強盗殺人容疑で逮捕・送検された宝田真月容疑者(写真・共同通信)

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 2024年8月ごろから、首都圏を中心に相次いで貴金属店や一般住宅を標的にした強盗事件が、14件も発生している。

 横浜市青葉区では被害者が死亡し、実行役の一人として宝田真月(まづき)容疑者(22)が強盗殺人の疑いで逮捕された。また、千葉県市川市では犯行後に被害者の女性が一時連れ去られるなど、手口も凶悪化している。これらの犯行に関わっているとされるのが、SNSなどで繋がった不特定の人間で構成される「匿名・流動型犯罪グループ」いわゆる「トクリュウ」だ。

「警察は10月18日から警視庁と神奈川、埼玉、千葉の各県警約300人体制で捜査をおこなっていますが、これまで逮捕にいたったのは実行役や運転手役などおよそ30人。指示役の逮捕には繋がっていません」(全国紙社会部記者)

「トクリュウ」の犯行といえば、「ルフィ事件」の記憶が新しい。首謀者はフィリピンを拠点に2018年から2020年の間に、60億円を超える被害をもたらした特殊詐欺をおこない、同国の入管施設に収容された後は、スマートフォンで日本国内の実行役に指示を出し、連続強盗事件を起こした。

「ルフィの場合はテレグラムを利用していましたが、今回は秘匿性の高い通信アプリ『Signal』を使って、実行役や運転手役に計画を実行させています。『Signal』は一定時間がたつとメッセージは消去され、復元は困難とされています。ルフィ事件では、警視庁の捜査支援分析センター(SSBC)がメッセージの復元に成功しました。今回も、同センターが押収した携帯電話の解析を進めています」(前出・社会部記者)

 だが、事件の全容解明はいっこうに進んでいない。その理由を警視庁担当記者が話す。

「警察は指示役の正体をまったく追えていないようです。『Signal』の米国本社に解析依頼を出して、その了承を得たうえで解析を進めなければならないので、かなり時間がかかるそうなんです」

 全容が見えない「トクリュウ」について、暴力団関係者は自嘲気味にこう話す。

「六代目山口組をはじめ大きなヤクザ組織は、オレオレ詐欺や特殊詐欺には絶対関わるな、と通達されている。そうした犯罪に関わった組員は、破門か絶縁処分。所属している組も取り潰される。そもそも、タタキ(強盗)は一回で懲役20年から無期懲役、割に合わないよ。だが、こうした素人の犯行がのさばってしまったのは、ヤクザの力が弱まってしまったことが原因の一端。仲間も『組織が弱体化していなかったらこんなことはさせない』と言ってたよ」

 だが、かつて暴力団に関わったことがある男性は「あれは20年ほど前にできたある犯罪組織のやり方をまねたもの」と明かした。

「その組織は恐喝や誘拐、風俗など得意分野を持つ元ヤクザが集まって作られたもの。目論見は成功して、かなり儲かった。最後は摘発され、組織は壊滅したが、10年ほど前、有名暴力団を破門された凶悪な武闘派の元ヤクザたちがそのやり方をまねして作ったのが『トクリュウ』だ。可能な限り組織性を消すために、組織に名前はついていない」

 完全にピラミッド型の組織で、上からトップ、四天王クラス、幹部クラス、“ルフィ”などの指示役。さらにその下に指示役補佐、現場の指示役、実行犯リーダー、使い捨ての実行犯で構成されているという。

「ルフィクラスの指示役を、世間では詐欺強盗集団のトップと思っているが、彼らはいざとなれば組織から切られて、警察に渡される程度の人間。ルフィ程度の指示役は、日本全国で100人近くいる。昨年のルフィ事件でも、強盗事件が続いて突然、ルフィなんて人間がフィリピンにいて……という話になったが、あれはルフィが組織から切られたということ。ルフィの強盗団が世間で騒がれて、これ以上問題化するとヤバいということになり、警察に耳打ちして逮捕させたのだろう」(前出・男性)

 昨今、ルフィ事件のように詐欺から強盗に手段を変えたことにも理由があるという。

「もともとは闇カジノやオレオレ詐欺とかで世間には目立たずに稼いでいた下部グループが、警察の締めつけが厳しく、それで稼げなくなった。ただ、配下に人間だけはいっぱい抱えているから、仕方なく強盗に手を出した。だから、あんなに素人っぽい手口になるんだ。ルフィクラスの指示役では、それより上の幹部クラスについては、顔も名前も知らないかもしれない。Signalやテレグラムで、命令を受けるだけの存在。そもそも、自分がそんなに巨大な組織の中にいることも知らないのではと思う。上の人間は悪事にいっさい手を染めず、収益だけを吸い上げる。そういうシステムを作り上げてるからね。今回の広域強盗も、もう少ししたら指示役が急に浮上して逮捕されて終わるだろう」(同前)

“尻尾切り”で終わらせてはならない。