介護歴20年の安藤なつ「離職は不要」…認知症の親を迷わずプロに任せる理由

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最新の研究報告で、’30年に65歳以上の「約7人に1人」がなると推計される認知症。高齢の親を持つ人が認知症の介護に直面するケースは、もはや珍しいことではなくなっている。

昨年11月に住友生命が公表した「親の介護の備えに関するアンケート」の結果によると、親が要介護者になった場合の介護について、80.7%が「不安」と回答。親が要介護状態になった場合の対応については、「決まっていること・把握していることはない」が75.2%に上っている。

この調査結果も示すように、親の介護に対して不安を抱えながらも備えを先延ばしにしている人は少なくない。だが、介護と向き合う日はいつ、どのような状況でやって来るかわからない。そのときになって慌てることがないよう、できる準備から始めたいものだが……。

親の好物、本当に知っていますか

親が元気なうちからできることがある

そうアドバイスするのは、お笑いコンビ「メイプル超合金」のツッコミ担当で介護福祉士の資格も持つ安藤なつさんだ。今年の3月、認知症専門医の繁田雅弘医師との共著『知っトク認知症 家族と本人が自分らしく暮らし続ける超入門』(KADOKAWA)を上梓。安藤さんは繁田医師と対話形式で、「認知症に対する誤解」「家族の向き合い方」「第三者の手の借り方」などについてナビゲートしている。

親の好物や好きなこと、コミュニティなどを、今から知っておくといいと思います。特に、母親は自分のことを後回しにしがちなので、子どもは意外と母親の好きなものを知らなかったりしませんか。実は私もそうでした。

実家に帰って母に『何が食べたい?』と聞くと、必ず『なんでもいいよ』と返ってきます。今まではそこで終わっていました。でもあるとき、一歩踏み込んで『本当は何が好きなの?』と聞いてみたんです。やっと『好きなものは中華料理』だと。初めて知りました」

日課や趣味、行きつけの場所など、親の日々の暮らしを把握しておくことは、親が認知症になったときに役に立つと安藤さんは言う。

「親子で『一緒に何かする』時間を持てたら、“世話をする側”“される側”に固定されずに、親子の原点みたいなものを取り戻すことができる気がするんです。たとえば料理なら、母が長年守ってきた我が家の味をふたりで一緒に再現するというような関わり方です。

完璧に知っておく必要はもちろんありません。介護について考える以前に、親の日常や暮らしに目を向ける意識を持つことが大切なんじゃないかなと、私も気づいたんですよ

親のいつもの暮らしや行動パターンがある程度わかっていれば、認知症の初期症状や身体機能の低下などの「小さな変化」に早期に気づくこともできるだろう。

親の異変は迷わずプロに頼る合図

安藤さんは新著『知っトク認知症』でも呼びかけているが、親の変化に気づいたなら「早い段階から迷わずプロに頼ってほしい」と提案する。

『いつもと違う』『何か変だな』と気になったときが、介護や福祉の専門職の力を借りるタイミングだと思います。

その場合の相談先は、介護についての総合相談窓口的な役割を担っている『地域包括支援センター』です。全国各市区町村の役所や役場の福祉課などに設置されているのが一般的で、相談先は親が住んでいる地域のセンターになります。

利用は介護が必要になってからと思いがちですが、そうではありません。『一人暮らしの母親が忘れっぽくなっているみたいで』『部屋が散らかっていることが多くて』など、気がかりなちょっとしたことから相談に乗ってもらえます。電話でも対応してくれるようなので、実家が遠方でも相談は可能です

ボランティアを含め、介護現場歴約20年。その経験から「プロは家族ではないからこそ感情に左右されず、知識と技術で介護できる」と話す。

介護は24時間に及びます。家族だけで介護するとなると、逃げ場がないと思うんです。一緒に何かをする余裕を持つのも難しいでしょう。気持ちや時間の余裕を確保するためにも、プロの手を借りてほしいと思います。

親に介護が必要になった場合、私も行政に頼ったり第三者を入れたりするつもりです。技術的にはいくらでもできるけれど、自分の中の母親像というものをいったん打ち消して、ひとりの利用者の方と思うくらいじゃないと無理な気がして。自分の感情を捨てるくらいなら、私は第三者を入れます。家族でなければできない介護をしたいし、優しい気持ちで親に向き合いたいですから

介護離職は不要! 国の制度を活用

厚生労働省の調査によると、’00年に約3万4000人だった介護離職者が、’24年には約9万3000人近くまで増加。一方、経済産業省の経営者向けガイドラインでは、’30年には家族を介護する人が833万人に増え、そのうち318万人(約4割)が働きながら家族を介護する「ワーキングケアラー」になると予測されている。

親を介護するために離職する必要はないと思います。自分の人生が大切ですし、親も望んでいないでしょう。

日本には、介護休暇や介護休業という制度があります。介護を理由に休業できることが法律で定められていることを、現役世代には知ってほしいです。

地域包括支援センターには社会福祉士やケアマネジャーなどの専門職が配置されていて、介護する家族の相談にも応じます。家族の負担を考慮して必要なサービスの情報を提供してくれるので、相談すれば仕事と介護を両立できるのではないかと思います

認知症への誤解と進化する介護現場

安藤さんにとって『知っトク認知症』は共著を含め3冊目の著書になるが、繁田医師とともに本書を手がけ、新たな気づきがあったという。

認知症専門医の繁田先生から『認知症の診断にたどり着くまでにすごく時間がかかる」と聞いて、ハッとしました。医師はCTやMRIなどの画像検査の結果ですぐに診断を下すものと思っていたんです。脳の状態や認知機能、全身の健康状態などを慎重に時間をかけて見ていくことを知り、認識を新たにしました。

認知症って、何もかも忘れてわからなくなってしまう悲しい病気といったような、マイナスのイメージを抱かせる名称になっている気がするんです。でも実は、脳全体の機能が止まってしまうわけではなく、脳の伸びしろはずっとあることを知りました。思い出せないのは記憶が失われたというより、取り出しにくいだけということも繁田先生から教えてもらいました。

なぜ暴言を吐くのか、どうして一人で出て行ってしまうのか、認知症の方がとる行動の背景にある“病気が引き起こす理由”を少しでも理解できたら、認知症の捉え方も変わるんじゃないかな。繁田先生のお話を聞いて、そう感じました

日本の介護現場の現状についてはどう感じているのだろう。

人手不足はなかなか解消されないですね。少子化が進んで、労働人口も減っていますし。

ただ、先日、介護の仕事の未来はちょっと明るいなと思いました。

被介護者のベッドから車椅子への移乗や入浴介助など、介護の仕事は腰に大きな負担がかかります。腰痛で離職する人が多いくらい。それらの介助に機械が導入されていて、すごく進化しているんです。スタッフ間の申し送りに必要な介護記録の作成も、電子化で短縮されているみたいで。現場の人手不足を多少は補えるのではないかと感じました

介護正職員の賃金は、全産業平均より約11万円低いとの調査報告もある。超高齢社会の日本に必要不可欠な仕事であるにもかかわらず賃金水準が低いままでは、人手不足はなかなか解消されないのではないか。

介護職に対して、多くの人が『大変なのに賃金が安い』とネガティブなイメージを持っている気がします。介護職と家族介護が一緒くたになっているからかもしれません。

家族介護は本当に大変。でも、介護職は違います。介護職と家族介護は切り離して考えてほしいんです。介護従事者の方たちにとっては仕事であり、正しい技術と誇りを持って取り組んでいます。どんな仕事にも、大変な側面は多かれ少なかれあるでしょう。少なくとも私は、『楽しい』『やりがいがある』と感じていました。そこは知ってほしいですね

介護サービスはもっとラフに利用していい

「介護」も「認知症」も、世間の誤解や思い込みでイメージを損なっている面があることは否めない。そうした背景や世間体を気にする日本人の国民性が、「認知症の介護は家族で」という意識に少なからずつながっているかもしれない。

繁田先生もおっしゃっていましたが、親が認知症ではないかと気になっていながら、『役場に知り合いがいるから相談するのは恥ずかしい』とためらう人もいるようです。認知症の負のイメージが、『世間体が悪い』『他人に知られたくない』という気持ちを生むのかもしれません。第三者を入れることに抵抗感を持つのも、私はとてもわかります。

でも、40歳以上の国民は介護保険料を納めているんですよ。負担しているという自覚がないかもしれませんが、給料などからちゃんと天引きされていますから。

日本には介護保険制度というものがあって、国民には必要になったときに介護サービスを受ける権利がある。使わない手はないです

安藤さん曰く「もっとラフに利用すればいい」。

『ポイントが貯まっているんだけど、そろそろ使わない?』ぐらいのラフな感じでいいんじゃないでしょうか。

だって、結局は周囲にバレます。それなら、ひそひそ話をされる前に自分からオープンにして、『お母さんが一人でフラフラ散歩していたよ』と、近所の人から報告してもらえる状況を作りたい。地域でお互いに見守り合えるというのが理想ですね

安藤なつ(あんどう・なつ)お笑いタレント、女優。1981年、東京都生まれ。’12年に相方カズレーザーと「メイプル超合金」を結成、ツッコミ担当。’15年M−1グランプリ決勝進出後、バラエティーを中心に女優としても活躍中。介護職の経験年数約20年。介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の資格を持ち、’23年に介護福祉士の国家資格を取得。著書に『介護現場歴20年。』(主婦と生活社)、共著に『知っトク介護 弱った親と自分を守るお金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)。

取材・文:斉藤さゆり