【医師が警告】梅雨に急増する「耳カビ」の恐怖…イヤホンつけっぱなしが生む″現代病″の中身

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「綿棒を使いすぎ」こそが悪化を招く発端

〈毎日何時間もイヤホンをつけて音楽を聴いている〉

〈お風呂上がりの綿棒での耳掃除が日課だ〉

そんな何気ない日常の習慣が、あなたの耳を「カビの温床」にしているかもしれない。高温多湿となる梅雨の時期に急増する「外耳道真菌症」、通称「耳カビ」。耳の中で真菌(カビ)が繁殖すると、強烈な痒みや痛み、最悪の場合は難聴を引き起こすという。

背景にあるのはイヤホンの長時間使用という、現代ならではの生活習慣だ。心地よい音楽を聴きながらのテレワークの裏で、知らず知らずのうちに私たちの耳の中で真菌の繁殖が進行する恐るべきメカニズムとは──。

カビは、耳の中の高温多湿の環境によるほんの少しの痒みから始まる。その発生メカニズムについて、慶友銀座クリニック(東京都中央区)の大場俊彦院長(62歳)は次のように解説する(以下「」内はすべて大場医師の発言)。

「梅雨の時期は高温多湿になりやすく、耳の中も汗をかきます。外耳道の入り口付近よりに『アポクリン腺』という汗腺があり、汗をかくと耳が痒くなりやすい」

痒みを抑えようと無意識に綿棒などで耳掃除をしてしまう人は少なくない。だが、実は綿棒の過度の使用が悪化を招くという。綿棒の摩擦で薄い皮膚に傷がついて炎症が起きると、そこからカビの栄養となる浸出液が出てしまうのだ。

そして近年、この耳カビを爆発的に増やしているのがイヤホンだ。NTTソノリティ株式会社が’23年6月に実施した「イヤホンヘッドホンの長時間使用と”イヤホン蒸れ”に関する調査」によれば、コロナ禍以降のテレワークなどの普及により、全体の約3割(31.2%)の人が「イヤホンの使用時間が増えた」と回答している。

とりわけ20代から40代の働き盛り世代では約4割以上が長時間化しており、1日の平均使用時間が3時間を超える人が1割以上(13.2%)に上るなど、長時間イヤホンをつけっぱなしにする若者や社会人が急増しているのだ。とりわけ近年主流となっている、耳の奥まで差し込むカナル型イヤホンは、遮音性が高い反面、耳の中を完全に密閉してしまう。

絶対NG! 間違った自己ケアと「菌交代現象」の恐怖

「電車の中はもちろん、在宅勤務中に音楽を聴きながら作業をしている人など、イヤホンをつけている時間が昔に比べて極端に長くなっています。夏場も長時間つけている人が多いですよね。音質を重視したイヤホンって、どうしても耳の奥まで入れるカナル型が多いんです。

イヤホンを奥まで差し込むことで、密閉度が増しますが、外耳道も傷つきやすくなる。しかも先端にウレタンのような柔らかいフォーム素材が使われており、これがまた耳の中の湿気を抱え込みやすいのです。密閉性が高いほど音はよくなるのですが、そのぶん耳の中が高温多湿になりやすい。入り込んだ細菌やカビが爆発的に増えるための絶好の環境ができてしまうんです」

狭い密閉空間に湿気と温度、そしてイヤホンの”フタ”が合わさることで、耳の中はあっという間にカビの培養庫となってしまうのである。日常的にイヤホンを使う現代人にとって、耳カビは「現代病」なのだ。

耳が痒いとつい、綿棒に手が伸びてしまう。お風呂上がりの日課にしている人も多いだろう。しかし、これこそが最大のNG行動だと大場医師は言う。

「人間の耳はもともと、垢(あか)取りをしなくていいつくりになっているのです。というのも、耳垢自体に耳の中をコーティングして守る防御機能が備わっているからです。

放っておいてもベルトコンベアのように、自然と中から外へと押し出す機能まで持っています。しかし綿棒を使って耳垢を取り過ぎてしまうと、外耳道を傷め、またこのコーティングによる防御機能が失われて炎症を起こしやすくなります。海外では、耳垢を取るのに綿棒を奥まで入れることは基本的にダメだとされています。

綿棒によってできた傷と栄養分に、季節的な汗やイヤホンによる密閉環境が加わることで、もともと耳の中に潜んでいて普段は悪さをしない細菌やカビのスイッチが入り、爆発的に増殖してしまうという悪循環に陥ります。そのため梅雨の時期は、耳カビの患者数が1.2〜1.5倍に増えますね。そうならないためには、『耳掃除をしない』のが一番です

さらに恐ろしいのが、抗生物質の安易な使用が引き金となって耳の状態を悪化させてしまう『菌交代現象』だ。内科でとりあえず処方された抗生物質を使ったり、過去にもらった薬を自己判断で漫然と使い続けたりすると、耳の中の菌のバランスが崩れ、かえって症状が重くなることがある。

「最初はただの外耳道湿疹や痒みから始まります。そこで綿棒などを使うことで炎症が起きて外耳炎になる。ここで痛いからと安易に抗生物質を使ってしまうと、耳の中の『良い菌』も『悪い菌』も殺してしまい、もともと保たれていた菌のバランスが崩れてしまいます。これを『菌交代現象』と言います」

耳の中には抗生物質が効かない「耐性菌」などの非常に強い細菌や、カビ(真菌)がもともと潜んでいる。しかし普段は他の菌とのバランスで悪さをしないよう抑え込まれているのだという。

「無闇に抗生物質を使うとどうなるか。薬で死ななかった強い細菌のスイッチが入り、一気に暴れ出して炎症が手に負えなくなることがあります。抗生物質は細菌を殺せても、カビ(真菌)には全く効きません。結果として、炎症から出る浸出液が栄養となり、カビにとって絶好の繁殖環境を作ってしまうのです」

よかれと思って抗生物質を使うことが「細菌を暴走」させ、さらには「カビを大増殖」させる最悪の引き金になってしまうというのだ。大場医師のもとには、重症化した患者もやってくる。

今日からできる! 「耳」防衛術

「ひどくなると、強烈な痛痒さに襲われ、黒色やねずみ色をしたヘドロっぽいカビの塊が毎日のように出てきて耳が詰まります。放置すれば鼓膜に穴が開き、難聴になってしまうこともあります。細菌とカビが混在してしまうと厄介です。カビを抑える薬を使えば、細菌が強くなって炎症を起こしてしまうし、逆に細菌を抑え込もうとするとカビが繁殖してしまう。

薬に頼るのではなく、外耳道を傷つけないようヘドロ状の汚れを丁寧に取り除き、ひたすら洗って『自然治癒』を待つしかありません。完治には2〜3週間かかり、その間、毎日通院して耳を洗う人もいます。本当に大変なんですよ」

では、我々はこの恐るべき耳カビからどうやって身を守ればよいのか。大場医師は、今日からすぐに実践できる具体的な防衛術を教えてくれた。

「まず、一番大切なのは『綿棒などで耳の中をかいたり、奥まで掘ったりしないこと』。どうしても耳掃除をしたい場合は月に1〜2回、入り口から1センチ程度の内壁を軽く拭う程度にとどめましょう。そして、イヤホンについては『1時間使ったら10分間外す』習慣をつけること。

仕事の会議などの時は、ヘッドホンや、外耳道をふさがないオープンイヤー型、骨伝導タイプに変えるのも効果的です。特に高温多湿となる梅雨から夏にかけては、イヤホンよりもヘッドホンをおすすめします」

イヤホン自体の衛生管理も重要だ。

「他人のイヤホンは絶対に使わないこと。また右用と左用を反対に入れないこと。細菌やカビが移ってしまいます。メーカーの指示に従って定期的に先端の装着部品を洗浄・消毒し、清潔に保つことが大切です」

万が一、耳に違和感や痛みを覚えた場合の対処法について、大場医師はこう警告する。

「風邪のついでなどで、内科で耳を診てもらうのは大変危険です。耳の奥を正確に診察するには専用の顕微鏡と耳垢を取り除く技術が必要であり、内科の医師にはできません。内科で出された抗生物質が原因で『菌交代現象』が起き、カビが爆発的に増殖してしまうケースが後を絶たないのです。耳のトラブルは決して自己判断せず、必ず専門医である『耳鼻咽喉科』を受診してください」

便利なデジタル機器が普及し、高音質を楽しめる優れたイヤホンがごく当たり前に使われるようになった。しかし、その耳に押し込んだイヤホンの先には、目に見えないカビや細菌が息を潜めて増殖の機会をうかがっているのだ。

高温多湿でカビが猛威を振るう梅雨の季節は、特に注意が必要だ。耳の中の”風通し”を意識し、正しい知識で「耳カビ」から身を守りたい。

取材・文:酒井晋介