写真提供:『悲しみは笑い飛ばせ!島田珠代の幸福論』(KADOKAWA)

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「パンティーテックス」「男なんてシャボン玉」など唯一無二のギャグと独創的な動きで部人気の、新喜劇を支える看板女優・島田珠代さん。そんな芸歴36年になる島田さんが、幼少期から仕事、恋愛、自分らしさ、女として生きることなどを赤裸々に綴った初エッセイ『悲しみは笑い飛ばせ!島田珠代の幸福論』。今回はその中から、芸人になって初めての恋、そして失恋までのエピソードを紹介します。

【写真】珠代さんの若かりし頃

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ピラフがこぼれる初デート

あき恵姉さんに「かわいこぶったら笑いに繋がるよ」というアドバイスを受けたときに、もうひとつ大切なことを教えてもらいました。

新喜劇は喜劇ではあるものの、その根底にあるのはお芝居です。台本の役柄には恋愛をする女の子という設定もあるし、男を手玉に取る女性という設定もあります。

「仕事でも恋愛のお芝居をするんだから、実際に恋愛をしてみるのもいいと思う」

それまでの私は、恋愛なんてしたら笑いに鈍感になると思い込んでいました。でも、あき恵姉さんの言葉を聞いて、「確かにあき恵姉さんの言うとおりやな」と感じたので、確実にあのときの言葉が、恋愛に目を向けるきっかけになっていると思っています。

実際に、その成果が笑いに生かされているのかは分かりませんが、私の人生が豊かになったのは間違いありません。

芸人になって初めての恋は、テレビ局のADさんでした。全然話したことがない状態にもかかわらず、劇場の前で毎日のように待っていてくれました。

「好きです! デートしてください!!」

そう言われても、私から見たらよく知らない人です。生来の人見知りが顔をのぞかせて、怖いから無視して通りすぎることしかできませんでした。最初は警戒していましたが、仕事を一緒にするうちに立ち話をするようになり、電話番号の交換をして、休みの日に長電話をする仲に発展します。

今は電話番号の交換くらいなら出会ってすぐにする人もいるでしょう。でも、昭和の時代はそう簡単なことではありませんでした。携帯電話はない時代なので、電話は家にある一台だけ。しかも、電話をかけるとその家に住んでいる家族が出る可能性があるのです。

母から「また電話かかってきてるよ」と言われる私も、「代わりますからちょっと待ってくださいね」と言われる相手も、ドキドキする。そんな時代がありました。

だから、昭和では長電話をするところから恋が始まると言っても過言ではなかったんです。例にもれず、私もその人と長電話をするようになり、初デートの誘いを受けることになったのですが、そこでも生来の人見知りが顔をのぞかせてしまいます。

男性と二人で食事をするという想像をしただけで緊張してしまう私。そんな私が助けを求めたのは、あき恵姉さんでした。


『悲しみは笑い飛ばせ!島田珠代の幸福論』(島田珠代:著/KADOKAWA)

「あき恵姉さん。お願いだからデートについてきてほしい」

こうして、初デートはあき恵姉さんという保護者同伴で行くことになったのです。当時の私は、男性に食べている姿を見られるのがものすごく恥ずかしい行為だと思っていて、まったく話に集中することができませんでした。

もしかして「スプーンに乗せるピラフの量多すぎやない?」って思われてる?食べ方が汚いって思われてるのかも。

え、待って。スプーンを口の中に入れるときに、口の中見られてる?

そんな考えが頭の中にあふれ出して、私の緊張度はマックス。皿にあるピラフをスプーンで口に運ぶまでの間に、手が震えてすべて床にまき散らしてしまうという失態を犯してしまったのです。

私が、ピラフと格闘している間にも、あき恵姉さんは「どんなところが好きなの?」とお相手に話を振ってくれているのに、私はまったく会話に参加できないまま時間だけが過ぎていきました。

結局、その日の記憶はピラフの具についてしかなく、何度思い返しても何を話していたのか、あき恵姉さんがどんな服を着ていたのかも覚えていません。


(写真提供:『悲しみは笑い飛ばせ!島田珠代の幸福論』/KADOKAWA)

キスからの逃亡

何回かデートを重ねるうちに、二人でもご飯に行けるようになった頃、その人から「ウチにおいでよ」と誘われて家に行くことになりました。

その人はカメラの勉強もしていたので、自分が撮影した映像を見せてくれて、将来はどんな映像を撮りたいか、そしてどんな仕事をしたいのかについて熱く語ってくれたのが印象に残っています。

自分の夢について語っていた彼が、急に黙り込んで私をジッと見つめた瞬間。私は「あぁ、これが俗に言う《いい雰囲気》ってやつなんだな」とぼんやり考えていました。そっと彼の顔が近づいたとき……私は思ってもいなかった行動を取ります。

自分のカバンをひったくるようにして手に取り、玄関に全力でダッシュ。自分の靴を片手で持ち上げて、そのまま部屋を後にしました。靴も履かずに階段を駆け下りて、前だけを向いて走りました。

なんでこんなことをしたのか。理由は大きく分けて2つあります。ひとつは、私は小さい頃から「結婚する人じゃないとそういうことはしちゃいけない」という価値観で育てられていたから。

彼の顔が近づいてきたとき、なぜだかは分からないけど、私は大人の関係になることを許してはいけないと感じてしまったのです。

そしてふたつ目は恋愛よりも仕事のほうが大事だと改めて実感してしまったから。この時期は、男性の股間を指先ではじく「チーン」というネタが生まれた直後で、今ここで男性と本当にいやらしいことをしてしまったら、舞台上でできなくなってしまう気がしたのです。

私はまだまだお笑いをしたかったし、自分はこれから光り輝くんだと信じていたからこそ、目の前の男性から逃げ出すことになってしまいました。男性と関係を持って、仕事に影響が出てしまったらどうしよう、そんな不安が若い私には払拭できずにいました。

気持ちが落ち着いて、このまま終わりにしてはいけないと思ったのですが、その後何度電話をかけても彼に繋がることはありませんでした。こうして、ひとつの恋愛が終わりを告げたのです。

※本稿は、『悲しみは笑い飛ばせ!島田珠代の幸福論』(著:島田珠代/KADOKAWA)の一部を再編集したものです。