採用理由もとてもシンプルでした。飲食店バイトの経験がほぼない私を採用してくれた理由は、当時、応募が私だけだったことと女将さんが同じ山口県出身だったというご縁からです。

その居酒屋は、私にとっての「働く場所」であると同時に、「帰る場所」でもありました。体調を崩せばお粥を作ってくれて、時には鈍臭さを茶化される。家族でも友人でもないけれど、「仕事」という役割を通じて、誰かの人生の片隅に居させてもらう貴重な経験でした。
知り合いがゼロで関東に出てきた当時の私を支えてくれたのは間違いなくその居酒屋と周りの人たちです。
働くことを通じて「ここにいてもいいんだ」という許しを、街や人から受け取っていたのかもしれません。
先日、LINEでそのお店の変わらぬ様子が分かる写真が届きました。「もう十年も経ったんだ」と胸が熱くなると同時に、かつて私もいた場所が今も誰かに愛され続けていることが、不思議なくらい穏やかな気持ちにしてくれました。

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この作品が描いているのも、そんなふうに誰かの手で「場所」が守られ、続いていくことへの肯定なのだと感じます。
「住所」という記号ではなく、人との関係の中で”帰れる場所”が育っていくこと。そして、誰かの、あるいは自分自身の帰る場所を守るために、今日もアイロンをかけ、店を開ける。そんな営みの誇りが、この作品には詰まっています。

『綺麗にしてもらえますか。』は、慌ただしい日々で見失いそうになる「自分の営み」を、もう一度大切にしたくなる作品です。
このタイトルはシミ抜きの依頼であると同時に、生活を立て直したい、心のどこかを整えてほしいというお願いでもある--と、絶賛、確定申告に追われている私は思うのです。
いま、心の中でそっと呟いています。綺麗にしてもらえますか。--まずは、このレシートの山から。