パリッコ 十条「J.J.ぽっち」の「豚バラ肉のマヨピザ」

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地下鉄三田線の志村坂上駅近くで開催される出版パーティの前に、飲み友達のスズキナオさんと事前に集まって軽く“アップ”をすることになった。志村坂上からそう遠くないJR埼京線の十条駅に集合し商店街を歩いていたら、かねてより複数の飲み友達からすごい店だという噂を聞いていた「J.J.ぽっち」が営業中だった。これはもう行くしかない。

文筆家の藤岡みなみさんが編集をつとめた文庫本『超個人的時間旅行』の刊行記念パーティがあった。

タイムトラベル好きが高じ、世にも珍しい「タイムトラベル専門書店 utouto」なるお店まで経営している藤岡さんが、かつて作ったZINE2冊の内容をまとめた本。25人のエッセイストが、SFの世界ではななく、むしろ現実のなかで不思議に伸び縮みする時間もまたタイムトラベルである、というテーマの文章を思い思いに綴っていて、それぞれの視点がとてもおもしろい。

そんな本に、光栄なことに僕も参加させてもらっており、地下鉄三田線の志村坂上駅近くにあるutoutoで行われる藤岡さん主催のパーティにご招待いただいたというわけだ。出版記念パーティなどと聞くとかしこまった場のように思えて緊張するけれど、参加予定者のなかには知人もちらほらいるから、そこを頼ればなんとか過ごせそうな気もする。なにより、そのなかには飲み友達のスズキナオさんもいる。きっと似たような気持ちであろうと推測されるナオさんに声をかけてみたところ、じゃあ事前に集まって軽く“アップ”をしておきましょう、ということになった。アップとはつまり、0次会だ。

場所はどこでもよかったんだけど、志村坂上から遠くない範囲で楽しそうな街ということで、JR埼京線の十条駅に集合した。十条は、商店街のなかに大衆劇場「篠原演芸場」があったり、日本屈指の名酒場「斎藤酒場」があったり、バングラデシュ人の集うエリア「リトル・ダッカ」があったりと、なんだか雑多なパワーあふれる大好きな街だ。

駅周辺にいくつかある商店街を散策しつつ、まずは銭湯「十条湯」でひとっ風呂。ここは、母体は昔ながらの銭湯なんだけど、併設の「喫茶スペース深海」が近年リニューアルされ、そのレトロさがSNS映えすると若い女性を中心に大人気となっている。入り口ののれんをくぐると右手に浴場への入口があり、左側の喫茶スペースはカラフルなクリームソーダや喫茶メニューを楽しむお客さんで満員で、一種異様な雰囲気だがそれが楽しい。

気分さっぱりになったところで、いよいよ飲める店を探そう。ただ、時間はまだ午後3過ぎで、そんなに選択肢は多くない。まぁ、チェーン店でもなんでも、と思いながら歩いていたら、かねてより複数の飲み友達からすごい店だという噂を聞いていた「J.J.ぽっち」が営業中だった。これは行くしかない。

いきなり耳馴染みのない固有名詞が登場し困惑している方もいるかもしれないが、J.J.ぽっちとは、そういう名前の個人経営の酒場。土日は午後1時半、平日は2時から夜まで通しで営業してくれているという、とてもありがたい店だ。看板には「joyful ジューシー & ジュージュー」というキャッチフレーズが書かれていて、それを縮めてJ.J.ということなのだろう。と思って入店し、席に着くとメニュー表には「ジョイフル & ジューシー ジュージュー」とある。区切りの位置が移動している。そもそもどちらにしろ「J.J.J.」じゃないのか。この時点でJ.J.がなんの略なのか混乱するうえ、もしかしたら“十条”もかかっているのかもしれないと考えだしたら、収集がつかない。よく考えたら“ぽっち”もなんだんだ。なんだかそっちのほうが気になってきたぞ……。ただ。ひとつだけ言えることは、こういうつっこみどころのある店が、僕は好きだということ。

店内は広々としていて、居酒屋というよりはレストランに近い雰囲気。壁が無垢の板張りで、今風のDIY感もある。奥の厨房で男性が黙々と料理を作り、フロアはこの時間、女性の店員さんがひとりで担当されているようだ。

まず驚くのは値段のリーズナブルさ。我々の愛する「酎ハイ」が税込198円。レモンサワーは209円。生ビールは319円。ホッピーセットは429円。ナカは198円。

続いてフードメニューの豊富さ。名物のひとつ、焼鳥、やきとんから始まり、鮮魚、煮込み料理、揚げもの、一品料理、アヒージョやハンバーグなどの洋食、8種類もあるハンバーガー、ピザ、パスタ、丼ものに釜飯にデザートと、選択肢がありすぎて頭がくらくらしてくる。一例を出せば、焼鳥ややきとんは1本88円、ピザやパスタが429円〜と、これまた異常に安い。ナオさんと、まずは風呂あがりの生ビールで乾杯しつつ、しばしメニューに夢中になった。

ところで、我々が出会ったのはもう十数年前の30代の初めくらいだったろうか。昨今は外食価格の上昇にも麻痺気味になってしまっているが、そういえば当時は、こういうウソみたいな値段設定の個人経営の酒場がまだまだあった。そんな思い出話をしていたら、なんだかそれこそ、ちょっとしたタイムトラベルをしている気分になる。

つまみは「まぐろとブロッコリーのワサビマヨ」(429円)、「キャベツのオーブン焼き ペペロンチーノソース」(319円)、「豚バラ肉のマヨピザ」(429円)を選んでみた。

まずやってきた、まぐろとブロッコリーのワサビマヨがとてもいい。フリルレタスの上に、ブロッコリー、玉ねぎ、そしてまぐろのぶつ切りがたっぷりとのり、一見フレンチドレッシング風のソースであえてあるように見える。ところが食べてみると、マヨネーズ、ごま油、塩などが味の主体と思われ、洋風の見た目と大衆的な味わいのギャップがおもしろいし、まぐろや野菜がちゃんとうまい。

キャベツのオーブン焼きは、円形のグラタン皿にキャベツをぎゅっと詰めてグリルで焼いたもののようで、葉のはしが黒く焦げているのが食欲をそそる。香ばしくて甘く、ペペロンチーノソースとの相性が文句なしだ。

ピザは、マルゲリータやミックスなどの王道から、エビマヨ、じゃこジェノバなどの変わり種まで7種類あって、すべて429円。せっかくだから珍しいものをと頼んでみた、こってり系の豚バラ肉のマヨピザが、有無を言わせぬ説得力のある一品だった。

まず、この値段にして、なんと生地が自家製。クリスピーというよりは、ふわりとしたフチ部分が食べごたえのあるタイプで、こんがりと焼かれたさくふわのそれ自体が絶品だ。そこにのるのは、たっぷりの豚ばら肉、刻みねぎ、チーズ、マヨネーズ。味の第一印象は和風の照りマヨ味だが、よくあるチキンよりもじゅわりとオイリーで、いわゆる背徳系の味がする。

ふたりとも小食なこともあって、つまみはこれでじゅうぶん満足してしまい、あらためて値段を見返して申し訳なくなるくらいだった。そのぶん、おかわりしたホッピーはぐいぐいとすすんだが。

店内のBGMは有線と思われる、僕らが若かりしころのJ-POPが中心だった。せっかく大阪からやって来たナオさんと飲んでいるのに、途中からほとんどの時間を「次に流れる曲当てゲーム」に費やしてしまい、しかも一度たりとも当たることはなかったが、とても楽しかったので良しとしよう。

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次回第52回は2026年7月23日(木)17時公開予定です。

Credit:
文・イラスト=パリッコ