『必殺』『侍タイ』ファン必見!京都撮影所の内側に迫るビジュアル本の魅力
――今回「撮影所のガイド本」という企画を立ち上げた理由をお教えください。
3年前、初の著書として『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』を立東舎から上梓した際、松竹撮影所でスタッフの皆さんに取材すると同時にオープンセットやステージ、装飾倉庫などの写真を撮っていたんです。普段は目にすることのない、単純に”見るだけでおもしろい建物”として。しかし本に掲載できるのは数枚だし、モノクロの小さいサイズなので「いつかカラーで大きく見せたいなぁ」と思っていました。
それから必殺本の続編取材の合間に東映太秦映画村を久しぶりに訪れ、観光客としてあちこち写真を撮ったんですが、その直後に映画村のリニューアルが決まってオープンセットが取り壊されてしまった。昨年、池袋シネマ・ロサで『侍タイムスリッパー』を鑑賞しながら「この”いつもの江戸の町”は、もうないんだよなぁ……」と別の感慨に浸ってしまい、写真メインの撮影所本を作ろうと思い立ちました。
――企画の許諾を得るにあたって各所とのやり取りはスムーズに進みましたか。
思った以上にスムーズでした。松竹撮影所は必殺本の実績がありましたし、東映京都撮影所もまず本社の広報の方と打ち合わせをして許諾をいただきました。二大スター共演のようなもので、どちらかがNGだと成立しない企画ですし、ありがたかったですね。
また、普通なら規模の大きな東映から紹介するのが常道ですが、今回は写真メインの横書き左綴じの本なので、西から東へ、松竹から東映に向かう構成にしたいと思い、そのコンセプトもご理解いただけました。
――『京都撮影所案内』というシンプルなタイトルが印象的ですが、その由来は?
松竹の『京都殺人案内』と東映の『京都迷宮案内』、両社の人気ドラマからのイタダキです。これならどちらにも顔が立つかなと(笑)。いつもは担当編集さんとあれこれタイトルを考えるのですが、今回は企画段階から「これしかない!」と即決でした。
逆に表紙の写真をどれにするかは難航して、デザイナーさんのアイデアに助けられました。中面のレイアウトも写真をドーンと配した大胆なもので気に入っています。
――22名に及ぶ時代劇スタッフの取材は撮影所に限られていませんが、インタビュー対象も含めてどのような目線でセレクトされましたか。
かつて「日本のハリウッド」と呼ばれていた京都・太秦には、今も時代劇に欠かせない各パートの業者さんがいます。なので、松竹と東映の間にある大映通り商店街をもうひとつのポイントにして、照明の嵯峨映画、かつらとメイクの東和美粧、小道具の郄津商会をその代表格として取材しました。
松竹8名、東映10名と合わせて合計22名、全パートを網羅できたわけではありませんが、スタッフから経営陣まで現場の声を残すことができたのは貴重だと思います。また美術、装飾、記録、俳優と撮影所で働く女性へのインタビューも意識したところです。
――書籍に掲載された写真も高鳥さんが担当されたそうですが、今回自身で担当された理由は?
単純にカメラマンを雇うお金がなかったからです(笑)。必殺本の取材でもポートレートは自分で撮影していたのですが、山粼努さんに念仏の鉄ポーズをお願いした写真が各所で評判となり、自信をつけたこともあって……。
カメラはニコンのD3500、渋谷のビックカメラで5年ほど前に買った最安値の一眼レフですが、コンパクトで使いやすいし、レンズがしっかりしていればいい感じに撮れるんです。あとは小さなライトを用意して、建物に当てることでアクセントをつけています。ピンポイントの明暗を作ったり、柱や壁に逆光のツヤを出したりして。
――撮影するにあたって意識したことは何かありましたか?
意識したのは「一般公開されていない撮影所という被写体をいかに魅力的に写すか」ですね。かつて ”夢工場” と呼ばれていたように、ワクワクする場所なので。松竹撮影所では製作部と装飾部の方々の協力のもとオープンセットの飾り込みを行い、照明技師の香川一郎さんの指揮によりナイター撮影も行いました。
「夕暮れの建物はどこを撮るのが効果的か」など事前の打ち合わせも入念に行い、ロケハンしながら香川さんのアイデアで追加した写真もあります。以前から面識があったので大変スムーズでした。
東映京都撮影所はとにかく広いので、各ステージを回るだけで半日仕事でしたね。管理部と美術部の方が丁寧に案内してくださいました。それから製作部の方が急なピンチを救ってくれたこともあったんです。
映画村では完成したての新オープンセットを撮影し、タイミングよく「太秦江戸酒場」というナイトイベントも行われたので、その華々しさも残すことができました。あとは撮影所って片隅のゴチャゴチャした場所や廃墟っぽい朽ちた建物も魅力なので、そういう部分も写真に収めています。
――撮影時の印象的なエピソードなどありましたらお教えください。
表紙に使われている空撮は松竹撮影所なのですが、あれは実は予定にないもので……たまたま取材日に佐藤哲治さんという『御家人斬九郎』などの特機を担当した方がドローンの練習に来ていたんです。「だったら本の写真も」と製作部の方が頼んでくださって、ラッキーでしたね。
東映も含めて皆さん、”撮影所の写真集” が出版されることをよろこんでくれて本当に協力的でした。
――実際の取材内容を踏まえたことで、企画内容・構成などの変更点などは出てきましたか?
大きな変更はないです。取材人数が増えたのと、写真が多すぎて整理に困ったくらいで。立東舎の担当編集の山口(一光)さんは必殺本のとき「京都に来るのはマキノ(雅弘)生誕100年の墓参り以来ですよ」と言っていた映画ファンで、撮影所の変遷を辿った巻末の特集は山口さんのアイデアで加えました。
戦前は撮影所の数や入れ替わりが激しいので思った以上に大変でしたが、よい資料になったと思いますし、60年代や70年代の状況を知る当時のスタッフの方々にも助けていただきました。たとえば大映倒産後に『木枯し紋次郎』のスタジオとして使われた天神川の日本京映撮影所について聞いたりして。
――本書の制作を通じて、高鳥さんの撮影所やそこで働く人たちに対しての認識などが変わった部分はありましたか。
特に変化はないのですが、もともと作品を送り出しているスタジオやスタッフの方々への敬意はありますね。もう20年以上にわたり時代劇というジャンルは厳しい状況に置かれていますが、それでも場があり、人がいる。ビジュアルメインの撮影所本というかたちで2025年の状況を残すことができたのは、映画ジャーナリズムの片隅にいる人間として ”なすべきことをなした” 実感があります。
――最後に、本書のセールスポイントをアピールしていただけますか。時代劇ファン以外に興味を持つことができたり楽しめる要素もありますか?
あります! かつて『工場萌え』という写真集が話題になったり、歴史的な建築物や銭湯、廃墟などを特集した本もたくさん出ています。『京都撮影所案内』もその系譜につながるものとして、時代劇に馴染みのない方でも見て読んで楽しめる本になっていると自負しています。
実は企画を思いついたのも、新宿紀伊國屋書店の映画本コーナーの近くに建築系の写真集コーナーがあって、それを目にしたことなんです。世の中こんなに建物関係の本があるのなら、撮影所だっていけるのではないか……と。
ありそうでなかった1冊なので、ぜひお楽しみいただければと思います。
高鳥都 PROFILE
たかとり・みやこ/1980年生まれ。2010年よりライターとしての活動をスタートし、雑誌を中心にルポやインタビューを発表。著書に『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』『必殺シリーズ異聞 27人の証言録』『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』『あぶない刑事インタビューズ「核心」』、編著に『必殺仕置人大全』『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』があり、『漫画+映画』ほか共著多数。
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