生成AIが“声”模倣 仕事を奪われるのは「人気声優」だけではない
初めての訴訟
急激に進歩する生成AI(人工知能)は人類にさまざまな恩恵をもたらす一方で、深刻な弊害が明らかになりつつある。声優たちが被っている権利侵害もその一つだ。
【写真を見る】「声は商売道具。勝手に使うな」 “NO MORE 無断生成AI”を訴える声優たちの姿
芸能デスクが解説する。
「最近、声優や俳優として活躍する津田健次郎(55)が裁判を起こしていたことが分かりました。昨年11月、津田は“声が無断で模倣され、それを利用した動画が公開されている”と、動画投稿アプリTikTokの運営会社に動画の削除を求める訴えを起こしていました」
訴状で氏名不詳者とされた被告は、2024年7月から翌年9月にかけて、津田が問題とした動画を188件投稿していたという。当該アカウントのフォロワー数はおよそ21万人に達し、投稿者は月に50万円から75万円の収益を得ていたとみられる。

ネットを検索したところ、津田の声とそっくりの音声がナレーションを務める動画はTikTokだけでなく、Instagramでも見受けられた。知らずに視聴すれば、津田本人の声だと誤解するほどのクオリティーだ。
「生成AIを利用した、声の無断利用の法的責任を問う訴訟は津田のケースが初めてとみられます。ただ、この問題は以前から指摘されていました。24年には複数の声優らが『NO MORE 無断生成AI』という運動を始めています」(同)
強い憤り
今年4月、ようやく役所が重い腰を上げた。法務省が「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」を立ち上げたのである。
「5月28日の第2回検討会には、人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』で主人公の碇シンジ役を務めた緒方恵美(61)や、『進撃の巨人』のエレン・イェーガー役で知られる梶裕貴(40)ら、6人の売れっ子声優が有志として出席しました」(前出の芸能デスク)
その訴えは切実で、
「彼らは自分たちの財産や権利、アイデンティティーが侵害されているほか、生成AIの声が収益化に利用されている現状に強い憤りをお持ちでした。“反対する声優たちの思いは一緒です”とも話していましたね」(同)
出席者が具体的な対応策に言及する場面もあった。
「声優らが個人で対応するのは現実的に困難です。そこで、当事者に代わって彼らの所属事務所が対抗策などを講じるために必要なことや、“声の無断利用”と判断する基準など、法律を含むさまざまな観点からの対応策の整備を求めていました」(同)
下積み中の若手も
不利益を被るのは下積み中の若手も同じという。声優業界関係者が指摘する。
「アニメやゲームの世界では、ストーリー進行に関係しない通行人や野次馬、群衆などをモブキャラと呼びます。それらを担当するのは、ほとんどが若手。取り立てて個性を発揮する必要がないので、今後は生成AIに取って代わられる可能性が非常に高いとみられています。制作側にとっても、生成AIの方が手軽で安上がりですからね」
現在、声優を目指す若者はおよそ30万人とされる。
「プロデビューできるのはその数%程度。さらに専業としてやっていけるのは、300人前後というかなりの狭き門です」(同)
毎年発行される「声優名鑑」の26年版には、女性が1135人、男性は702人の計1837人が掲載されている。
「最初に発行された01年版には、女性が225人、男性は145人、合わせて370人しかいなかった。四半世紀で5倍近くになった計算で、声優を育成する専門学校や養成所も、いまでは全国に50~60カ所まで増えています」(同)
生成AIが奪うのはプロの仕事だけでなく、声優の卵たちの夢までも、である。
「週刊新潮」2026年6月18日号 掲載
