事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~/松井 拓己
サービスには設計図がない―――
これが私がサービスサイエンティストとして歩み始めた際に出会った問題意識です。業務標準やマニュアルのように、失敗しないための設計図はあるかもしれませんが、顧客から選ばれ続けるための「価値の設計図」がないのです。
「期待を超える」というスローガンを掲げ、現場の経験やセンスに頼る「心掛け」だけでは、組織としての価値向上には限界があります。実際に、これまでのやり方に「限界」を感じ、思うように成果が出ていない企業は多く存在します。
最近では、顧客体験価値(CX)の向上を目指してカスタマージャーニーマップを「設計図」として作成するケースも増えています。しかし実情は、提供者側の都合で嫌ついていないでしょうか。CXとは本来、顧客の「体験」の「価値」を高めるものですが、「体験の設計」ばかりで、「価値の設計」が抜け落ちています。
これまでの延長線の殻を破り、組織的な価値の再現性を高め、さらに価値を進化させて、事業成長を加速したい。そんな方のために、サービスの本質であり、価値の設計図の基点となる「事前期待」を科学し、設計図を描くための指南書が『事前期待 リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図』です。これまで300を超える組織での実践を踏まえ、読み進めながら実践的なステップを進められるように構成しています。実践企業や日本サービス大賞を受賞した約30の事例も掲載させて頂きました。
顧客の「事前期待」を科学する
「事前期待」とは、顧客がサービスを利用する前に思っている「こんな風だったらいいな」という願望や要望のことです。この見えない力を科学し、体系的に捉えることで、私たちは再現性のある高い顧客価値を生み出すための「価値の設計」を組み立てることができます。
出発点は、既に生み出している価値を、属人的なものから組織で安定的に再現するための「リ・プロデュース」です。このリ・プロデュースの中核を担うのが、顧客の多様な事前期待を整理し、注力すべき「的(まと)」をモデル化する手法です。例えば、顧客の事前期待を「共通的」「個別的」「状況で変化する」「潜在的」な4種類に分類できます。それを踏まえて、顧客にとって価値のある事前期待をタイプ分けして「事前期待の的モデル」を描きます。これがあれば、「あれもこれも」と手を広げることなく、事前期待の的にフォーカスして、小さな努力で大きな成果を生み出すことができます。組織全体で共通認識を持ち、効果的かつ納得感ある取り組みを進めることが可能です。
「リ・プロデュース」(Re-PRODUCE)には、「再現性」と「再設計」の2つの意味が込められています。属人的な経験やセンスに頼るのではなく、組織全体で安定的かつ高精度に価値を生み出し続けるための「再現性」を実現します。そのためにも、既存事業で蓄積した「価値を生み出す経験知」をもって、自分たちの手でサービスを「もう一度プロデュース=リ・プロデュース」します。これにより、これまで目に見えなかった価値の設計図を言語化・可視化することで、属人的には突破できなかった価値向上の限界を突破する足掛かりとするのです。これは事前期待へのアプローチ「深度ゼロ」に位置づけられます。
5段階の事前期待アプローチ深度
リ・プロデュース(深度0)から始まり、事前期待へのアプローチ深度を深めていくことで、ビジネスの成長を加速させます。
深度1. 価値化: リ・プロデュースでは、現在生み出している価値を象徴する事前期待を定義しました。深度1では逆に、現状では満たされていない「事前期待の穴」を発掘します。たとえば、これまで(あるいは他社)では応えられていなかった期待(顧客が諦めている事前期待)に応えることができれば、「こんなサービスあると良いなと思っていたんです!」と、顧客にとっての価値が格段に高まるでしょう。サービスの価値化は、「事前期待の穴がどこにあるのかを見つけること」がポイントなのです。
深度2. 整える: 膨らみすぎた事前期待を「冷ます」マネジメントを行う。これは、業務効率化だけでなく、顧客と協力して価値共創を行うためにも重要です。
深度3. 進化: 「今の」事前期待だけでなく、「未来の」へと時間軸を拡張して、顧客の事前期待を「進化」させる目標地点をモデル化します。これにより、目標地点を設定せずに行いがちなカスタマーサクセスや価値共創の成功確率を高めます。
深度4.探索: 顧客も認識していない真の事前期待を、顧客と一緒になって探し出す。この探索プロセスそのものが、顧客にとっての新たな価値となります。
「もと立ちて、道生ず」という言葉のごとく、「事前期待の的」を見定めて価値の設計図とすることで、価値創造の土台を固めることから始めます。この土台こそが「もと」であり、深度0の「リ・プロデュース=再現性と再設計」です。この設計図が「もと」になることで、事業成長の「道」が見えてきます。その「道」とは、事前期待の穴を見つけて「価値化」する深度1、膨らみすぎた期待を適切に調整する「マネジメント」(深度2)、さらに価値を「進化」する深度3、真の事前期待を「探索」する深度4へと、アプローチを深める道のりです。
その第一歩を、ぜひ本書で踏み出してください。
【書籍情報】
『事前期待 リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図』 著者:松井拓己 出版社:生産性出版
目次
第一部 リ・プロデュースする Re-PRODUCE
第1章 事前期待を科学する fast
第2章 価値の設計図 model
第3章 価値を発掘する try
第二部 進化を鼓舞する TRANSFORM
第4章 共創優位性 co-creation
第5章 進化の設計図 inspire
第6章 最強の副産物 story
第三部 可能性を拓く FRONTIER
第7章 サービスモデルマーケティング insight
第8章 探索型の設計図 discover
第9章 従業員の事前期待 empower
