脳を働かせるには、どんな食生活をすればいいか。管理栄養士で健康料理研究家のマリー秋沢さんは「受験生には、脳のエネルギー源となる脂質も大事だ。体内で合成できない必須脂肪酸として『オメガ3系脂肪酸』と『オメガ6系脂肪酸』があるが、現代の食事では、注意しないと『炎症を促す作用』のあるオメガ6系の摂取が多くなりがちだ。一方で、『炎症を抑える作用』のあるオメガ3系を日常的に多くとっておくと、風邪をひいたり、アレルギー症状が出たりしたとき、炎症の症状が重くならずにすむと期待できる」という――。

※本稿は、マリー秋沢『受験メシ! 子どもの「成績を上げる」簡単で確実な方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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■「調理油をかえる」と記憶力もアップ!

受験生には、脂質も大事。脳細胞を元気に働かせるエネルギー源となるからです。

ただし、どんな脂質でもよいわけではありません。じつは、現代型の食生活では、脳によくない影響を与えてしまう脂質があります。

油の質を見極めるうえで知っておきたいのが、油の主成分である必須脂肪酸です。

必須脂肪酸とは、人の健康維持に欠かせない栄養素でありながら、体内で合成できない脂肪酸のこと。「食事から必ずとらなければいけない脂肪酸」です。

その種類には、「オメガ3系脂肪酸」と「オメガ6系脂肪酸」があります。

これらの脂肪酸は、どちらも人間の体に不可欠な栄養素。ところが、現代の食事では、注意しないとオメガ6系の摂取が多くなりすぎ、その害が出やすいのです。

なぜなら、オメガ6系には「炎症を促す作用」があるからです。

ただし、炎症とは、人体に備わった病気を治すために必要な症状でもあります。

私たちの体には、病気を防ぎ、治すための「免疫」という人体システムが備わっています。たとえば風邪を治すのも、免疫システムの働き。風邪のウイルスが侵入してきたとき、これを排除してくれるのが、免疫細胞たちです。

一方のウイルスは、私たちの細胞内で仲間をどんどん増やします。免疫細胞は、ウイルスにのっとられた細胞も攻撃し、破壊します。このときに起こるのが炎症です。

風邪をひいた際に喉が痛んだり、鼻水が止まらなくなったり、関節が痛んだり、熱が上がったりするのは、すべて免疫細胞がウイルスと闘っている証拠です。

■原材料に「植物油」と記載がないか意識する

とはいえ、炎症の症状が必要以上に強くなると重症化し、非常に苦しい思いをし、治るまでに時間がかかります。ちなみに、アレルギー性疾患も免疫の反応によって起こる病気で、あのつらい症状も炎症によるものです。

では、脳で炎症が起こるとどうなるでしょうか? 脳の働きが低下します。頭がボーッとしたり、記憶力が低下したり、疲れやすくなったり、頭痛がしたりといった症状が現れます。この状態で勉強しても、記憶力や集中力は低下しています。

このように、オメガ6系は、体に必要な脂肪酸である反面、とりすぎてはいけない脂肪酸なのです。

ところがオメガ6系は、含有量に差があるものの、野菜や果物、肉、魚などほとんどの食品に含まれています。まったく含まない食品はごく限られています。

にもかかわらず、現代の食生活では、オメガ6系の油を調理で主に使います。その油とは「サラダ油、ひまわり油、大豆油、コーン油、ゴマ油」などです。

いかがでしょうか。これらの油を加熱調理で日常的に使ってはいませんか?

写真=iStock.com/Михаил Руденко
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しかもオメガ6系の油は、加工食品、レトルト食品、ファーストフードにも多く使われています。原材料に「植物油」とあれば、ほぼオメガ6系を主成分とする油です。オメガ6系を主成分とする油は安価で、加工食品などでも使いやすいのです。

野菜や肉などの食材に含まれるオメガ6系は、避けることはできません。ですから、まずは調理油をかえるとともに、「植物油」と記載されたレトルト食品、ファーストフードを食べる頻度を意識して減らしましょう。

■「ゴマ油」だけは風味づけに少量使う理由

では、加熱調理にはどんな油を使うとよいでしょうか。

オリーブオイルは、オレイン酸というオメガ9系脂肪酸を主成分としています。オメガ9系は非必須脂肪酸であり、必須脂肪酸のバランスを乱す心配がない栄養素です。また、オレイン酸は消化吸収を助ける働きがあります。胃腸にやさしい油なのです。

オリーブオイルには種類がいくつかあります。エクストラバージン(EV)オリーブオイルのほかに、「精製オリーブオイル」「ピュアオリーブオイル」「オリーブオイル」などです。

EVオリーブオイルは、そのなかでも最高ランクで、抗糖化作用と抗酸化作用に優れたポリフェノールという栄養素が豊富です。

この油は、香りがよくフレッシュであるため、生のままとることが推奨されます。しかし、加熱できないわけではありません。「加熱調理に使うのはもったいない」というだけの理由です。

脳細胞を元気にする食事づくりをしていくためには、加熱調理にEVオリーブオイルを使うといいでしょう。ただし、品質が高いぶん酸化しやすいため、なるべく早く使い切ることが重要です。

ちなみに私は、オメガ6系の油のなかでゴマ油だけは風味づけに少量使います。それによって食欲が高まりますし、塩分を控えめにできます。

「絶対にダメ」と禁止事項をつくるのではなく、使うときには少量にしたり、使用の頻度を減らしたりする。禁止事項が増えると、子どもは食事を「面倒」と感じます。

食事はおいしく楽しく笑顔で! これも受験メシの大切なポイントです。

■受験期に入ったらオメガ3系を毎日とる

一方、もう1つの必須脂肪酸であるオメガ3系は、どんな作用があるでしょうか。

オメガ3系には、オメガ6系とは反対に「炎症を抑える作用」があります。

日常的にオメガ3系を多くとっておくと、風邪をひいたり、アレルギー症状が出たりしたとき、炎症の症状が重くならずにすむと期待できます。受験期に入ったら毎日とることを、ぜひ意識してください。

何より、オメガ3系は脳の健康に直接かかわっている脂肪酸です。脳にとって、最高の活性剤となるのです。

オメガ3系はどんな食品に多いでしょうか? いちばんは青背の魚に豊富です。

植物油にも、オメガ3系を含むものがあります。主には亜麻仁油とえごま油です。これらの油には、α-リノレン酸というオメガ3系が豊富です。α-リノレン酸は体内で直接使われる一方、一部がDHAやEPAに変わり、脳の健康に働きます。

オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の必須脂肪酸の摂取バランスは、1対4が理想とされています。

この摂取バランスに整えるには、「亜麻仁油やえごま油を毎日、大さじ1杯ほどとる一方で、オメガ6系の油の摂取を控えるよう心がける」。こうすることで、必須脂肪酸の摂取バランスを整えていくことができます。

実際、亜麻仁油やえごま油を毎日とるようにしたら、子どもの情緒が落ち着いた、アレルギー症状が改善したという声をよく聞きます。ただし、亜麻仁油、えごま油も加熱調理に向かない油です。サラダや豆腐、お浸し、味噌汁などに生のままかけてとるようにしましょう。

ちなみに、α-リノレン酸は、サラダ菜、春菊、小松菜、白菜、ほうれん草、大根葉にも含まれます。これらの野菜も、受験生にどんどん食べさせてください。

■「朝ココナッツオイル」で脳をパワー全開に!

もう1つ、受験生の脳活におすすめしたい油があります。ココナッツオイルです。

脂肪酸は、炭素が鎖のようにつながって構成されています。その長さから、短鎖、中鎖、長鎖という3つに分類できます。

短鎖は腸内でつくられる脂肪酸。長鎖は植物油や魚油など。そして、ケトン体回路をとくに活性化させる性質を持つのが中鎖脂肪酸です。

中鎖脂肪酸は肝臓ですばやく分解され、ケトン体をつくります。それによって、全身のミトコンドリアが活性化し、エネルギーの産生量を増やすと考えられています。

脳や体でのエネルギーの産生量を増やせれば、人はパワフルに活動できます。

こうした働きを期待できるココナッツオイルは、1日をエネルギー全開でスタートさせたい朝食でこそ、使いたい油です。

ココナッツオイルは、加熱調理にも使えます。炒めものや焼きもの、卵焼き、煮物、カレーなど何にでも使えますので、ぜひ、朝食づくりに活用してみてください。この油を使うと、食欲をそそるような甘い風味が料理に加わります。

マリー秋沢『受験メシ! 子どもの「成績を上げる」簡単で確実な方法』(三笠書房)

そこで、簡単にできるドライカレーのレシピを次に紹介しましょう。調理時間はわずか10分ほど。忙しい朝でも簡単につくれ、栄養バランスもよく、エネルギーの産生量を増やせると期待できるカレー。多めにつくり置きして冷蔵保存しておけば、3〜4日は持ちます。汁が出ないので、お弁当にも入れられます。

なお、ココナッツオイルよりさらに効率よくケトン体をつくり出せる油があります。MCTオイルです。これは、ココナッツオイルなどから中鎖脂肪酸だけを抽出した油。

ココナッツオイルは、温度が低いと固まりますが、MCTオイルは無味無臭の透明な液体なので、サラダにかけたり、飲みものに混ぜたりしても味が変わらず、子どもにも受け入れられやすいはずです。

ただし加熱調理には向かないので、生のまま使うことがポイントです。

出所=『受験メシ! 子どもの「成績を上げる」簡単で確実な方法』(三笠書房)

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マリー秋沢(まりー・あきさわ)
管理栄養士、調理師、健康料理研究家
一般社団法人日本ニュートリションフーズ協会代表理事。有限会社ビューティーニーズ代表。アメリカ・ミシガン州生まれ。上智大学国際教養学部卒業。元ミスユニバース近畿代表。健康、免疫力維持、生活習慣病予防、アンチエイジング、長寿などをテーマに活動し、充実した食と栄養、ライフスタイルを提案する機関として、2019年に日本ニュートリションフーズ協会を設立、現在に至る。子どもの食育にも熱心で、2022年アメリカの出版社Rowman & Littlefieldから『Eating The Shokuiku Way』を出版。アメリカの子どもの肥満率が40パーセントを超すことに危機感を抱き、日本の食育をアメリカに広げる活動も行なっている。簡単でおいしい糖質オフレシピには定評があり、各地で料理教室や講演会を開催。メディア出演など多方面で活躍中。
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(管理栄養士、調理師、健康料理研究家 マリー秋沢)