「年収5000万円でも安心できない」AI時代に絶望する米国の高給エリートが増加。その裏に資産30億円超の「AI貴族」の台頭が…
仕事終わりに同僚たちと近くのカフェに立ち寄り、ぼくはお酒を飲まないので炭酸水のボトルを傾けながら彼らの雑談に耳を傾けていると、最近の会話のトーンが、かつてのような「次はどのスタートアップが上場するか」といった華やかなものから、もっと重苦しく、どこか哲学的な不安を孕んだものに変わってきていることに気づきます。
◆資産30億の「AI貴族」と、年収5000万の「永久下層階級」
いま、アメリカのテック業界を静かに揺るがしている、ある不穏な論争があります。
それは、年収5000万円を超えるような、一般水準から見れば紛れもないエリートたちが、真顔で「自分たちは永久下層階級(Permanent Underclass)」になるのではないかと恐れているという現象です。
ことの発端は、シリコンバレーの高名なベンチャーキャピタルであるメンロー・ベンチャーズのパートナー、ディーディ・ダス氏がSNSに投稿した一枚の考察でした。
彼は、ここ数年のAIブームによって、OpenAIやアンソロピック、NVIDIAといった最前線のAI企業に初期からいたわずか1万人ほどの人間が、資産2000万ドル(約30億円)を突破して一瞬でリタイア富裕層へ駆け上がったと指摘しました。
一方で、その輪の外側にいる「年収35万ドルから50万ドル(約5000万〜7500万円)を稼ぐ、それ以外の優秀なエンジニアやPMたち」の間に、深い無力感と憂鬱(マレーズ)が広がっているというのです。
これは、シリコンバレーの金持ちの贅沢な悩みではありません。むしろ、日本のホワイトカラーがこれから直面する未来の先行上映なのです。
かつてアメリカでは、年収50万ドルというのは「人生クリア」に近い数字でした。良い家に住み、子どもを私立校に通わせ、株式報酬を積み上げながら、静かに富裕層へ移行していく。少なくとも、そういう未来が約束されている階級だったはずです。
しかし今、その階級そのものが「使い捨ての高給労働者」に変わり始めている。どれだけ稼いでいようが、彼らは、自分たちもまた、いつでも代替可能な側に回りうるのだという感覚に怯えているのです。
◆元Googleのトップが浴びた、卒業生からのブーイング
このニュースがメディアで報じられると、当然ながらアメリカのネット上は大炎上しました。
一般的な感覚からすれば、年収5000万円を稼ぎながら「下層階級」を自称するなど、傲慢の極みであり、ただの贅沢な愚痴にしか聞こえないからです。SNSには手厳しい批判や皮肉が溢れかえりました。
しかし、ぼくがシアトルの職場で同僚たちの姿を見て、そして自分自身の仕事の進め方の変化を実感するにつれて感じるのは、彼らの恐怖は単なる妄想ではなく、肌で感じているシビアな地殻変動に基づいているということです。
この雇用の先行きに対する若者たちのリアルな反発を象徴する事件が、2026年5月に起きました。元Google CEOのエリック・シュミット氏がアリゾナ大学の卒業式に登壇し、これからのAI時代について熱弁を振るった際、卒業生たちからブーイング(野次)が起きたのです。
シュミット氏はスピーチで、「これからはAIエージェントのチームを自ら率いて仕事をするようになり、AIはすべての仕事のやり方を変える」と語りましたが、これから社会に出る学生たちにとって、それは「自分の労働価値が奪われ、自動化される未来」の同義語でしかありませんでした。
