〈私の意向を聞かずに〉…長女の手紙で批判続出「阿部慎之助氏の暴行トラブル」児童相談所の深刻な現実

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5月25日夜、阿部慎之助読売巨人軍監督(47、現在は辞任)が自宅で長女(18)に暴行を働き、「児童相談所からの通報で警察に逮捕された」というニュースが瞬く間に拡散した。

世間が騒然となる中、翌日に会見した阿部氏は暴行の事実を認め涙ながらに謝罪。辞任を表明するとともに、「長女が書いた」という手紙が同席の弁護士によって読み上げられた。

ChatGPTに相談したところ、児童相談所への通報を勧められた〉

児童相談所には私の意向が聞かれることなく、警察に通報されるという形になった〉

〈目の前で父が逮捕され、私は泣き崩れた〉

そんな内容に児童相談所が阿部監督の人生を変えてしまった」「親子ゲンカで警察に通報するなんて」といったバッシングが噴出。一部の芸能人やコメンテーターからも「やりすぎだ」と批判の声が相次いだ。

阿部氏の電撃辞任にショックを受けた野球ファンからすれば、児童相談所が余計なことをした」と嫌みのひとつも言いたくなるだろう。思春期の子どもに悩む親が「これで警察を呼ばれたら躾(しつけ)もできない」と思うのも無理はない。だが、児童相談所は本当に「やりすぎた」のだろうか。

〈私の過度な状況説明〉

長く虐待問題を取材してきた私が思うに、児童相談所が槍玉にあがった最大の要因は「警察に通報した」ことだろう。

児童相談所は0〜18歳未満の「児童」を支援する行政機関であり、18歳、つまり「成人」である阿部氏の長女は原則対象外だ。それでも「父親から暴行を受けた」とする当人からの通報があれば、当然ながら放置できない。これまでの取材経験上、「どういう暴行を受けたのか」「父親はまだ近くにいるのか」くらいの確認はするはずだ。

長女の手紙では、〈私の過度な状況説明によって報道内容が事実と異なってしまった〉とある。仮に文面どおりなら、「過度な状況説明」はおそらく児童相談所への通報時になされたものと考えられる。

普段は優しい父親が激高し、しかも酔っているという状況下で押し倒されたとすれば冷静でいられるはずもない。感情の整理ができないまま「過度な状況説明」をするのは誰しもあり得ることで、長女になんら非はない。

ただし児童相談所側からすれば、その説明内容が過度かどうか、話のやりとりだけで判断するのは難しい。長女の言葉になにかしらの緊急性を感じたとしたら、まずは被害者の身の安全を第一に考える。これは基本中の基本だ。

「警察ではなく、児童相談所の職員が自宅に駆けつければよかった」という声もあるが、通報は午後7時過ぎという終業後の時間帯で、対応できる人員は限られる。児童相談所にはパトカーのような緊急車両もなく、「手遅れ」になる可能性を考えれば、警察との連携は当然の判断だったと言える。

「子どもが本当のことを言わない」

〈私の意向を聞かずに〉という長女の手紙を受け、「どうして本人の気持ちを無視したのか」という批判もある。むろん当事者の話を丹念に聞き、その意向を確認することは大切だが、「初動」の段階では限界があるだろう。

前述のようにまずは緊急性を重視せざるを得ないうえ、児童虐待の現場では「子どもが本当のことを言わない」ケースが山ほどある。親に殴られ、体のあちこちにアザがあっても、「自分で転んでぶつけた」。ネグレクト(養育放棄)され、飢餓状態にありながら、「お父さんとお母さんが大好き。ずっと一緒に暮らしたい」……。

被害が大きくなることに怯え、事実とは異なる作り話をする子どもに児童相談所は日常的に対応している。長女が「意向」を伝えたとしても、「親に無理やり言わされているかもしれない」という懸念を持たなければ、本当の意味で危機的状況にある子どもを救えないのだ。

一方で世間のバッシングの背景には、児童相談所への根深い不信感もあるだろう。「親子ゲンカには過敏な対応をするくせに深刻な虐待は見過ごしてばかり」、そう厳しい声が上がるのもやむを得ない。

実際、児童相談所の不手際で子どもを救えなかったケースは少なくない。2019年には千葉県野田市で、小学4年生の女児が父親からの日常的な暴行によって死亡している。虐待を把握した学校からの通報で児童相談所の一時保護所に収容された女児は職員に対し、「父親に殺されるかと思った」「パンツを下ろされた」などと身体的、性的虐待を訴えた。

ところが児童相談所は国の指針で規定された判定会議も開かず、一時保護から3ヵ月後には自宅に戻してしまった。市の担当課や学校との連携不足も放置し、その後、女児が長期欠席しても家庭訪問すらしていない。

児童福祉の根幹を担うべき児童相談所の職員が、子どもに性的加害を行うケースもある。2025年、神奈川県横浜市の一時保護所内で男性職員が10代男子の服をずらし、臀部を盗撮するなどのわいせつ行為を働いた。今年に入っても、埼玉県越谷市の児童相談所の20代の男性職員が一時保護所に入所中の10代女子に対し、複数回の不同意性交に及ぶという事件を起こし逮捕されている。

阿部氏の家庭内トラブルを機に注目を集める児童相談所。現場の職員や、保護された経験を持つ子どもは何を思うのか、引きつづき彼らの実情と本音に迫る。

【後編】では、児童相談所の職員や被害を受けた子どもたちの証言から過酷な虐待の現実を紹介する。

取材・文:石川結貴(ジャーナリスト)