配偶者が先立つと年金額が減少…タイプ別「100歳までお金が尽きない家計設計」

■備えの第一歩は「自分のタイプ」を知る
老後に備える資産設計で難しいのは「何歳まで生きるか」がわからないことです。平均寿命を目安にしたくなりますが、平均を超えて生きる人は大勢いますし、健康増進や医療・介護の進化で平均寿命そのものも今後ますます延びるでしょう。喜ばしいことではあるものの、「いつまで、いくら備えればいいか」が定まらないというのは、家計設計を難しくしています。
今や多くの人が最後は「おひとりさま」として人生を終えることになります。かつては、多くの人が結婚してマイホームを持ち、子どもを生み育て、高齢になったら子世帯と同居するという典型例にあてはまりました。しかし今は多様化の時代です。未婚も離婚も珍しくありませんし、結婚していても子どもがいない場合や、いても同居しないケースが増えています。住まいにしても、誰もがマイホームを手にするわけではありません。配偶者がいても二人同時に亡くなるわけではありません。各自が自分の状況に応じた老後設計をしなければならないのです。
年金や税金、社会保険や各種手当など老後のお金にまつわる制度やルールは複雑で、知らないと損をすることばかりです。さじを投げたい気持ちにもなるでしょう。ですが、計画を立てずに放っておくと、それは不安とプレッシャーになって、将来、私たちにのしかかるのです。
必要な老後資金は人によって違います。配偶者がいるかいないか、住まいは持ち家か賃貸か、子どもはいるのか、いないのか。条件が変われば備えるべき額も変わります。ですから、まずは自分がどの条件にあてはまるのかを見極めてください。「家計タイプ診断フローチャート(図表1)」をたどると、配偶者の有無/住まい/子どもの有無で3つのケースのいずれかに行き着きます。もちろん、あくまで代表的なケースへの振り分けなので、複数のケースに該当する方は、それぞれの打ち手を組み合わせてください。

次に、今の金融資産と将来受け取れる年金の見込額を確かめてください。金融資産には自宅などの評価額は含めず、現預金と株・投資信託・債券など換金性の高い金融商品の総額を含めます。続いて、老後の家計に毎月いくらの赤字が出るかを算出します。老後の年金収入(見込み)から、月々の生活費を引きます。生活費は「現役時代の生活水準を維持する」と仮定して、現在の生活費で計算してください。
例えば、年金収入が月22万円で家計の支出が月30万円なら、毎月8万円の不足です。この8万円を金融資産から取り崩していくことになります。65歳時点で保有する金融資産が1000万円なら75歳まで取り崩せる計算です(図表2参照)。100歳までお金が尽きないようにするなら、残り25年分の備えとして8万円×25年×12カ月=2400万円を、手当てする必要があります。

ここで気をつけていただきたいのは、夫婦二人の年金額を将来の収入源と想定して、不足額が「思いのほか小さくてすんだ」と胸をなでおろしている人です。配偶者が先立てば、それ以降の受給額は激減してしまいます。子どもに頼ろうにも遠方に住んでいて頼みにくい場合や、そもそも子ども自身の家計に、親を援助できるほどの余裕がない可能性もあります。「今は夫婦で家計が回っているのだし、将来も何とかなるだろう」という油断で、備えが遅れないようにしてほしいのです。
未来に関して、不確定要素はいくらでも挙げられます。物価が上がって生活費が想定以上にかかるかもしれませんし、病気やケガで大きな費用が必要になるかもしれません。考えうるすべてに備えるのも、現実的ではありません。想定よりもほんの少し余裕をもって、備えておければ安心です。
打ち手はいろいろあります。生活スタイルを見直して今よりもお金がかからないように工夫する、もしくは、パートやアルバイトで年金以外の収入を確保して不足分を補うこともできます。ケガや病気には保険で備える方法もあるでしょう。「繰り下げ受給」など年金の受け取り方を変えるだけでも、収入増につなげられます。知っているかどうかで、結果は大きく変わります。
私は税理士として多くのシニアの方の家計相談を受けています。100人いれば100通りの家計と事情がありますが、大切なのはどういうシナリオがありうるのかを知っておくこと。そして、できるだけ早くから準備を始めることです。
試行錯誤があるのは当然ですが、早いうちならたとえ失敗しても、計画を修正し立て直すことができます。残り時間が見えてきたからこそ、設計の効果は大きいです。
配偶者が先立つと年金額が減少
意外な固定費見直しで余裕を生む方法

君島さん夫婦(夫68歳・妻65歳)
子2人(独立・別世帯)/持ち家(戸建て・ローン完済)
●金融資産:1500万円(預金1200万円+新NISA300万円)
●年金:夫17万円(厚生)+妻8万円(国民+厚生少額)
●月支出:約27万円(やや赤字だが貯蓄で補填中)
■年金が月10万円減っても問題ない守りの技術
君島さん夫婦は、夫が68歳、妻が65歳です。子ども2人はそれぞれ独立し、別世帯で暮らしています。住まいは戸建ての持ち家で、住宅ローンは完済済み。年金は夫婦合わせて月25万円、金融資産は1500万円あります。
家計は支出が年金をわずかに上回り月2万円の赤字ですが、1500万円の貯蓄から取り崩せば、約62年は維持できます。100歳までを想定しても貯蓄が尽きる心配はありません。余裕のある備えと言っていいでしょう。
ただし、これは夫婦が揃って暮らしている間だけです。どちらかが先に亡くなれば、年金は1人分になります。収入は細るのに、住まいにかかる費用や固定費は半分になりません。赤字は月2万円では済まなくなります。そこで、どちらかが「おひとりさま」になっても100歳まで家計が回るよう、手立てを考えていきます。
まず、どちらかが亡くなったら年金がどう変わるのかを理解しましょう。君島さんの場合、現在は夫の年金17万円(うち厚生年金10万円)+妻の年金8万円です。ですが「遺族年金」がありますので、単純に夫が先立ったら17万円減る、妻が先立ったら8万円減るというものではありません。

君島さん世帯の場合は、夫が先に亡くなった場合は妻自身の年金に加えて遺族年金(夫の厚生年金の報酬比例部分の4分の3)が出ますので、収入は月15万円ほどになります。夫が健在だった場合に比べ10万円の減額です。
遺族年金の仕組みに関わる注意点として、妻が先立った場合に夫が受け取れる遺族年金は、逆の場合に比べて少なくなることがほとんどです。遺族年金は「主たる稼ぎ手が亡くなった場合のほうが手厚い」仕様になっています。
また、遺族厚生年金は2028年4月から、子のない60歳未満の配偶者を対象に原則5年間の有期給付に移行することが決定しています。28年度末時点で40歳以上となる女性は現行どおり無期給付となりますが、そもそも受給権発生時に60歳以上である君島さん夫婦のようなシニア世代は、この制度改正の影響を受けず、従来どおり無期給付が適用されます。
さて、夫が先に亡くなると君島さん世帯の家計における赤字額は、生活費などを据え置いた単純計算で、月2万円から月12万円に増えます。貯蓄1500万円を取り崩すペースは早まって、約10・4年(約125カ月分)になってしまいます。仮に今すぐ夫が亡くなってしまうと、妻が75歳の年には貯蓄が底をついてしまう計算です。
収入が減るのであれば、出ていくお金を絞るのが、てっとり早い解決法です。効果的なのは毎月決まった額が自動で出ていく「固定費」の見直しです。具体的には携帯料金、保険、車関連費、サブスクなどが挙げられるでしょう。
例えば携帯料金ですが、3大キャリア(ドコモ、au、ソフトバンク)を使っている世帯はオンライン専用プラン(ahamo、povoなど)や格安SIM(mineoやIIJmioなど)に変えるだけで、かなりの節約になります。
電気料金も、契約会社を変えるだけで節約できる可能性があります。新電力に切り替えても送電網は同じなので、品質は変わりません。検討する価値は十分にあるでしょう。
保険も見直しの効果が大きい項目です。何にどれだけ備えるかは人それぞれの考え方ですから一律に「いくら安くなる」とは言えませんが、定期的に見直してみると「この保障はいらないのではないか」と思える契約が見つかるものです。子どもが独立し住宅ローンも終わっているなら、現役時代ほど大きな死亡保障は必要ありません。先ほど計算した遺族年金の落差を踏まえて遺される配偶者にいくら遺す必要があるのかを見積もりを出し直すと、保障を必要な分に絞れて毎月の保険料を下げられるかもしれません。
生命保険には「入院費用に備える」特約が付いている場合もありますが、君島さんの貯蓄規模からして、数日の入院費用なら自腹を切ってもその後の暮らしに及ぶ影響は限定的です。少額の医療費に保険で備えると割高になるので「医療保険で大病や長期入院にのみ備える」といった割り切りができれば、保険料は圧縮できます。
車は地域によっては生活に欠かせませんが、通勤に電車やバスを使い、車は休日しか乗らない世帯も多いはずです。自動車税、任意保険料、車検代、駐車場代、ガソリン代を合わせれば、普通車の維持費は年間40万円を超えます。休日の外出がレンタカーやカーシェアで足りるなら、車を手放す選択肢もありえます。利用料を払っても、年間数十万円の節約が見込めます。
見落としがちなのが、使っていないのに解約していないサブスクです。動画・音楽配信や漫画読み放題、クラウドストレージなどはないでしょうか。とくにお試し無料キャンペーンに申し込んだまま有料契約に移行しているものや、携帯料金とセットで引き落とされるものは気づきにくいので要注意です。目安として「2カ月使っていないものはいったん解約する」と決めておくと、整理が進みます。
夫婦共に元気なうちにやっておきたいのが、お互いのお金の棚卸しです。通帳のないネット銀行やネット証券も増え、家族が資産の所在を把握しにくくなっています。配偶者が突然亡くなったとき、どこにいくらあるのかわからず、請求もできない。そうした事態が実際に起きています。
とくにiDeCoは注意が必要です。加入者が亡くなると、遺族が死亡一時金として受け取れますが、請求できるのは5年以内。これを過ぎると相続財産の扱いとなり、手続きが複雑になるうえ、税の優遇も受けられなくなります。金融機関名や口座の種類を一覧にして、保管場所を家族に伝えておきましょう。あわせて、加給年金や振替加算の対象になっていないかも確認を。届け出をしていないだけで、お金を取りこぼすこともあります。
最後に、持ち家の「出口」について考えてみましょう。持ち家は大きな資産ですが、住み続ければ維持費も修繕費もかかります。子どもに相続したい意向があるのかも確認しつつ、元気なうちに「このまま老後も住み続けるのか」「売却して住み替えるのか」を考えておいたほうが賢明です。住み替えるなら、駅近のコンパクトなマンションに移る手があります。不動産価格が上昇していますので、売却益が出れば、そのぶんを老後の資金に回せます。
持ち家を担保に資金を借りる「リバースモーゲージ」や持ち家を売って家賃を払い住み続ける「リースバック」という手段もありますが、前者は金利や契約条件による差が大きく、後者は売却価格や家賃をめぐるトラブルが多く消費者庁も注意を促しています。いずれも条件をよく確認する必要があり、積極的にはお勧めしていません。ただし、リバースモーゲージは自宅を相続させる相手がいない方にとっては検討の余地があります。
固定費を見直せば、月4万〜5万円は圧縮できるでしょう。妻が遺されて以降の支出は月18万円ほど。年金15万円に月3万円の取り崩しを足す家計です。年間の取り崩しは36万円ですから、貯蓄の1500万円は100歳を超えても残ります。しかも、今から見直せば夫婦で暮らしている間の取り崩しも減りますから、資産はその分だけ長持ちします。夫婦でいる今のうちに出ていくお金を絞っておけば、一人になっても家計は回るのです。

税理士。シニアマネーコンサルタント。2005年に税理士事務所を開業。女性税理士の組織、ウーマン・タックス代表を務める。著書に『知らないと大損する! 定年前後のお金の正解 改訂版』(ダイヤモンド社)、『女税理士が教える 女性のための自分の資産のつくり方』(BOW & PARTNERS)など多数。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年8月14日号)の一部を再編集したものです。
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板倉 京(いたくら・みやこ)
税理士、マネージャーナリスト
保険会社・財産コンサルティング会社、税理士法人等で税理士業務に携わる。開業独立している女性税理士の組織、ウーマン・タックス代表。テレビ出演や全国での講演、書籍の執筆などの活動も多数。著書に『夫に読ませたくない相続の教科書』(文春新書)、『定年前後のお金の正解』(ダイヤモンド社)など。
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(税理士、マネージャーナリスト 板倉 京 構成=渡辺一朗 図版作成=大橋昭一 イラストレーション=タカセマサヒロ)
