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 いま頻発している強盗事件や特殊詐欺事件。それらの現場で実行役となっている多くが、いわゆる「闇バイト」と呼ばれるSNSで集められた若者たちです。それまで悪事とは無縁だった若者がどうして罪を犯してしまうのか?今回、SNSをきっかけに自分の意図しない形で特殊詐欺に手を染めてしまった人に話を聞くことができました。巧妙な誘い文句、具体的な犯罪の手口とは。そしてその瞬間、本人は何を思っていたのか、取材しました。

より巧妙化 時代とともに変化する犯罪

 龍谷大学・犯罪学研究センターの前所長である石塚伸一名誉教授によりますと、時代とともに犯罪の中身が変化していると言います。

 昭和の時代にはストリートクライム(街頭犯罪)と呼ばれる窃盗や置き引き、空き巣などが主流でした。

 平成時代になると電話による詐欺に変わっていきます。犯罪の中身も時代背景を表していて、子どもや孫を装う『オレオレ詐欺』、低金利でお金が増えない時代に入ってくると『未公開株』の手口が増加。さらに、給付金などがさまざまな形で政府からもらえるようになると『還付金詐欺』が出てきます。

 令和時代に入ると、SNSをきっかけにした『闇バイト』へと変わっていき、誘う手口も巧妙化・多様化しています。手っ取り早く収益を得るため手口が荒くなっていっていきます。

 これを加速させたのが新型コロナ。コロナによって対面せずリモートでやり取りをするのが日常になったことが背景にあります。石塚伸一名誉教授によりますと、犯罪者側にとっては若者を脅すなどしてコントロールする“洗脳の手口”が確立されたところだということです。今後はより巧妙なやり方で全国に広がっていく恐れがあるといいます。

特殊詐欺闇バイトに加担したAさんの実体験

 そうした中、今回話を聞くことができたのは闇バイトで特殊詐欺に手を染め服役をした北海道在住の30代Aさんです。自身の反省を踏まえ、「多くの人に知ってもらうことで1人でも食い止めることができれば」と取材に応えました。

 Aさんは道内の高校卒業後、地元の大手企業に就職。若くして立場がある役職に昇進するも、パワハラや長時間労働で精神を病んでしまいます。20代でうつ病を発症し、転職を繰り返すことに。その後、うつ病の悪化で仕事を辞め、生活に困窮します。両親とは仲は良いものの、「自分で何とかしなさい」と言われたということです。

 生活するお金がなく困っていたときSNSで『何か仕事ないかな』と何気なくつぶやいたこの日から“身を滅ぼす4日間”が始まります。

【転落の4日間/1日目】  DMで日給5万円とメッセージが届く

 AさんがSNSで書き込みをしてからほどなくして「仕事ありますよ。日給は5万円です」というダイレクトメッセージが届きます。「やらせてほしい」と返信をすると、信頼できる人か確認したいということで、身分証明書や実家の住所を求められました。

 また、やり取りのために『テレグラムを入れておいて』と連絡が届きました。テレグラムは秘匿性が高く、後でメッセージのやり取りを消すことができるために犯罪にも使われてしまうアプリです。つぶやいた数時間後で、ここまで事が進みました。Aさんはこの時点で、何も怪しいと思っていませんでした。

【転落の4日間/2日目】 おかしいと気づき拒否するも脅され…

 そして翌日の朝、Aさんの口座に5万円が入金されます。これは給料でありません。このお金を使って、仕事で必要なもの(ジャケット・ビジネスバック・プリペイドカード(10枚〜20枚)・はさみ・封筒など)を買うよう指示されます。

 そして、これを買い揃えている間に新たに番号が送られてきました。コンビニのコピー機で指定された番号を入力して出てきたのは、前日に自身が送った顔写真が入った、偽造の警察手帳。この瞬間、Aさんは「これはおかしい」と気づき、「やりません」とはっきり言いました。

 そうすると「○○に家があるんだよね?」と脅されました。怒鳴ったりするのではなく優しい口調で「燃やすこともさらうことも」「親御さんに何があっても知らないよ」ということを言われたそうです。自分が殺されないために、そして親に害が及ばないために、“せざるを得ない状況”に陥ってしまいました。冷静な判断があればここで警察に行くべきですが、「警察にも話は通じている」などと言われ、警察に行くこともできませんでした。Aさんははこの時の状況を「八方ふさがりだった」と振り返ります。

 次の日、プリペイドカード数枚を封筒に入れたものを準備するように言われ、それを持って指定の住所へ行きます。そこには70代後半の女性が。私服警官を装ったAさんにイヤホンを通じて逐一指示が出され、指示役が言った通りのことを女性に伝えます。

 女性にはすでに「掛け子」から、キャッシュカードが不正利用されていると連絡しています。そこに、警官に装ったAさんが、女性が用意した複数枚のキャッシュカードなどを女性の目の前で封筒に入れます。そして、「しばらく誰も使わないように封筒に印鑑で封をしましょう」と女性に言い、実印を持ってくるように伝えます。その実印を取りに行っている隙に、Aさんが用意した同じ封筒とすり替えます。中身がすり替わっていることを知らない女性に、「不正利用の確認する間、絶対誰にも渡したり開けたりしないで」と伝えて封筒を返したということです。

 その後、指示役から「すぐに出で銀行に行け」という指令が来たといいます。Aさんは車でATMへ向かい、キャッシュカードで現金を引き出します。口座に限度額の50万円以上があるものは50万円、50万以下のものは限度額の1000円単位まで引き出します。防犯カメラを警戒するAさんに、指示役は説得を行います。「金で警察は丸めこめる」「監視カメラも銀行に言って止めている」「もらうのは(相手が)不正に得たお金」などど、言葉巧みに納得させてきたと言います。

【転落の4日間/3・4日目】群馬・神奈川でも特殊詐欺に加担 そして解放後にも再び…

 これで話は終わりません。ATMで引き出したお金を「いますぐ東京まで届けに来い」と命令されます。また、50万円以下しかない口座のカードは証拠隠滅のためにハサミで切り、公衆トイレに流すよう指示されたと言います。50万円以上あるものは、翌日また引き出すためにとっておくということです。そして東京都内のコインロッカーに、引き出した現金を自分の報酬のみ抜き取って入れるように指示されました。コインロッカーからは出し子が回収します。

 Aさんは「3日やったら解放する」と言われ、3日目は「群馬に行け」。4日目は「神奈川に行け」と指示されます。3日間で3件の「受け子」を行い、報酬として約30〜40万円を得て解放されました。

 Aさんはその後、受け子で得たお金でひと月を過ごすも再び金に困り、高収入をうたうSNSで今度はスマホ詐欺に被害にあうことになります。再び無一文になり借金を抱えて生活に困窮。今度は自分から指示役に連絡を取り、再び3件、合計6件の受け子詐欺を行ってしまいます。今思うと、生活保護などを受けた方が良かったとAさんは語っていました。

 Aさんは、1回目の犯行時の車のナンバーで逮捕され、懲役3年の実刑判決を受けました。その後服役をして今社会復帰をしているということです。

「自分の話を聞いて1人でも犯罪をとどまってくれたら」経験者の訴え

 改めてAさんが犯行に加わったその当時の心境を語ってくれました。

 (Aさん)「最初は怪しいと思っていないですよね。(犯罪だと分かったときは)一気に血の気引いたっていうか。自分が悪いですけど、親を巻き込みたくないとか、自分でなんとかしないといけないと考えて。あとはもう脅されていくいっぽう。洗脳されていくというか、自分が殺されないようにとか家族に害がないようにという気持ちだけでも動いた」

―――犯行時にはどう思いましたか?
 (Aさん)「おばあちゃんも良い人が多くて、すごく心が痛かった。ずっと苦しいですね。声も震えるんですよ。指示役から『お前声震えてるからもっと堂々としろ』とか言われるんですよね。追い詰められていたので、そのときはわらにもすがる思いだった。やってからでは遅い。もし周りに助けてくれる人がいたら、まずは助けてもらったほうが間違いなく良いと思います。(自分の話を聞いて)1人でも犯罪をとどまってくれたら良いなと」

闇バイト」に加担する若者を減らすには…

 では、どうやって加担する若者を減らすことができるのか、実はこんな研究があります。ハーバード大学やブリティッシュコロンビア大学の研究グループによる調査によりますと、非合理的な判断をすることは教育水準のみが原因ではなく、貧困という状態そのものが判断力を鈍らせてしまうということです。

 また、貧困は孤立につながりやすいとも言われています。石塚伸一名誉教授によりますと、人は時間があるときや、やることがないときに悪いことを考える傾向があると言います。つまり、いかに多くの人と関係を構築するかが大切。そうしたチャンスを作ったり、教育をしたりすることが必要だということです。

 犯罪が増加し、いつ被害者、あるいは加害者になってもおかしくないと考えると、他人事ではないかもしれません。