「中国のAIを世界の公共財にする」習近平が目論む新世界の形…すでに一部のアメリカ製を凌駕し始めた中国製AIの「恐るべき躍進」
習近平国家主席の宣言の意味
7月17日、中国の習近平国家主席は、上海で開催された世界人工知能大会(WAIC)に出席しスピーチを行った。2018年の創設以降、国家主席自ら大会に参加したのは今回が初めてだ。
開幕の演説で習氏は、「中国企業が開発するオープンソースのAIは、“またとない歴史的機会”だ」と述べた。この発言の趣旨は、中国は米国を上回る世界トップのAI強国の座を目指すと宣言したということだろう。
ここへ来て、中国では、AI分野の資金調達や新たな推論モデル開発が急増した。
上半期だけで、中国AI開発企業の資金調達総額は3000億元(約7.2兆円)を突破し、2025年通年を上回ったようだ。AI分野で“4つの龍(四小龍)”と呼ばれる、ディープシーク、智譜、ミニマックス、ムーンショットAIの企業価値評価額は総額で、1兆元(約24兆円)を超えたとみられる。
中華AIモデルの急増に伴い、関連産業の成長も加速している。コロナショックの影響や、習政権によるIT先端企業への締め付けで、昨年まで中国の新規株式公開(IPO)は停滞気味だった。
ところが今年は一転して、IPO件数は2023年以降で最多になると予想されている。半導体産業でもメモリーメーカーなどが成長した。いずれも、世界のAI大国をめざし、米国を凌駕するという中国政府の国家戦略に従った動きだ。
今後も習政権は、AIや半導体の開発、生産を強力に支援し、世界シェア拡大に積極的に取り組むだろう。それに伴い、世界的に最新推論モデルの価格競争は、一段と激化すると予想される。
AI開発に必要な半導体に関しても、中国勢の供給増で不足感が薄らぐかもしれない。中国のAI強国戦略で、世界の経済環境や金融市場に不安定感は高まる恐れがある。
世界のAI大国を目指す中国
習近平国家主席は、「中国のオープンソースモデルを世界の公共財にする」と高らかに宣言した。同氏が国際会議の場で、米国を上回る世界トップのAI大国になり、開発や利用の国際規格・ルール策定を主導する決意を表明したことは重要だ。世界のAI業界に与える影響は大きい。
2022年11月末、オープンAIがチャットGPTを発表して以降、米国企業が推論モデル開発、画像処理半導体(GPU)などの設計・開発で優位性を発揮した。
ところが、2025年1月、中国のディープシークが低コスト・高性能の“R1”を発表すると、米国の絶対的優位の状況は変化した。AI分野で、中国勢の追い上げが急速であることが明らかになった。米外交問題評議会(CFR)などの推計によると、足許、米中のAI推論モデル開発の差は、時間換算で半年程度に縮小したようだ。
モデルによっては、米国と互角、それ以上の中華AIもあるようだ。こうした推論モデル開発、それに必要なチップ生産を、習政権は国家の総力を挙げて支援している。強力な政府の支援もあり、中国はAIの加速度的な成長を実現しつつある。AIの成長は、素材から工作機械、再生可能エネルギー利用と経済構造を大きく変える力を持つ。そのインパクトは大きい。
習政権は、グローバルサウスの新興国や途上国のAIインフラ需要の獲得も重視しているようだ。
上海AI会議の演説にあるように、中国は、オープン型の推論モデル開発を重視している。それをグローバルサウスに提供し、各国のソブリンクラウド(他国の干渉を排除し、自国内でデータを厳格に管理する仕組み)運営を先導する。AIの安全性規格など国際ルールの形成も中国が主導し、経済から安全保障まで幅広い分野で国際影響力を高める。今回のAI会議で習氏はそうした構想を表明した。
米国猛追のAI企業群「四小龍」
今回、習氏自らAI大国を目指す意思を表明したことは、AIの世紀の世界秩序を中国が主導するという、いわば“AI時代の中華思想宣言”といえる。
習政権のAI国家戦略に従い、中国のAI関連企業の資金調達や、新たなモデル開発は“秒進分歩”の勢いで加速している。特に、AI開発企業は相次いで資金調達を行い、新たな推論モデルを競うようにして公開するようになった。
特に注目を集めているのは、“四小龍”と呼ばれる有力AI開発スタートアップ企業だ。
まず、1月、智譜(ジープー)AIは香港株式市場に新規上場(IPO)を果たした。調達額は、約43億香港ドル(約650億円)、時価総額は1兆円程度で取引を開始した。7月、ジープーAIは第三者割当増資も実施した。また、1月にミニマックスも香港市場に上場した。
6月、ディープシークは、はじめての外部資金調達を完了した。調達額は日本円に直すと1兆2000億円と報じられた。企業価値の評価額500億ドル(8兆円)を超えたようだ。
中国の政府系ファンド、テンセント、車載用バッテリー最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)などが資金を提供した。7月も同規模の資金調達計画があるようだ。来年の年初にかけて、ディープシークが上海証券市場の新興市場である、“科創板”に上場を果たすとの観測も高まった。
ムーンショットAIも、積極的に資金調達を行っている。6月、20億ドル(約3200億円)を調達し、7月にも追加で20億ドルの資金を調達した模様だ。昨年12月時点で40億ドル程度だった同社の企業価値は、7月の資金調達ラウンドで300億ドル(約4.8兆円)、7倍超に増加したという。資金調達にはアリババ、テンセント、フードデリバリー大手の美団などが応じた。
個別企業レベルでみると、米国勢より中国AI開発企業の方が、資金調達ペースは急速と指摘する金融の専門家もいる。
こうした中国のAIモデルの開発加速の背景には、半導体関連企業の成長の寄与もある。同時に、中国のAI関連企業の急成長は、世界の株式市場に無視できない影響を与えるだろう。
つづく記事〈半導体一極集中相場が迎える、さらなる「大調整の日」…中国・習近平の“AI強国宣言”で半導体の過剰生産がスタートか〉で、詳しく解説する。
【つづきを読む】半導体一極集中相場が迎える、さらなる「大調整の日」…中国・習近平の”AI強国宣言”で半導体の過剰生産がスタートか

