「仕送りしてほしいの」…75歳母の催促で実家へ駆けつけた息子、〈通帳の引き落とし履歴〉に絶句。年金月15万円を食いつぶした“まさかの正体”【CFPの助言】
「仕送りしてもらえない?」。母から息子にかかってきた1本の電話。本来であれば生活に困るような資産状況ではなかった母が、なぜお金に困る事態に陥ったのか……その理由は、母の通帳に隠されていました。「母さん、これ全部払っているの?」息子が絶句した、その内容とは――。今回は、貯蓄を取り崩しながら“万が一のために”と毎月高額な支払いを続けていた70代女性の例から、CFPの松田聡子氏が「老後の保障」について解説します。
「仕送りしてもらえない?」母からの“まさかの電話”
埼玉県の郊外に建つ一戸建てで一人暮らしをする市川睦子さん(75歳・仮名)は、3年前に夫の清さん(享年77歳)を亡くしました。長く専業主婦として家庭を守り、現在の年金収入は手取りで月15万円ほどです。
長男の哲也さん(50歳・仮名)は新潟県在住の会社員。年収は800万円ありますが、妻は専業主婦、大学生の長男は東京で下宿しており、毎月の仕送りで家計に余裕はありません。そんな哲也さんの携帯に、ある晩、母から電話がかかってきました。
「哲也、実は生活費が足りないの。悪いんだけど、少し仕送りしてもらえないかしら」
哲也さんは耳を疑いました。父は現役時代、大手機械メーカーで管理職としてそれなりに高い給与を得ており、定年退職時には退職金を合わせて3,000万円ほどの蓄えがあったと聞いていました。葬儀費用や自宅のリフォーム、夫婦での旅行などで減ったとはいえ、父が亡くなった時点で少なくとも1,500万円ほど残っていたはずです。
裕福とまではいかなくても、仕送りが必要な状況とは考えられません。親の財布事情を根掘り葉掘り聞くのは気が引けて、詳細を確認しないままでいたことを悔やみつつ、哲也さんは週末に実家へ向かいました。
「母さん、通帳を見せてもらえる?」
渋る睦子さんから受け取った通帳を開いて、哲也さんは絶句しました。
「母さん、これ全部払ってるの?」毎月約10万円の引き落としの正体
A生命2万8,000円、B生命2万5,000円、C生命1万9,000円……。毎月、複数の保険会社への引き落としが並び、合計するとその額は約10万円。年金収入の3分の2が、保険料に消えていたのです。
さらに話を聞くと、保険金の手続きをしてくれた営業担当者に勧められるまま、一時払いの終身保険に加入していたこともわかりました。保険料900万円で死亡保険金1,000万円を受け取れると聞き、清さんの死亡保険金500万円に貯蓄から400万円を加えて支払ったといいます。受取人はもちろん、哲也さんです。
「この保険金があれば、私にもしものことがあっても、あなたが困らないと思って」
昔から加入していた保険は解約せず、更新のたびに保険料が上がっても払い続け、さらに勧められるまま医療保険や認知症保険にも新たに加入していました。貯蓄を取り崩しながら保険料を払い続けた結果、残高は600万円程度まで減り、さすがに不安になって息子に助けを求めたのでした。
「保険金を残すより、母さん自身の生活に使ってほしかったよ」
哲也さんの言葉に、睦子さんは目を伏せながら言いました。
「でも、一人暮らしは不安だし、保険をやめるなんてできないわ」
年金15万円は「平均的な暮らし」には足りていたはず…家計を壊した固定費の正体
睦子さんの家計は、本来であれば破綻するようなものではありませんでした。
総務省「家計調査報告・家計収支編」の2025年(令和7年)平均によると、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月約15万円です。一方、税や社会保険料を差し引いた可処分所得は約12万円で、平均像では月3万円ほどの赤字です。
しかし、手取り15万円の年金がある睦子さんは、平均的な一人暮らしの支出をほぼ年金だけで賄える、恵まれた境遇といえます。その家計を圧迫していたのが、月約10万円の保険料という「固定費」でした。
では、高齢者はどのくらい保険料を払っているのでしょうか。生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査」によると、70代女性の生命保険・個人年金保険の年間払込保険料の平均は13.5万円と、月に直せば1万円強です。睦子さんの保険料は年間約120万円ですから、実に平均の約9倍を払い続けていた計算になります。
同調査では、女性の一時払保険料の平均が428.7万円という結果も出ています。退職金や死亡保険金といった、まとまったお金で一時払いの保険商品に加入するのは、決して睦子さんに限った話ではありません。
なぜ、高齢者は保険に入りすぎてしまうのでしょうか。
背景には、配偶者との死別後の不安や孤独があります。「何かあったときに頼れる人がいない」という心細さは、「保険に入っていれば安心」という気持ちにつながりやすいと考えられます。加えて、死亡保険金の手続きなどで親身に対応してくれた営業担当者からの提案を断りにくいという事情もあるでしょう。さらに睦子さんのように「子どもに残したい」という親心も、加入を後押しします。
また、まとまったお金のある高齢者は、一時払いの保険商品を提案される機会が多いといえます。一時払い終身保険などは解約すれば、期間の経過に応じた解約返戻金を受け取れます。しかし、いざというときに自由に使えるお金が減ってしまうのは問題です。老後の資産管理では、金額以上に入院などの緊急時にすぐ使えるお金の確保が重要なのです。
【FPの助言】「全部解約」ではない…70代の保険の見直し
では、睦子さんのようなケースでは、どう見直せばよいのでしょうか。まず、大切なのは、自分に必要な保障の見極めです。扶養する家族のいない75歳の睦子さんに、大型の死亡保障は原則として必要ありません。
また、医療費についても、75歳以上は後期高齢者医療制度により窓口負担は原則1割で、1ヵ月の自己負担には上限を設ける高額療養費制度もあります(自己負担限度額は2026年8月から一部引き上げられます)。公的保障という土台があることを踏まえれば、民間の医療保険で厚く備える必要性は、現役世代よりずっと小さいはずです。もし、医療保険の保険料負担が過大であれば、解約もしくは特約のみ解約などを検討しましょう。
終身保険や養老保険といった貯蓄性のある保険であれば、「払済保険」への変更で以後の保険料の支払いをゼロにしながら、そのときの解約返戻金に応じた保障を残せます。
一時払い終身保険は多くの場合、契約後すぐに解約すると「元本割れ」しやすくなります。月払いの保険を見直してもなお、保険料の支払いが重い場合、一時払い終身保険の解約も視野に入るでしょう。できれば、解約返戻金が支払った保険料を上回るタイミングが望ましいといえます。
日本では、生命保険の加入率が約8割(生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査」)で、若年層から高齢者まで、多くの人が何らかの保険に加入していると考えられます。しかし、保険は、結婚や子どもの独立、退職、そして配偶者との死別といったライフイベントのたびに見直すのが原則。放置していると知らないうちに不要な保障にお金を払い続けることになりかねません。
とりわけ死別後は、保障のニーズが変わっているにもかかわらず、悲しみや不安の中で契約だけがそのままになりがちです。離れて暮らす親の通帳や保険証券は、帰省の折に一緒に確認してみるようにしましょう。
松田聡子
CFP®

