TikTok 発のPOVビューティー、初回生産を数時間で完売 クリエイター起点の開発戦略で突き進む

記事のポイント
POVビューティーがクリエイター視点を起点に商品開発を行い、発売直後に完売を実現している。
ノゲイラ氏の動画適性を踏まえ、滴の見え方や容器仕様など細部までSNS映えを前提に設計している。
大量のフォロワー意見をR&Dに直接反映し、次の製品企画へつなげる循環型の開発体制を築いている。
アニ・ハジニアン氏は、ボビー・ブラウン(Bobbi Brown)、エスティローダー(Estée Lauder)、トム・フォード・ビューティー(Tom Ford Beauty)、アウグスティヌス・バーダー(Augustinus Bader)といった、美容業界で広く知られるブランドの成長を長年支えてきた人物である。
同ブランドのデビュー商品は、発売後数時間で初回生産分が完売し、数万人規模のウェイトリストを生むなど、次世代のビューティーブランドを取り巻くルールがリアルタイムで書き換えられていることを示す結果となった。
10年前から激変した「影響力の構造」と現在のブランド戦略
Glossyと姉妹媒体であるModern Retailが共同開催し、スワップ(Swap)がパートナーを務めたオンラインイベント「The Future of Commerce」に登壇したハジニアン氏は、この新しいアプローチの仕組みについて説明した。
彼女が10年前と今でもっとも大きく異なると感じているのは、「影響力の構造そのもの」であるという。
「10年前は、大手ブランド名やデパート流通がなければ、突破することはほぼ不可能だった。しかし今日では、エコシステムそのものがまったく違う」と同氏は語った。
POVビューティーは、カラーではなく「スキンプレップ」で市場へ参入
POVビューティーは、その変化の中心に位置している。
ノゲイラ氏がメイクアップの知識を広く持つことで知られているにもかかわらず、同ブランドはカラー製品ではなく「スキンプレップ(skin prep)」カテゴリーでデビューした。これはセラム、クリーム、プライマーの3点で構成され、韓国メーカーと共同で開発した高性能なKビューティー処方を基盤としている。
製品は、メイク愛好者にもスキンケア重視のユーザーにも訴求し、同時にノゲイラ氏とブランドのコンテンツづくりに多用途なベースを提供する設計となっている。
POVのソーシャルアカウントは急速に成長し、TikTokでは50万フォロワーに迫る勢いである。また、長年ノゲイラ氏(1700万フォロワー)をフォローしてきたファンは、短尺動画向けに作られた、感覚的で実演しやすいPOVの処方を好意的に受け止めている。
クリエイター視点が商品開発を全面的に左右する仕組み
ハジニアン氏によれば、ノゲイラ氏の「クリエイター視点」は、開発工程のあらゆるステップに影響を与えているという。ハジニアン氏は、ブランドの保湿セラム「トリビュート(Tribute)」を例に挙げた。
「当初はポンプ式の予定だったが、彼女にとっては『より長いガラスピペットで、はっきりデモできること』が非常に重要だった。『滴が垂れる様子がちゃんと見える』必要があった」と述べる。
そのため、カメラ映えする信用性の高い滴下になるよう、吸引力や液量の調整に何時間も費やしたという。
こうしたアプローチは細部にも及んでいる。ノゲイラ氏は、リップスティックの容器サイズ、色番ラベルの見え方、自宅でファンが使うアクリルオーガナイザーに収納しやすいか、といった点まで考慮している。
これらの観点は、コミュニティから寄せられる大量のフィードバックを反映しながら頻繁に更新される、ブランドの研究開発サイクルに組み込まれている。
「ミカエラ氏はフォロワーに『見てもらい、意見を持ってもらう』ことを望んでいる。なぜなら、それが次のローンチを形づくるからだ」とハジニアン氏は語った。
創業者個人に依存しないブランド設計とコミュニティ中心の施策
ノゲイラ氏はブランドの顔であり創造的な中心人物ではあるが、POVビューティーが「彼女の名前を冠していない」ことも重要な戦略だとハジニアン氏は強調する。
ブランドの長期的目標は、ひとりの声に依存するのではなく、クリエイターの輪を広げていくことである。
「ブランドの中に『ほかの人々の視点(points of view)』を受け入れることが意図としてあった」と同氏は言う。PRボックスやサンプルはメディアや主要クリエイターだけでなく、ウェイトリスト参加者やイベント参加者など、コミュニティメンバーにも送られる。
最近のPOVイベントでは、少人数制での教育型セッションとプロダクトテストを組み合わせ、インフルエンサー施策と一般消費者への草の根的なアプローチを融合させているという。
POVビューティーの事業基盤には、ハジニアン氏のグローバルオペレーションの経験が反映されている。
韓国の処方パートナー、スキンケア寄りの製品に焦点を当てた初期戦略、スキムス(Skims)やグロッシアー(Glossier)を支援してきたイマジナリー・ベンチャーズからの投資などは、バイラル一発ではなく「スケール前提」のブランド構築を物語っている。
ソーシャルコマースの急伸と今後の販売チャネル戦略
ブランドの成功とスピードには、内部文化も大きく影響しているとハジニアン氏は述べる。
チームは「ユーザーガイド」と呼ばれる文書を使っており、各メンバーの働き方、意思決定パターン、好ましいコミュニケーション方法をまとめている。「この7カ月で達成したことは、『Aクラスのメンバー』なしには不可能だった」と語る。
今後について、ハジニアン氏はソーシャルコマースがさらに加速するとみている。
特にTikTok Shopでは、すでに高いコンバージョンを確認している。
「影響を受けた人からそのまま購入する、これは自然な流れである」と同氏は言う。同時に、実店舗での展開も不可避だとみている。
「店頭で聞いたことのある商品を実際に試すという行為には特別な価値があり、それが信頼を築く」。
クリエイター主導の新しいコマースモデルが生む未来像
POVビューティーの初期成長は、「運営の規律」と「クリエイターの直感」の掛け合わせがブランドをどれだけ急速に拡大させるかを示している。
ハジニアン氏の見立てでは、今後のコマースはクリエイターに影響されるだけではなく、彼らによって形づくられ、検証され、加速される。そしてその変化を理解するブランドこそが、次のビューティー業界を作り上げるという。
全文セッションでは、ハジニアン氏がクリエイターの直感、コミュニティフィードバック、ソーシャルコマースがビューティーの成長戦略をどのように再構築しているかをさらに詳しく語っている。
[原文:From UGC to R&D: POV Beauty’s Ani Hadjinian on leveraging community for every product launch]
Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)
