【イングランド(29日)=森昌利】10月28日、マンチェスターUがエリック・テン・ハグ監督(54)を解任した。これで20年に渡る黄金期を築き、まさに不世出の大監督だったアレックス・ファーガソン監督の2013年勇退後、11年余りで暫定監督を含めると8名の監督が去ったことになる。

 この間、一番長持ちしたのはクラブの元アイドル選手だったスールシャール監督の148試合。それに続くのがモウリーニョ監督の144試合。いずれにしても任期は約2年半。両監督ともに3シーズン目の途中で解雇されている。

 テン・ハグ監督は前述の2監督に続く3番目の128試合を指揮したが、3シーズン目で解雇された。もしも昨季の公式戦最終戦となったFA杯決勝で地元ライバルのマンチェスターCを破って優勝しなければ、今季の指揮を取ることはなかったはずだ。

 結果的には世界最古のカップ戦を制して無冠を逃れたことが仇になり、シーズン途中、しかもまだ第9節が終了した時点の序盤戦での監督解任となってしまった。

 それも無理はない。9戦で3勝2分4敗の14位。しかも問題は得点数。伝統的にその攻撃力が自慢のマンチェスターUが9試合でわずか8得点に留まっている。現時点でマンチェスターUよりゴール数が少ないのは6点の最下位サウザンプトンと17位クリスタルパレスの2チームだけだ。

 今季も綱渡りの連続だった。開幕戦、フルハムに1−0で辛勝したが、2戦目のブライトン戦で1−2で早くも1敗。続く9月1日に行われた第3節、国内最大のライバルであるリバプールにホームで0−3で完敗して、解任報道が出た。

 その後トットナムにもホームで0−3。今月10月の代表ウィーク直前にも解任報道が出た。その一方で今季から現場の決定権を持つ共同オーナーのジム・ラトクリフ氏は性急な監督交代を嫌い、FA杯を優勝して自らの命運を切り拓いたテン・ハグ監督を支援した。しかし結局、アウェーとはいえ、マンチェスターUとしては負けが許されないウェストハム戦の1−2で苦渋の決断を下した形になった。

 子供時代からマンチェスターUをサポートする英実業家が実権を握って、監督が完全に現場を掌握する体制を作ろうとしているのは吉報だが、ここでまた完全に振り出しに戻ることになった。

 そうした混乱の中、解任翌日29日の現地報道では、後任監督として日本代表MF守田英正(29)が所属するスポルティングCPの39歳指揮官、ルベン・アモリム監督と交渉を始めたという。

 報道が事実なら新監督人事の方向性は悪くはない。これまでに実績重視でファン・ハールやモウリーニョを招聘したこともあったが、真の強豪に復活したいなら、やはり昔の名前ではなく、将来性のある若い監督を連れてくることが肝要だ。

 確かにファン・ハールとモウリーニョは一時代を築いた名将だが、マンチェスターU監督に就任した時点では戦術的に最先端の指導者ではなかった。しかもモウリーニョにはチェルシーの色がついていた。やはりライバルとの競合が激しいプレミアリーグでは、国内の他の強豪クラブを監督した過去はマイナスになりやすい。勝ち続ければいいが、少し戦績が悪くなると、サポーターの心がすぐに離れてしまう。

 次世代の才能ある若い監督を見出し、全権を与えて、しっかり腰を据えて指揮を取らせるのが名門復活の早道なのだと思う。

 とすれば。以前に招へいの噂のあったポチェティーノ監督やトゥヘル監督は、二人とも代表監督に就任してマンチェスターU監督就任の目がなくなったが、それは幸いだった。ともにチェルシーの監督を務めており、赤いユニホームのチームに青いユニホームのチームの過去が透けることになるからだ。

 まだ若手監督ではあるが、同じ理由でチェルシーを率いたポッター監督、また守備的すぎる前イングランド代表監督のサウスゲート氏もクラブの攻撃サッカーの伝統に合わず、個人的に招聘は微妙だと思っていた。

 ここでアモリム監督招聘に動いているとなれば、テン・ハグ監督解任のマイナスを一気にプラスに転じさせる可能性はある。

 ともかくイングランド一部リーグ最多の20回優勝を誇り、歴史的な最強クラブであるマンチェスターUが弱くてはプレミアリーグが面白くない。

 今度こそ新オーナー体制で現場と経営陣が一つにまとまり、ポルトガル人の若き知将の招聘に成功して、かつての強さを取り戻す第一歩を示して欲しいものである。