90代だます「老老詐欺」、60代女性受け子が「現金200万円」持ち逃げ…事件発覚の意外な経緯
「子どもに借金を残したくなかった」
そう考えた60代女性が選んだのは、特殊詐欺の受け子になることだった。
大阪地裁で6月8日に判決が言い渡された事件では、女性は高齢者(90)から現金200万円をだまし取ったとして起訴された。
しかも犯行後、現金を詐欺グループに渡さず持ち逃げ。追い詰められた末に警察へ助けを求めたことで事件が発覚した。
高齢者が高齢者をだます──。いわば「老老詐欺」ともいえる法廷で浮かび上がったのは、借金への不安と安易な選択が招いた重い代償だった。(裁判ライター・普通)
●90歳の被害者から200万円をだまし取る
被告人は60代の女性。少し丸みを帯びた身体を刑務官に付き添われながら法廷に入った。
その表情には疲労感と無気力さがにじんでいた。それが拘置所での生活によるものなのか、それとも事件前から続いていた生活苦によるものなのかはわからない。
起訴状によると、氏名不詳の共犯者が90歳の被害者に電話をかけ、親族が至急現金を必要としているなどとウソを説明。その後、親族の関係者を装った被告人が被害者宅を訪れ、現金200万円を受け取ったとされる。
被告人は起訴事実を認めた。
●詐欺グループから金を持ち逃げした被告人
検察官の冒頭陳述などによると、被告人は夫のギャンブルなどが原因で、夫婦合わせて約1000万円の借金を抱えていた。夫は施設に入居し、被告人は20代後半の子どもと暮らしていた。
子どもに借金を残したくない──。
そんな不安から特殊詐欺に加担することになったという。
しかし、この犯行は珍しい経緯で発覚することになった。
被害者から200万円を受け取った被告人は、その後、指示役から「この特殊詐欺グループは払いが悪い」などと連絡を受ける。そこで当初予定されていた受け渡し場所に向かわず、現金を持ち去った。
詐欺グループはそのことに気付き、被告人の自宅に押しかけた。被告人は警察に助けを求め、その結果、特殊詐欺への関与も明らかになった。被告人には自首が成立している。
●「これまで人を信じて生きてきたのに」
被害者は90歳だった。
息子が会社の400万円をなくしたため、その半額の200万円を工面してほしい──。そんなウソの話を信じ、現金を手渡したという。
法廷では被害者の心情も明かされた。
「これまで人を信じて生きてきたのに」
90歳という年齢を思うと、その言葉はいっそう重く響いた。
●借金問題を相談することなく
弁護側の情状証人として、被告人の夫が出廷した。
車いす姿の夫は、病気で足が不自由となり、現在は施設で生活している。
夫は被告人が特殊詐欺に関与していることに気付いていた。夫婦で自己破産を検討する中で、被告人の口からは特殊詐欺という言葉も出ていたという。
夫は言葉では止めたものの、携帯電話を操作していた被告人を強く追及することはできなかった。
一方で、借金問題について専門家へ十分な相談はしていなかった。
収入もほとんどない中、法廷では弁護人から、10年ほど返済していない借金については時効の可能性もあると指摘される場面もあった。
借金問題についてもっと早く相談していれば──。夫も被告人も悔やむような表情を見せていた。
●報酬は得られず、残ったのは刑事責任だけ
被告人は結局、今回の特殊詐欺で報酬を受け取ることはなかった。
特殊詐欺事件の法廷では、「報酬ほしさに加担したが、結局ほとんど金は手にできなかった」という話を耳にする。
目先の金に引き寄せられ、重大な犯罪に手を染めた結果として残るのは刑事責任だけというケースは少なくない。
金銭管理が苦手だったという被告人は現在、地域生活定着支援センターの支援を受けている。出所後は夫との同居も予定しており、福祉的支援を受けながら生活再建を目指すという。
一方で、被害者が失った老後資金の返済の見通しは立っておらず、現時点でできているのは謝罪文の作成だけだ。
●息子から言われた「相続放棄すればええやろ」
法廷で検察官は犯行の動機について尋ねた。
被告人は自己破産という制度を知っていたものの、今後の生活にどう影響するのかわからず、深く調べることもなく自己破産はあきらめたという。
検察官:自分は子どもに借金を残したくないとして、それで同じ高齢者の被害者に迷惑をかけることをどう思っていたんですか。
被告人:そのときは指示通りにしないと、どうなるかわからなかったんです。
検察官:どうなるかとは。
被告人:実際、詐欺グループに脅迫もされました。
しかし、その説明には無理があった。
脅迫を受けたのは、詐欺グループへの現金引き渡しを拒否した後のことだったからである。
さらに印象的だったのは、息子とのやり取りだった。被告人によると、息子からは事件前にこう言われていたという。
「アホか。相続放棄すればえぇんやろ」
借金を残されたくない当の息子は、別の解決策を示していた。それでも被告人は犯行を止めることができなかった。
●初犯の被告人に言い渡された実刑判決
判決は拘禁刑2年2カ月(求刑・拘禁刑3年6カ月)の実刑判決だった。
被告人に前科はなかったが、それでも裁判所は、報酬目的の犯行であり、被害額が200万円と高額で、被害回復もされていないことなどを重視。
末端とはいえ犯行に不可欠な役割を果たしたとして、執行猶予は相当ではないと判断した。
子どもに借金を残したくない──。子を思う気持ちは理解できるものだったかもしれないが、そのために選んだ手段は、同じように老後を生きる高齢者から財産を奪うことだった。
犯行を思いとどまる機会はあった。それでも踏みとどまれず、結果として残ったのは、自身の刑務所生活と、十分な被害回復がされないままの被害者だった。
実刑判決が読み上げられる間、被告人は小さくうなずきながら静かに聞き入っていた。
