DH制を導入してもパ・リーグには追い付けない…今年の交流戦でセ・リーグが異様なほど弱かった根本原因

■なぜ今年の交流戦はセ・リーグが負けっぱなしだったのか
2026年の「セ・パ交流戦」が終了した。埼玉西武ライオンズが史上最高勝率(.824)で優勝を決めたが、それはともかくとして、今回は「ある異変」について反響が広がっている。
それは「セ・リーグが異様なほど弱かったこと」だ。
NPB(日本野球機構)を構成するセ・リーグとパ・リーグの2リーグ制は、1950年の発足以来76年目のシーズンを迎える。ここまで2大リーグとして歴史を刻んできたはずだが、近年極端な優劣が付きつつある。
「セ・パ交流戦」は、2004年の球団合併問題に端を発した「球界再編」の副産物として始まった。パ・リーグは、以前からMLB(メジャーリーグベースボール)の「インターリーグ」に倣った交流戦を、セ・リーグに持ち掛けてきた。
それまではセに導入の意向はなかった。しかし、球界再編によって混乱したプロ野球興行に新機軸を打ち出す意味もあって、2005年からの導入を決めたのだ。
交流戦は今年で21度目の開催となる。これまでの戦績について追いかけていこう。
■「真剣勝負」の鮮度が薄れた
交流戦の最大の注目は、それまで日本シリーズと球宴を除いて対戦機会がなかったセ・パのスター選手が「真剣勝負」で対戦することだった。

■開始当初は互角だった
2005年でいえば、この年セ最多勝の黒田博樹(広島=当時、以下同)と、パ2冠(本塁打、打点)の松中信彦(ソフトバンク)、パ奪三振王の松坂大輔(西武)と、日本球界2人目の年間200安打を放った青木宣親(ヤクルト)など、新たな「好勝負」が生まれることにファンは期待した。
それとともにセとパでは「どちらが強いか?」も大きな関心事だった。これまで「人気のセ、実力のパ」と言われ、球宴ではパ・リーグがやや優勢だった。しかし、日本シリーズでは巨人が空前のV9(1965〜1973年)を記録するなど、セも負けてはいなかった。NPBも「勝つのはセか? パか?」と前景気をあおった。
2005年、2006年とパが勝ち越したものの、勝差はわずか「1」であり、「互角」の印象だった。2009年にはセが初めて勝ち越し、これから反転攻勢が始まるか、と思えた。しかし、その後はずっとパ・リーグが10年連続で勝ち越し。しかも10勝以上の大差をつけることも珍しくなかった。
■史上最大「勝数差26」の衝撃
2020年は、コロナ禍で交流戦は中止となる。2021年はわずか1勝ながらセが実に12年ぶり勝ち越し。翌22年もセが勝ち越し、格差は是正されつつあるかと思えた。
しかし、2023年からまたパの勝ち越しが続くと、今年の勝数の差は何と「26」。2010年の22差を大きく上回る史上最大差となった。今も交流戦になると「勝つのはセか? パか?」というテーマソングが球場で流れるが、セ・パの勝敗の行方に注目する人は今やほとんどいないといってよいだろう。
12球団の今季交流戦勝敗を見ると、セ・リーグの「悲惨さ」がさらに明らかになる(図表2)。

交流戦開幕日の5月26日には巨人の阿部慎之助監督が退任、期間中には楽天の三木肇監督がチームの不振を理由に休養(6月17日に退団)し、それぞれ監督代行が指揮を執った。
■ポストシーズンの浮沈に直結
橋上秀樹監督代行率いる巨人はセ1位の勝率.625と気を吐いたが、他の5球団は勝率4割にも届いていない。楽天は塩川達也ヘッドコーチが監督代行になったものの勝率.222と悲惨だった(交流戦明けから前ロッテ監督の吉井理人氏が監督就任)。しかし、西武、ソフトバンク、日本ハムは勝率7割を超えるなど、5球団が勝ち越した。
NPBは今季、クライマックスシリーズ(CS)の規定を一部変更した。勝率5割未満のチームや首位に10ゲーム差以上離されたチームがファイナルステージに進出した場合、優勝チームのアドバンテージを「2勝」に増やし、これが適用された場合は、最大6試合の4戦先勝から同7試合の5戦先勝に変わる。
交流戦終了時点で、リーグ全体で26の借金を背負い込んだセは、CSに進出する権利を有する3位チームが5割を割り込む可能性が高い。交流戦の戦績はポストシーズンにも影響を与えつつある。
今年もお決まりのようにパ・リーグが圧勝し、これまでの通算成績はセ1256勝、パ1434勝、82分となった。なぜセ・リーグはこれほどまでに弱いのか。

■関連性が高いDH制の有無
有力な意見として「DH(指名打者)制の有無」が挙げられる。DH制は1973年、MLBのア・リーグでの導入を皮切りに、NPBでも1975年からパ・リーグが採用した。しかし日米ともにもう一方のリーグであるナ・リーグとセ・リーグは投手が打席に立ち続けてきた。
MLBでは1997年からリーグをまたいだ交流戦「インターリーグ」が始まったが、ナ・リーグもDH制を導入する前の2021年まではア3482勝に対し、ナ3180勝。ア・リーグが大きく勝ち越していた。
ナ・リーグも2022年からDH制を導入したが、それ以降のインターリーグの勝敗はアが1323勝、ナが1320勝とほぼ互角になっている。このMLBの例を見ても「交流戦においてはDH制がないリーグのほうが弱い」ということは言えそうだ。
セ・リーグはDH制を頑なに拒み続けてきたが、2026年から東京六大学リーグ、関西学生リーグ、そして高校野球で導入されたこともあり、2027年から採用することを決めた。
■伝統に固執しすぎた
セは1949年の創設以来、パをライバル視し、共同歩調を取ることを潔しとしなかった。近年では2011年の東日本大震災の際に、開幕時期を巡って対立したのが記憶に新しい。両リーグで開幕日が異なることも珍しくなかった。
1975年にパがDH制を導入した時にはセは長文の「導入しない理由」を発表、野球の伝統を壊すとまで言及した。それだけに今回のDH制導入には抵抗感が大きかったようだ。2009年にセントラル、パシフィック両連盟はNPBコミッショナーのもと統合されたが、それ以降も両リーグの対抗意識は強かった。セが対抗心からDH導入に逡巡し続けたことが、交流戦でのセの劣勢を招いた可能性も大いにある。
もう一つ、関係者の間でいわれているのは「投手のレベルの差」だ。両リーグ12球団の主力級の先発投手と救援投手各2人の「最高球速」「平均球速」を並べるとこうなる(図表3、4)。


■投手の圧倒的な球速差
セは、各チームを代表する先発、救援投手24人で最高速が155km/hを超すのは7人。そのうち5人が外国人投手で、日本人では大勢(巨人)、松山晋也(ヤクルト)だけ。最速155km/h以上の先発投手はいなかった。
これに対して、パの先発、救援24人のうち155km/h超は13人、日本人投手も杉山一樹(ソフトバンク)、北山亘基、柳川大晟(ともに日本ハム)、椋木蓮(オリックス)、荘司康誠、藤平尚真(ともに楽天)、高橋光成、甲斐野央(ともに西武)と8人いる。また、先発の155km/h超も北山、荘司、高橋光に加え、エスピノーザ(オリックス)、ジャクソン、廣池康志郎(ともにロッテ)と5人いる。
端的に言えば、セとパでは「投手のスピード感」が違うのだ。ここに挙げた投手だけでなくパには立ち上がりから155km/h超のフォーシームを基本に投球を組み立てる先発がたくさんいる。技巧派中心のセの投手に慣れた打者は、最初の打席から圧倒されるのだ。
近年、さまざまな変化をする変化球が開発されたが、そうであっても最も被打率が低いのは150km/h超の速球であるとされる。「球速が速い」ことは、投手の「ポテンシャルが高い」こととほぼ同義語だといってよい。

■DHを導入しても解決しない
筆者は両リーグの春季キャンプでの投手育成を見てきた。今やどの球団もラプソードやトラックマンを使ってデータで選手のパフォーマンスを確認しているが、パのほうがより球速、回転数を重視した「パワーピッチャー」の育成を重視しているように思える。
また選手獲得に際しても、セが大学や社会人出の完成度の高い投手を取ることが多いのに対し、パは粗削りでも速球に勢いがある高校生をとる傾向が強い。セとパでは、最も重要な指標の一つである「球速」で明確な差がついている。これが、交流戦の大差につながっているのではないだろうか。
セがDH制を導入することで、投手は投球のみに集中することができ、多少差は縮まるかもしれないが、より根本的な問題として両リーグの「育成方針」の差が勝敗に表れているとすれば、この状況は当面、変わりそうにない。
筆者は今年も交流戦を各地で観戦したが、セの本拠地球場ではファンから「ソフトバンクや日本ハムなんて勝てるはずないじゃん。投手が違うから」「パ・リーグが強いのは十分わかったから、もう交流戦はいいんじゃないか」といった声が聞こえた。
ワンサイドゲームが続く今の状況を変えるために、両リーグは選手育成法も含めた抜本的な改革に取り組むべきではないか。
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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。
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(スポーツライター 広尾 晃)
