公務員ボーナス4年連続増の73万円…「安倍路線」を捨てて霞が関を肥大化させる高市首相の"民間泣かせ"の戦術
■公務員の給与と賞与が増え続けている
公務員の給与と賞与の増加が続いている。6月30日に支給された夏のボーナス(期末・勤勉手当)は、一般職国家公務員(管理職を除く行政職職員、平均32.9歳)の平均支給額で、約73万8500円と、前年夏より約3万1800円、率にして約4.5%増え、4年連続の増加となった。また、8月上旬にも人事院が国会と内閣に勧告する2026年度の給与改定では、月額給与を5年連続で引き上げる方向で調整されている。

月給については2021年度の据え置きから、22年度0.23%増→23年度0.96%増→24年度2.76%増→25年度3.62%増とここ数年で大幅に増えてきた。3%台の引き上げは34年ぶりの高水準だった。また、ボーナスも2021年度の4.30カ月から毎年引き上げられ、25年度は4.65カ月になった。今年度もさらに引き上げられる見込みで、大幅な待遇改善が続くことになる。
政府は物価上昇率を上回る賃金上昇、すなわち実質賃金の上昇を掲げており、公務員給与の引き上げは、消費の増加などにつながり、結果的に民間給与の引き上げの呼水になるとの見方もある。一方で、「民間並み」の引き上げが前提となっている中で、中小企業などが物価上昇を上回る賃上げをなかなか実現できない中にあって、税金が原資である国家公務員の賃上げが先行することに批判的な声も根強い。
■「公務員離れ」に歯止め
一方で長年続いてきた「公務員離れ」を食い止めるためには、給与の引き上げや、残業の圧縮といった待遇の改善が課題になっていた。ここ数年の給与引き上げや、試験制度の改革もあって、国家公務員一般職の採用試験への応募者は、25年度、26年度と2年連続で増加。26年度の応募者は2万6429人と前年度比3.9%増加、下げ止まりが鮮明になってきた。
最も大きかったのは試験制度の変更で、法律など専門知識の試験の代わりに企画立案力などを問う「教養区分」を一般職試験に25年度から導入、この応募者が大幅に増えている。26年度の教養区分の応募者は前年度比49.8%増となった。法学部以外の出身者が受験しやすくなったこともあり、女性の応募者も5.9%増えた。
「キャリア」と呼ばれる総合職の試験でも教養区分の応募者が増えることで、志願者の減少に歯止めがかかってきた。16年度に2万4507人だった総合職志願者は21年度に1万7411人にまで落ち込んでいたが、教養区分受験者が21年度の3084人から25年度には5914人にまで増えたことで、受験者総数は横ばいを維持している。
■次々に新しい役所組織が生まれている
霞が関の公務員といえば、国会対応などのために、やたら残業が多いというイメージが強く、「ブラック職場」として学生に敬遠される一因になっていた。人事院では残業削減に取り組んだほか、育児休業の取得促進など、職場環境の改善を進めた。男性職員の育休取得率は24年度に85.9%に達した。19年度は28%だったというから劇的な改善だ。加えて、給与も民間よりも良いとなれば、公務員志願者が増えるのは当然とも言える。
問題は、少子化によって人口減少が始まっている中で、国家公務員の役割をどうしていくのか、という根本的な考えが定まっていないことだ。復興庁や消費者庁、デジタル庁など次々に新しい役所組織が生まれているが、その流れが高市早苗内閣でも加速している。
防災庁の設置が準備されているほか、国家情報会議、国家情報局、対日外国投資委員会などが矢継ぎ早に設置されることになっている。これに伴って事務局組織も当然増えるわけで、官僚機構は放っておけば肥大化する。言うまでもなく官僚機構は利益を生み出すわけではない。官僚機構の役割をどう設定するのか。それを支える公務員制度をどう再設計するかが問題になる。

■安倍政権とはまるで違う方向性
アベノミクスを掲げた安倍晋三政権では、利益を生み出す民間企業の投資を喚起する成長戦略を掲げ、その柱として「規制改革」を「一丁目一番地」に掲げた。政府の役割を小さくし、民業を圧迫しない「小さな政府」型の構造改革を進めることを目指した必然として「公務員制度改革」が政権の重要課題になった。「事務次官会議」の廃止で官邸主導を実現し、「内閣人事局」の設置で公務員人事に政治介入できるようにしたのも、官僚機構の機能を小さくし、効率化することに主眼があった。
高市首相は安倍首相の後継者を標榜するが、政策の方向性は大きく違う。「戦略17分野」を定め、政府が投資の先鞭を付けることで民間企業を動かす「官民協同」をかかげる。政府、つまり官僚機構が主導権を握って国家予算を投入する積極財政で景気を回復させようという戦術である。明らかに「大きな政府」型の戦略をとっている。そうした中で、かつてのような公務員制度改革の議論がまったく生まれてこないのも必然なのだ。
■人事院による改革を阻む各省庁
だが、膨大な財政赤字を抱える中で(高市内閣はこれも大した問題ではないと感じているようだが)、政府が大盤振る舞いし、官僚組織を肥大化させて、本当に民間活力は生まれてくるのか。
2021年に民間人の女性として人事院総裁になった川本裕子氏は公務員の待遇改善や制度改革に取り組んできた。マッキンゼー・アンド・カンパニーや早稲田大学大学院で民間企業の経営改革戦略などに携わってきただけに、公務員が能力を発揮し、それに応じて評価される仕組みにこだわりはある。例えば一定の資格等級に留まる期間を定めていた「在級期間表」を廃止することで、年次主義を廃した抜擢人事がやりやすくなったとされる。

ところが、最終的な運用は各省庁に任されているため、改革はあまり進んでいない。民間企業では当たり前の能力主義をとろうにも、各省庁の抵抗が激しく、実現が難しいのだ。ボーナスでの業績評価の加算制度などもあるが、実際にその制度を使って評価するかどうかは省庁次第だ。総裁の他に2人いる人事官に4月に新たに就任した菅原晶子氏も経済同友会事務局などで公務員制度改革に携わってきた人物だ。川本総裁とタッグを組んで改革に取り組むとみられるが、高市内閣の主要課題にはなっておらず、公務員制度改革が全省庁で進むかどうかは未知数だ。
■「官業」は失敗を繰り返してきた
人口が本格的に減少し始める中で、中央官庁の国家公務員は何をどこまで担っていくのか。まったくと言ってよいほど議論はない。待遇を改善すれば、当然、総人件費は増えていくし、組織が増えれば公務員の数もなかなか減らない。民間企業でも人手不足が深刻化する中で、本来は民間でできることは民間にやらせる方が、経済合理性は高い。物価の上昇で税収は大きく増えているが、だからといって公務員の数や給与を増やしていけば、かつて言われたような「官尊民卑」の構造に再び戻りかねない。公務員の肥大化が進めば、財政悪化につながるだけでなく、民業を圧迫し、民間の活力を失わせることになりかねない。
民間企業の力が弱っているのを底上げしなければ、日本の国力の衰えも回復できない。どうすれば民間企業が強くなるのか。国が手助けして資金を投じることが民間を強くする道なのか。これまでにも「官業」は失敗を繰り返してきたし、昨今でも「クールジャパンファンド(海外需要開拓支援機構)」の失敗例もある。
国が手を貸すのではなく、民間企業がより自由に活動し、競争に勝っていけるよう規制を撤廃することの方が民間を強くするのではないか。給与増や待遇改善などの小手先の改革にとどまらず、国は何をすべきかという原点に戻って、公務員制度の何を変えるべきか、考える時だろう。
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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
