10月の総選挙後、ネタニヤフ政権は存続できるか(AFP=時事)

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 イランやパレスチナ、レバノンなど戦火が続く中東情勢を左右することになると見られるのが、10月に予定されているイスラエルの総選挙だ。国際政治学者の舛添要一氏は、11月に中間選挙を迎えるトランプ米大統領と、10月に総選挙を迎えるイスラエルのネタニヤフ首相は「戦争継続への思惑が異なる」と分析する。イスラエルの最新世論調査結果をもとに、舛添氏がネタニヤフ政権の行方を占う。

【写真】中東での戦争継続で思惑が異なるトランプとネタニヤフ

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 7月17日、イスラエルの国会(定数120)は解散し、10月27日に総選挙となる。長期政権を維持してきたネタニヤフ首相が勝って続投するのかどうかが最大の焦点である。2023年10月にハマスから越境攻撃を受け、多数の犠牲者が出た責任を追及する声は消えていない。また、イラン戦争も成果を上げているとは言えない。今のネタニヤフ政権は、自身が党首を務めるリクードと、保守派や宗教政党との連立政権である。総選挙の結果は、連立の枠組みにも大きな影響を及ぼす。

国際法にもオスロ合意にも反するネタニヤフの攻勢

 イスラエルは3月2日、レバノン南部のシーア派イスラム武装組織ヒズボラへの攻撃を開始した。レバノンのメディアによると、これまでに4300人以上が死亡し、約1万2000人が負傷している。両者の間で4月17日に10日間の停戦合意が発効したが、戦闘はその後も続いた。

 ヒズボラを支援するイランは2月からアメリカの攻撃を受けていたが、「レバノンでの停戦が、アメリカとイランの停戦を実現させるための条件」としていた。イスラエルがレバノンとの停戦に合意したのは、イランとの停戦を模索していたトランプ米大統領からの圧力によるものである。

 しかし、ネタニヤフ首相は、ヒズボラを徹底的に攻撃するようにイスラエル軍に命じた(6月19日にも新たな停戦合意が発効したが、その後も戦闘は続いている)。

 またイスラエルは、2026年5月26日、パレスチナ・ガザを実効支配するハマスの軍事部門の新司令官ムハンマド・オデを殺害した。5月15日には前任者のエゼディン・アル・ハダト司令官も空爆で殺害している。ネタニヤフは、「10月7日の虐殺の首謀者を全て排除する」と宣言した。ガザでは、イスラエルの報復によって、すでに7万2800人以上が死亡した。

 ヨルダン川西岸は、アッバス議長が率いる「ファタハ」が主導するパレスチナ自治政府が管轄している。この地にユダヤ人が入植し続けて、パレスチナ人を追放しており、小競り合いが続いているが、この入植は国際法違反であるとともに、1993年のオスロ合意にも反するものである。

 1996年5月の初めての首相公選でネタニヤフが当選し、ユダヤ人の入植を増大させた。入植は進んでおり、イスラエル軍が入植するユダヤ人保護のために介入している。ネタニヤフ政権のスモトリッチ財務相らの極右政治家は、ユダヤ人の入植を強力に支援し、「パレスチナ国家構想を葬り去る」と公言している。

 この地区の総人口は380万人で、パレスチナ人が8割、イスラエル入植者が2割である。

 イスラエルの強硬派は、ガザからもヨルダン川西岸からもパレスチナ人を追い出し、ユダヤ人の居住地にしようとしている。

「選挙を前に」思惑が異なるネタニヤフとトランプ

 10月の総選挙は、ハマスによる2023年10月の越境テロ以来の国会選挙である。ネタニヤフ連立政権が過半数を維持できるかどうかは不明であるが、この選挙を念頭にネタニヤフはイランやヒズボラへの攻撃を強化している。

 ネタニヤフは、2022年12月に政権に復帰したが、2019年には汚職などの罪で起訴されている。しかし、首相であるかぎりは起訴されても、有罪が確定するまでは首相を辞任する義務はない。だからネタニヤフは、何としても政権を維持したいのである。

 2023年、政権に復帰したネタニヤフは最高裁の決定を国会が覆すことができるようにする司法改革を強行した。

 最高裁は政府の決定や人事を「合理性」を基準に取り消す権限を有していたが、ネタニヤフはこれを奪った。また、司法が違憲とした法律を国会の過半数で覆すことのできる仕組み(オーバーライド条項)を導入した。さらに、裁判官の任命権を政府が握った。この改革は、三権分立を否定するものとして大きな批判が巻き起こった。

 しかし、2023年7月24日に、司法制度改革関連法案は国会で可決された。リクードと連立を組む極右政党は、ユダヤ人入植に疑義を唱えてきた司法の権限を抑制しようとしたのである。2024年1月1日、最高裁は、司法制度改革法は無効だとする判断を下している。

 2026年6月1日の米・イスラエルの電話首脳会談で、トランプはレバノン攻撃を強化するネタニヤフを「狂っている。皆がお前を憎んでいる。お前は孤立する」と罵倒したが、それでもネタニヤフはレバノン攻撃を続けている。その姿勢をイスラエル国民も支持している。

 中間選挙を前にして、早期停戦を狙うトランプと、総選挙を念頭に戦争を止めないネタニヤフの思惑は異なる。

 バンス米副大統領は、7月15日、イスラエル政府の一部関係者が、イランとの和平合意に反対するようにアメリカの世論を誘導しようとしたと明らかにしている。

 強硬なネタニヤフの姿勢を支持する福音派やユダヤ・ロビーの動向を考えれば、トランプとしてもネタニヤフ叩きを続けるわけにもいかない。そのため、イランとの停戦は見通せない。

ネタニヤフ政権の劣勢を伝える世論調査結果が意味するもの

 最近の各種世論調査によると、ネタニヤフの支持率は29〜34%台で低迷している。政党別でも、リクードの獲得議席予想は22〜28議席程度である。

 イスラエルの国会(クネセット)は、一院制で全国1区の完全比例代表制である。そのため、単独過半数(61議席以上)を獲得する政党がなく、常に連立政権を組むことになる。

 6月中旬のヘブライ大学の世論調査では、ネタニヤフ支持率は29.4%であった。3月初旬の40.5%から大幅に下落している。

 イスラエルの公共放送KANが、総選挙について7月12日に公表した世論調査によれば、獲得議席予想はアイゼンコット元軍参謀総長が率いる中道政党「ヤシャル(「まっすぐ」の意味)」が24議席、ネタニヤフのリクードが23議席という結果であった。

 また、民放テレビ「チャンネル12」の13日の世論調査によると、支持率はアイゼンコットが43%であるのに対し、ネタニヤフが34%と劣勢である。政党別でも、獲得議席予想はヤシャルが23議席、リクードが22議席、ベネット元首相が率いる中道右派「ベヤハド」が16議席である。同調査の結果では、ネタニヤフの連立与党は51議席で、野党が59議席になると予想されている(残る10議席はアラブ系諸派)。

 さらに、有力紙「マアリブ(Maariv)」が17日に公表した世論調査によれば、リクードとヤシャルが22議席で並んだ。

 地域別では、北部でネタニヤフの支持率が下がっている。北部には、全有権者の約2割が居住しているが、リクード支持は23%であり、これは2022年の選挙時の35%から低下している。

 北部はヒズボラによる攻撃で被害を受けており、そのことが支持率の低下に繋がっているようだ。ネタニヤフは、トランプからの圧力でレバノンと停戦合意を結んだが、この地域の住民はヒズボラに対抗するための強硬策を望んでいる。

 与野党が拮抗する状態であり、10月の総選挙の予測は立たない。先述したように、汚職で起訴されているネタニヤフは、何としても勝つ必要があるのである。様々な形の連立政権を組み、長期政権を維持してきた「連立の魔術師」ネタニヤフの正念場である。

【プロフィール】
舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。 2001年に参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。