石破政権”終了”へ…「戦後最短内閣か」自民大敗、党内から怒りの声続出”次の総理は茂木元幹事長”鍵はやっぱり麻生

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 政権選択を問う第50回衆院選は10月27日投開票され、石破茂首相が率いる自民党は公示前から大きく議席を減らした。連立政権を組む公明党も議席減となり、政府・与党内には大激震が走る。政界事情に通じる経済アナリストの佐藤健太氏は「石破首相は10月1日に就任したばかりだが、この結果によって『石破おろし』がスタートするだろう。残念ながら、戦後最短内閣となる可能性は高い」と見る。石破首相の次を担うだろう意外な人物とは―。

石破の大博打、その結果は惨憺たるものとなった

 内閣発足から8日後の衆院解散、26日後の投開票という戦後最短スケジュールでイチかバチかの大勝負に出た石破首相(自民党総裁)。だが、その結果は惨憺たるものとなった。立憲民主党や国民民主党など野党が伸長する一方で、自民党の大幅減は深刻だ。当然、石破氏には責任を問う声が向けられる。

 自民党に対する大逆風は、派閥の政治資金パーティー収入をめぐる不記載問題が背景にあったのは間違いない。だが、それ以外にも旧統一教会との接点問題や岸田文雄政権時代の増税プラン策定、さらには石破氏の“変節”や選挙直前の「非公認・比例重複なし」といった混乱も影響したはずだ。いずれにせよ、前回衆院選(2021年)からの3年間で蓄積された国民の鬱憤が爆発した形と言える。

もちろん、その全ての責任を石破首相に負わせるのは酷との声も自民党内には存在する。とはいえ、政治は結果だ。石破首相は政権維持のため、無所属議員や国民民主党などに協力を呼びかけたい考えだが、責任論の噴出は不可避だろう。選挙戦最終盤で発覚した非公認候補が代表を務める支部に活動費として政党交付金2000万円を支給したことにも怒りが向かう。

党内に不満が充満

 では、これから「石破おろし」はどう進むのか。まず言えるのは、石破氏と距離を置いてきた旧安倍派議員たちを狙い撃ちにしたかのような「非公認・比例重複なし」の措置に対しては党内に不満が充満していることだ。旧安倍派には9月の自民党総裁選で石破氏と争った高市早苗元経済安全保障相の支援議員が多く、今回の衆院選で数が減ったとは言え「石破おろし」に動き出すのは想像に難くない。

 加えて、森山裕幹事長が主導したとされる「2000万円支給」問題に対する怒りも石破執行部に向けられる。投開票2日前の10月25日には、岐阜5区に出馬していた古屋圭司元国家公安委員長が「開いた口が塞がらない」などと森山幹事長の応援演説を拒否したことを明らかにした。

これから「石破おろし」はどう進むのか

 岩屋毅外相のように「党が活動資金を手当てすることに問題はない」と擁護する声もあるが、選挙戦最終盤に「後ろから鉄砲が飛んできたようなもの。いい加減にしてくれという感じだった」(旧茂木派議員)と憤る議員たちは多い。

 ただ、いち早く動き出すとみられる高市氏のグループが「石破おろし」の中核になるかと言えば、答えはNOだろう。なぜならば、石破氏を総理・総裁の座から引きずり下ろすことは、すなわち「次の首相」選びとセットでなければならないからだ。9月の自民党総裁選で高市氏はたしかに勝利まで、あと一歩だった。1回目の投票は党員票トップの109票を獲得し、国会議員票でも2位の72票で合計は1位だった。だが、石破氏との2人の決選投票では国会議員票でも党員票でも敗れている。

 もちろん、この時の勢いがあれば「ポスト石破」は高市氏で決まりと見る向きは少なくない。だが、今回の衆院選で高市氏の“応援団”が数を失った点は“次”を狙う際に不利に働く。その理由は、次期総裁選の選出方法にある。9月に実施された総裁選は、国会議員票(1人1票)が368票、党員票が368票の計736票で争われた。立候補には国会議員20人の推薦が必要という「フルスペック」の総裁選だ。

「石破おろし」の最大のキーマンは麻生太郎最高顧問に

 だが、仮に石破氏を首相の座から引きずり下ろすことになれば、その際の総裁選は「簡易型」にならざるを得ないだろう。国会議員は1人1票を当てられるのに違いはないが、「党員票」の方は先の総裁選の決選投票のように「都道府県連票」として扱われる公算が大きい。つまり、党員・党友からの人気が高かった高市氏にとっては不利になる可能性が高いのだ。加えて、参院議員の数は変わらないにしても今回の衆院選で大幅減となった中で推薦人20人を集めるのは9月時点よりも大変になるのは間違いない。

 その観点から言えば、「石破おろし」の最大のキーマンは麻生太郎最高顧問になるだろう。自民党唯一の派閥「麻生派」を牽引し、2012年末の第2次安倍晋三内閣発足から岸田内閣まで主流派として政権を安定させてきた手腕は高く評価されて良いものだ。石破氏が連携の道を探る国民民主党とは、以前から茂木敏充前幹事長とともに協力関係を模索してきた。与野党に広がるパイプと党重鎮としての重みは他の議員には決してないものだ。

「ポスト石破」の最有力候補として茂木元幹事長

 その麻生氏は先の総裁選で結果的に高市氏の支援に回った。だが、「次」もそうだとは必ずしも言えないのではないか。麻生氏は「非石破」の立場から高市氏を支援していたとみられるからだ。つまり、石破政権誕生を阻止し得る他の候補がいれば高市氏以外に向いていた可能性がある。

 結論を先に言えば、筆者は「ポスト石破」の最有力候補として茂木元幹事長への待望論がわき上がると見る。茂木氏は今後のキーマンである麻生氏とともに岸田政権を支え、幹事長時代には国民民主党との連携も模索してきた。経済産業相や外相、党政調会長などを歴任し、経験と能力は豊富だ。

 先の総裁選では旧茂木派から加藤勝信財務相も出馬したため、1回目の投票で9人中6位となったが、国会議員票に限れば加藤氏に旧派閥の票が分散したものの34票(5位)を手堅くまとめている。今回の衆院選によって議員数が減る中、支持議員をまとめられる「ポスト石破」候補は限られるはずだ。

 一部には林芳正官房長官や小林鷹之元経済安保相らに期待する向きもあるが、茂木氏を派閥領袖の麻生氏が推すことになれば、国会議員票の多くが茂木氏に傾く可能性は決して低くない。対抗馬としては、保守系議員を中心に動き出す高市氏、旧岸田派議員をまとめる林氏、若手・中堅議員が擁立を目指す小林氏といったところだろう。ただ、「簡易型」の総裁選になれば茂木氏は議員票で優位に立つとみられる。

「石破おろし」の進行によっては、戦後最短内閣が更新

 石破首相は政権維持のため他党との連携を模索するだろうが、もはや自民党内の関心は「次」にあるはずだ。来年夏に参院選が控える中、このままズルズルと石破政権が継続すれば、政権交代に向かうとの悪夢がよぎる。ちなみに、戦後最短の首相在職日数は東久邇宮稔彦王の54日だった。「石破おろし」の進行によっては、戦後最短内閣が更新されることになる。

 だが、自民党閣僚経験者の1人は自嘲気味にこう漏らす。「執行部は責任をとるのが当然だけど、このような与野党の勢力図になったタイミングで『ポスト石破』に本気で就きたいと思っている自民党議員はいないのではないか。進むも地獄、退くも地獄だよ」。想像以上の惨敗で自民党が失ったものは、あまりに大きいようだ。