2024年のマーケティングおよびメディア業界は、テクノロジーや市場環境の急速な変化を受け、これまでの慣習や枠組みに頼らない柔軟なアプローチが求められるようになった。7月に発表されたChromeにおけるサードパーティCookie廃止の撤回をはじめ、AI活用が実践フェーズに突入したことでデータドリブンな戦略がさらに重要視されるなど、手法が大きな転換期を迎えたことは明らかだ。こうしたなか、Digiday Japan恒例の年末年始企画「IN/OUT 2025」では、当メディアとゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブにアンケートを実施。2024年をどのように総括し、2025年に向けてどのような挑戦と成長のビジョンを描いているのか、その想いに迫った。ユニファイド・サービス株式会社で、執行役員 CMOを務める甲斐博一氏の回答は以下のとおりだ。

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――2024年のもっとも大きなトピック・成果は何ですか。

2024年を振り返ると、いくつかの不連続的な出来事が我々の前に立ち現れた年だったように思います。より正確に言えば、これまで水面下で静かに進行していた変化が、突如として大きな潮目の変化となって表面化し、社会システムそのものを覆す現象として現れた年と言うべきかもしれません。特に印象的だった変化が2つあります。ひとつは、ソーシャルメディアが、年齢や職業を問わず、すべての世代において「もうひとつの」メディアから「主たる」メディアへと姿を変えたこと。そしてもうひとつは、生成AIの存在が、我々の日常や仕事の風景を、まるで魔法のように一変させていったことです。どちらの変化も、いまや当たり前なので、あえて言葉にする必要もないほどに社会に深く根を下ろしはじめています。しかし、この「当たり前」という感覚こそが、既存の社会システムを大きく変える契機となっているのかもしれないと感じています。ソーシャルメディアとトラディショナルメディアを単純に比較することには、もはや意味がないでしょう。ただ、近代社会を形作ってきた情報の流れが、マスメディアという太い一本の川から、ソーシャルメディアという無数の支流へと移り変わっていく様は、見過ごすことのできない歴史的な転換点だったように思います。インターネットが我々の前に姿を現してから30年。多方面でのシステムを変えてしまったこのテクノロジーは、またひとつ社会システムを変化させる大きなうねりをもたらしました。生成AIもまた、我々の創造性と生産性に、想像をはるかに超える変化をもたらしました。自分自身の仕事を振り返っても、わずか1年前と今日では、まるで別の時代を生きているかのような違いを感じます。朝、パソコンを開き、生成AIとの対話から1日をはじめます。その瞬間から、アイデアが次々と形になり、作業の効率が飛躍的に向上していきます。そして、我々がこれまで想定していた「人とAIの協業」における境界線は、日々AIの領域へと広がりを見せています。現時点では、その恩恵は主に生産性の向上という形で現れていますが、この1年の劇的な進化を目の当たりにすると、創造性の領域でも、我々の想像をはるかに超えるスピードで発展していくことは間違いないでしょう。2024年は、メディアの地殻変動とAIの革新という2つの大きな波が、我々の社会システムを根底から変えていった年として、記憶に残ることと思います。

――2025年に向けて見えてきた課題は何ですか。

いくつかの変化をもたらした2024年ですが、私の目の前に浮かび上がってきた課題は、上述した2つの大きな現象に深く関連しています。25年にわたるマーケティングキャリアのなかで、確かに私はソーシャルメディアを活用した数々のキャンペーンを手がけてきました。しかし、今になって振り返ると、それらは結局のところ、企業という一方向からの視点で設計された施策にすぎなかったのではないか、と疑わざるを得ない状況をもたらしています。真の意味での「共創」という発想に至らず、短期的なROIという数値を追いかけることに終始していなかったか。この気づきは、私に大きな示唆を与えてくれました。いま、ソーシャルメディアを中心とした新しい社会の姿が見えてきたなかで、マーケティングに求められる役割も、大きく変わろうとしています。それは、一時的な反応を追い求めるフロー型から、持続的な関係性を育むストック型へのパラダイムシフト。この認識は、私にとって大きな転換点となりました。一方で、この新しい概念を企業の経営システムにいかに組み込んでいくのか。それは、マーケティングの成果指標の再定義という観点からも、今後の重要な課題となることは間違いありません。また、生成AIについては、フルAIによる動画生成を今年本格的に経験する機会を得ました。まだ世に問うには至っていないものの、この経験を通じて、マーケターという職能について、新たな気づきを得ることができました。それは、これまでもマーケターのスキルの一部として存在していた「ストーリー生成ディレクション」という能力が、AIの時代においてより一層鮮明な形で浮かび上がり、今後のマーケターの質を決定づける重要な要素となっていくだろうという予感です。このスキルの重要性の再定義は、マーケティングをはじめとする企業組織全体のあり方にも大きな影響を与えていくのかもしれません。

――2025年にチャレンジしたいことを教えてください。

2024年に経験したいくつかの変化は、2025年への扉を開く鍵となるはずです。その先にある未来を見据えながら、いくつかの実験的な取り組みにチャレンジしていきたいと考えています。もっとも重要な取り組みとして位置づけているのが、ストック型マーケティングへの転換です。これは単年度で成果を求められるものではなく、数年という時間軸で取り組むべき課題です。これまでマーケティングは、短期的なP/Lへの貢献を主眼に置いてきました。しかし、これからは企業ストック指標であるB/Sへの貢献、つまり企業価値の向上にフォーカスを当てていく必要があります。ただし、ここでの課題は、B/Sは財務指標であるため「ブランド価値」「知財の価値」「新たな顧客創造」など可視化しにくいものをどう可視化していくか。企業と社会との関係性の側面であるブランドや、共創による価値創造といったマーケティング活動の成果を経営に根付かせる活動もまた重要だと考えています。2025年は、こうした新しい活動と新しい指標づくりにチャレンジしていきたいです。もうひとつの重要な挑戦は、「ストーリー生成ディレクション」の実践です。この取り組みは、段階的なアプローチを想定しています。まず第一段階として、マーケターが描くストーリーをAIとの協業によって、より社会に響く形に昇華させていきます。そして第二段階では、そのストーリーを起点に社会との共創へと発展させていく。ただし、この順序自体が最適なのかどうかは、まだ確信が持てません。むしろ、社会との共創を先行させ、そこから生まれた価値をAIの力を借りながらストーリーとして紡いでいく、という逆のアプローチも考えられます。2025年は、この2つのアプローチを並行して検証していくことができないかと思案しています。これらのチャレンジは、いずれも確実な答えを持ち得ない実験的な取り組みです。しかし、急速に変化する社会システムのなかで、企業と社会がよりよい関係性を築いていくためには、こうした実験的な取り組みこそが重要だと確信しています。自分自身だけでなく、まわりの業界の仲間、そしてマーケティング業界全体の取り組みも学習させていただきながら、2025年は自分なりにマーケティングと経営をさらに進化させていく年にしたいと思います。変革期だからこそ、果敢な実験と誠実な対話を重ねながら、未来への確かな一歩を踏み出していきたいと考えています。

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