テキサス州にスペースX城下町「スターベース市」誕生から1年、雇用や観光客増加など恩恵の一方で…
打ち上げの騒音と振動に周辺住民は反発
米国テキサス州南部に位置する宇宙企業スペースXのロケット開発拠点「スターベース」が、同じ名前の新たな自治体「スターベース市」となってから1年がたった。
巨大企業の「お膝元」として雇用や観光客の増加などの恩恵を受ける一方、打ち上げに伴う騒音や振動で周辺住民の反発を招くなど、「光と影」が鮮明になっている。(米テキサス州スターベース市 中根圭一、写真も)
火星移住の拠点
メキシコ国境付近の空港からメキシコ湾に向けて車で30分ほど走ると、スペースXのロゴを掲げたガラス張りのビルが現れる。その先には大型宇宙船「スターシップ」の発射台があり、打ち上げ前には一目見ようと観光客が押し寄せる。

16日の飛行試験は中止となったが、市の隣町にあるホテル「ラ・コパ・イン」は146室がほぼ満室だった。ベロニカ・ガラビス総支配人(34)は「市に変わってから、宿泊客は3割以上増えた」と話した。
企業城下町のスターベース市が誕生したのは2025年5月。スペースXを率いる実業家イーロン・マスク氏が火星移住に向けた最前線の拠点を作ろうと自治体構想を打ち出し、25年の住民投票で賛成212票、反対6票の大差で市の設立を承認。テキサス州キャメロン郡の中にある、開発拠点を含む約400ヘクタールが新たな「市」として分離された。約500人の住民の多くをスペースX社員や家族が占める。市委員会が予算編成の権限を持つが、構成する市長や委員は同社幹部や元社員だ。

市の発足後、道路の拡張工事や宇宙船開発、打ち上げ施設の改修が進む。経済効果は130億ドル(約2兆円)ともされる。タクシー運転手マリオ・チャベスさん(31)は「人口が増えれば仕事が増え、賃金も上がるはず」と期待を寄せる。
「社員はテスラ車で自宅と往復するだけ、触れ合いがない」
最大の懸念は騒音と振動だ。今年4月、市外の住民約80人がスペースXを相手取って連邦裁判所に提訴した。2023〜25年の11回の飛行試験で発生した爆音や衝撃波で住宅の壁に亀裂が生じ、窓ガラスなどが破損したとして、同社の責任を追及している。
一方、開発を急ぐスペースXは、米連邦航空局の許可を得てロケット打ち上げを年25回に増やす方針で、市も追認する姿勢だ。
建設現場での事故対応も問題視されている。5月に下請け作業員が死亡する事故が起きたが、市は原因調査に乗り出さず、企業寄りの行政運営だと批判されている。隣町に住むジェイニー・ロドリゲスさん(69)は「社員はテスラ製の車で自宅と会社を往復するだけで、触れ合う機会はない」と不信感を募らせている。
企業城下町の問題に詳しいカリフォルニア大ロサンゼルス校のブライアン・ハイスミス准教授は、「企業主導の自治体運営は、企業に不都合な問題が政策に反映されにくくなる。周辺住民や作業員ら立場の弱い人の声を反映させる新たな規制が必要だ」と指摘する。

