に分類され出場機会に影響は受けないが、「制度そのものが不合理である」という考えから申立人となった選手も含まれているという。
牧野弁護士は、本件における選手側の法的主張を、以下のように整理する。
・優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号、19条)
リーグワンは、日本を代表するリーグとしての優越的な立場を利用し、競技能力とは関係のない基準によって、すでに認められていた出場機会を一方的に制限した。
・不当な差別的取扱い(独占禁止法2条9項6号、一般指定4項)
リーグワンは、同じカテゴリAに属する日本国籍の選手の間で「義務教育期間中に、どこで生活していたか」を理由に、出場機会に差を設けている。
牧野弁護士は今回の仮処分申し立てにおける争点は「新ルール自体の是非ではなく、すでに認められていた地位(資格)を奪うことが許されるかどうかである」と語った。
また、「義務教育期間中に日本で生活していたかどうか」という、本来ラグビーとは無関係な基準によって、選手らに長年認められてきた出場機会が奪われようとしていることを問題視。新基準は、日本代表に選ばれた選手を含む、これまで日本ラグビーに貢献してきた外国出身の帰化選手に不利益を与えるものだと指摘した。
なお、選手側は2026年1月から3月まで約3か月にわたりリーグワンと協議を重ね、従来カテゴリAだった選手については、新制度でも引き続きA-1として扱う経過措置を設けるよう求めてきた。
当初、リーグワン側に受け入れる姿勢は見られず、4月20日に公正取引委員会への申告と東京地裁への仮処分申立てに至ったという。
もっとも、現在はリーグワンと選手らの間で「良い交渉ができている」と牧野弁護士は語る。
「地裁への申立てに関しては、お互いの主張書面や証拠をすべて提出して、話し合いを継続している状況。裁判ではなく話し合い(和解)で解決したいという気持ちが、双方にある。
一方、公正取引委員会に関しては、調査は委員会の裁量で開始されるので、我々には関与できない」(牧野弁護士)
ただし、牧野弁護士は会見での発言はあくまで仮処分を申し立てた選手らの代理人としての立場からのものであると補足し、仮に和解が成立したとしても、リーグワンの新制度が将来的にも保持されることが妥当かは別問題である、とした。
ラファエレ選手「屈辱を味わったように感じた」ラファエレ選手はサモア出身。ニュージーランドのデラセラ・カレッジを経て山梨学院大学に進み、来日後に日本国籍を取得した。日本代表として28試合に出場し、現在はリーグワン1部・コベルコ神戸スティーラーズに所属している。
前述したように、新制度でも日本代表として30キャップ以上を獲得した選手は例外的にA-1となる。しかし、28キャップのラファエレ選手はその対象外。A-2に分類され、従来より出場機会が制限される可能性がある。
会見でラファエレ選手は「新制度は自身のような選手に対する侮辱と感じるか」との質問を受けて「侮辱というのは強い言葉だが……制度について初めて聞いた時には、屈辱を味わったように感じた」と語った。
「これだけ日本ラグビーのために献身的に活動していたというのに、こんな措置はないだろう、と思った。
私だけでなく、若いころから日本に来てラグビーをやってきた他の仲間のことも含めて、悲しく思う。
18歳の時、日本の文化を知り日本のラグビーに貢献するつもりで、来日した。しかし、もし(A-1、A-2に区分する)新制度が当時からあったら、おそらく考えを変えていただろう」(ラファエレ選手)
また、ラファエレ選手は「地裁への申し立て後は、選手らにとっては困難な状況だった」と語り、引退を余儀なくされた選手もいる一方で、家族を養うために出場機会を待ち続けている選手もいると語った。
そして、リーグワンが制度改正の理由として「日本人選手の育成」を挙げていることについては、以下のように訴えた。
「子どもたちがラグビーを観て『外国出身の選手が多すぎるからやりたくない』と考えるとは思えない。
(外国出身の選手を減らすことよりも)どうすれば子どもたちがラグビーをやりたくなるか、また適切なコーチングのシステムを考えることのほうが、大事ではないか」(ラファエレ選手)
リーグワン「選手側と和解協議を進めています」弁護士JPニュースの取材に対し、リーグワンからは以下のようなコメントがあった。
「現在リーグワンは、2026-27シーズンから導入する選手登録における追加の登録区分の制度に対し、一部選手らが、東京地方裁判所に制度の施行差し止めの仮処分を求めている件について、選手側と和解協議を進めています。
東京地方裁判所における和解協議の場においては、従前発表した制度ではカテゴリA-2に該当する想定だった一部選手をカテゴリA-1とする見直し案について協議を進めております。
今後、和解協議の結果を踏まえ、制度の見直しの詳細について改めて発表いたします」
会見の最後にラファエレ選手は以下のように語った。
「選手とリーグワンの双方にとって、恩恵のある状況になることを望む。
外国生まれの選手の意見を聞いてほしい。また、国際的なルールに精通した専門家の意見も聞いてほしい。リーグワン自身が、世界的な競争力のあるリーグとなりたいなら、そうすべきだ」(ラファエレ選手)

