与党の大敗に終わった衆議院選挙。石破首相は続投する構えだが、28日以降の市場はどう動くか(写真:ブルームバーグ)

まずは衆議院選挙の前から相場を振り返ろう。先週の10月24日、日経平均株価は前日比でわずか38円高の3万8143円で引けた。だが、寄り付きは300円安と予想以上に売られていたことで、始値よりも終値が高い「日足陽線」となり、前日の23日まで11日間(営業日)連続していた「日足陰線」(日足陽線の逆の形)はこの日でようやく途切れた。

すでに10月8日から不確実性を嫌っていた市場

少しだけ基本の話をすると、投資家の日中のトレードで、翌日に不透明感がある場合は、当日で建玉(たてぎょく)を手仕舞うケースはよくあることだ。その力が大きいと、当日の寄り付き値よりも引け値が下回ることになる。ローソク足チャートではこの1日の動きを書く(チャートでは「引く」と言うが)ときには、黒(または青)で書き、これを「陰線」と呼ぶ。

逆に寄り付き値よりも引け値が高いと、白(または赤)で書いて、これを「陽線」と呼ぶ。通常のローソク足チャートは、この陽線と陰線が入り混じった形で進んで行く。

白と黒が交互に並ぶと、葬儀などに使う鯨(くじら)幕のようになるので「鯨幕相場」と呼んで、方向感のない局面を表す。また、黒が同一方向に3本出ると三羽烏(さんばがらす)と言って、相場の下降トレンドが始まる兆候だと言われる。

ただ、日経平均は、今回の11連続陰線がスタートした10月8日こそ前日比395円安だったものの、ずっと下落していたわけではない。翌日は340円高と切り返し、翌々日も102円高、その次の日も304円高で、同一方向とはなっていない。

やはり、日本の投資家が建玉を翌日に延ばしたがらない理由は、何と言っても10月27日の日本の衆議院選挙と11月5日のアメリカの大統領選挙の結果に対する不透明感があったからだ。事実、11連続陰線が始まった前出の10月8日は、衆議院が解散された10月9日の前日であることでもわかるだろう。

さて、日本の話題を独占してきたこの衆議院選挙が、ようやく10月27日で終わったわけだが、選挙戦終盤では「与党過半数割れの可能性」を報道するメディアも複数あった。そのため、選挙直前の取引最終日である10月25日は、当初売り物をこなし切れず、日経平均は一時前日比430円安となった。

しかし、売りが売りを呼ぶ展開にはならなかった。特に連続陰線の日にはなかった、引けにかけてのまとまった買いで同229円安まで戻り、3万7913円で引けた。選挙の不透明感に対する不安は、逆の意味で、売り方にもあったようだ。従って、選挙結果を不安材料とみるエネルギーはここで出尽くしたと考えられる。

兜町の一部にあった「同情票期待」も剥落

ただ、「11連続陰線という稀有な現象はこれですべて終わったのだろうか、何か悪いことが起こるシグナルではないか?」と投資家が考えるのも無理はない。

実際、形は若干違ってはいるが、こうした日経平均の連続安はその後の波乱のシグナルとなることもある。直近では、日経平均が7月17日〜26日の8日間連続安の後、8月5日の前日比4451円安となったことは記憶に新しい。

では、今回の11連続陰線は、自民党の過半数割れどころか、連立与党の過半数割れまで織り込んだのか。結論から言うと、織り込んでいたのではないか。

野党は「裏金候補に対する処分が不十分だ」と攻撃していたが、当初、兜町の一部では「かわいそうだと感じる有権者もおり、自民党の非公認候補に一定の同情票が入って、意外に予想よりも良い結果が出るのでは」との見方も結構あった。

だが、その後、大義名分はあるにせよ、そうした非公認候補が支部長を務める支部へ公認料と同じ額も含め、2000万円の活動費が支出されていたことなどが報道されると、逆に「これで非公認候補への同情票を大きく減らしてしまった」と兜町はみていた。「何ということをやるのだ」と。果たして、同情票は入らずに、主要マスメディアなどの予想どおりの連立与党の過半数割れとなった。

極端から極端に走るのが兜町だ。兜町では、「自民党には『あの悲哀』をもう2度と味わいたくないというベテラン議員が多い。恥も外聞もない、連立政権を作るはずだ」などとささやかれている。

「あの悲哀」とは、1993年から1994年までの細川(護熙・もりひろ)内閣は短期間だったのでそれはともかく、やはり2009年から2012年の民主党内閣時代を指す。鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦首相と3代続いた非自民党内閣時代、取り巻きは消え、陳情団も近寄って来ないという悲哀をもう2度と味わいたくないというわけだ。

今後、与党は過半数維持に向けどう動くのか。まず連立に向けては国民民主党がその候補になる。これに日本維新の会、さらには日本保守党も加わる5党連立政権構想となると、現時点では空想の世界でしかないが、兜町とはそういうところだ。今回の選挙結果を見て、兜町や短期筋は28日にどう動くのか。5党連立は冗談だとしても、どの勢力が連立に加わるのか? それも面白くなった。

「もう1つの選挙不安」は消えていない

すでにチャートをみてもわかるとおり、日経平均は25日現在で25日・75・200日という3つの移動平均線を下回り、きわめて形が悪くなっていた。

しかし、チャート理論から言うと、それならばもっと大きく下落する可能性が高かったにもかかわらず、実際の日経平均はそうなっていなかった。11連続陰線も、衆議院選挙の不透明感を嫌う「オーバーナイト拒否」(建玉を翌日に持ちこさないこと)の連続で現れたチャートの形であって、現在の日経平均が移動平均を下回るこのチャートの形は、「これからの下げを呼ぶ暗示ではない」ということだ。

ただ、衆議院選挙は終わったが、まだ11月5日のアメリカ大統領選挙が残っている。民主党のカマラ・ハリス候補有利から、共和党のドナルド・トランプ候補有利に変わりつつあると言われるこの選挙も、市場にとっては大きな不透明要素である。

実際、衆議院選挙前には一時1ドル=153円台まで円安が進んだにもかかわらず、日本株は株高になっていない。「円安・株高」の関係が、トランプ候補の掲げる「アメリカファースト」主義で壊れるのか。円安期待が、企業業績見通しの数字となって現れる、日経平均の予想EPS(1株当たり利益)も、10月15日に過去最高の2514円84銭以降を記録したあとは、若干足踏みの様相を見せている。

とにかく日本の衆議院選挙が終わり、選挙戦終盤の予想どおりの結果となったことで、大きな不透明感はひとまず晴れた。「日本のブラックマンデーもありうる」と想定、カラ売りで儲けようとしていた売り方からすれば、いったん買い戻すところだ。だが、買い方の心が晴れ「もうここからはあまり落ちないはず」と強気になるのは、11月5日以降のアメリカの株式市場を待たねばならないようだ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)