【小林 雅一】スペースXもOpenAIも「大赤字」なのに…1兆ドルの「巨額赤字上場」する異常事態で、これから株式市場に起こること
メガIPOは「赤字上場」
間もなく米ナスダック市場に上場するスペースX、今年の秋以降これに続くOpenAIやアンソロピックなどメガIPO(株式初公開)に共通するのは、自らの事業で利益を出さないうちに株式を公開する「赤字上場」ということだ。
その先陣を切るスペースXが米証券取引所(SEC)に提出したIPO申請書類によれば、2025年の売上高は前年比33パーセント増の186億7000万ドル(約2兆9000億円)に達した。が、その一方でGPUの大量調達や大型データセンターの建設などAI投資が嵩(かさ)んだことから、最終損益は49億4000万ドル(約8000億円)の純損失(赤字)となった。
一方、OpenAIは2025年の赤字が推定約50億ドル、今年(2026年)はその約3倍となる140億ドル(約2兆2000億円)に達する見通しだ。スペースXと同様、売上は年々増加しているが、巨大データセンターの建設などAI設備投資がそれを大幅に超過している。
またアンソロピックは直近の2026年第2四半期こそ一時的な営業黒字(約5〜6億ドル)を達成する見込みだが、通年で見ると、やはりAI企業特有の莫大なコスト構造が重くのしかかり、最終的には赤字になる公算が高い。
赤字のままリーディング・カンパニーに
もっとも、アメリカでは市場の期待を集めるスタートアップ企業が赤字のまま上場する事は珍しくない。と言うか、上場する企業の6割以上が赤字のまま株式公開するなど、むしろそれが多数派である。
たとえば1997年に上場したアマゾン(Eコマース)、比較的最近では2019年に上場したウーバー(スマホ配車事業)、2021年上場のリビアン(EVメーカー)をはじめ幾つかのスタートアップ企業が赤字状態で株式を公開しているし、その後多少の時間はかかるものの、最終的な黒字化を達成した会社も少なくない。
しかし今回のスペースXをはじめ一連のIPOが過去の赤字上場と根本的に異なるのは、上場時の時価総額が桁違いに巨額という点だ。それは「これまでの常識を完全に覆すレベル」と言っても過言ではない(表1)。
アマゾンをはじめ過去のケースでは「比較的小さな赤字企業が上場し、公開株式市場で成長していく」というパターンだった。これに対し、今回のスペースXは上場した瞬間にテスラ(約1兆6000億ドル)を抜き去り、アメリカの全上場企業でいきなりトップ10リストの第8位前後にランクインする見通しだ。
市場のボラティリティを増大させる
このスペースXに続き、早ければ今年9月以降にもIPOするOpenAIやアンソロピックも、上場と同時に時価総額がいきなり1兆ドル(160兆円)を超える見通しだ。
これら3社が上場しても、黒字化の条件を満たしていないため当面はS&P500やNASDAQ100など主要インデックスに組み込まれることはない。とは言え、いずれも「すでに宇宙・AI開発を牛耳る(時価総額だけは)超大型企業が赤字のまま株式市場に君臨する」という点で、史上類を見ない異常なケースとなる。
従来の常識では、ある企業が赤字であるということは、「その会社がまだ独り立ちしていない」ことを意味する。そんな、ある意味では「子供っぽい」会社(スペースX、OpenAI、アンソロピック等)がこれからは米国、ひいては日本をはじめ世界の株式市場をリードしていくことになるのだ。
これら巨大な赤字企業の相次ぐ上場は、株式市場の資金フローを根本から塗り替えるゲームチェンジャーになり得る。
それはまず「利益」から「スケール」へのパラダイム・シフトを引き起こすだろう。これ程の赤字上場が容認されたことで、株式市場の評価軸は「現在の利益」から「将来の市場支配力や売上成長率」へと傾く。つまり目先の黒字化よりも「どれだけ市場を独占できるか」が株価を動かす主な要因になるだろう。
その一方で、安定した利益を産んでいない大型株の相次ぐ上場で、市場のボラティリティが増すだろう。これら「子供っぽい超大型企業」の経営状態や置かれた環境(開発の遅れや規制強化など)、あるいはイーロン・マスク氏らエキセントリックな経営者の思わぬ失言や予期せぬ行動など、大小様々な出来事によって米国ひいては世界全体の株式市場が乱高下するリスクが高まる。
【後編】→「自分たちは決して間違えることがない」…スペースX、OpenAI、アンソロピック「時価総額640兆円」の上場に投資家たちが恐れる「最悪のシナリオ」
【つづきを読む】「自分たちは決して間違えることがない」…スペースX、OpenAI、アンソロピック「時価総額640兆円」の上場に投資家たちが恐れる「最悪のシナリオ」
