その性質柄、屋外管理が基本のスキを突き、盗み去る(masaya / PIXTA)

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「盆栽の窃盗が急増したのは昨年の春ごろからだと思います。それ以降は日本各地で連日のように窃盗被害が起きています。組合としてはHP上で窃盗被害状況を告知し、注意喚起を呼び掛けています」(約270の業者らでつくる日本盆栽協同組合)

実際に、同組合のHPには「盗難情報」のタグが設けられ、被害状況が逐一、告知されている。

最近の事例では、

・8月31日午前1時ごろ、関東方面で黒松2鉢、五葉松1鉢
・8月17日、関東方面で14点の盗難被害
・8月4日深夜未明、関東方面で盗難被害

などと報告されている。今夏でいえば、あくまで届け出ベースだが、HP上では毎月5、6件ペースで盗難被害が発生していることになる。

盆栽盗難が急増する背景

まさに国内での盆栽窃盗被害が相次いでいる状況だ。その背景として考えられるのが近年の海外での盆栽ブームだという。

経済誌記者が近年の盆栽の輸出事情について説明する。

「盆栽は中国では富裕層の趣味としての需要が高まっており、ヨーロッパ諸国でも以前から〝黒松〟は高く評価されていました。

ですが、黒松には松を枯らす〝マツクイムシ〟が付きやすかったため、EUは輸入を制限。そのため政府が輸出解禁に働きかけ、2020年に制限が解禁。そのような背景から近年では海外で空前の盆栽ブームが起きています」

人気の秘密は、日本の美や小さな自然が織りなす静なる世界に対する海外の人々の高い感度にあるといわれている。

中国筆頭に欧州でも盆栽需要高まる

財務省の貿易統計によると、盆栽の輸出総額は規制解禁前の2019年の4.8億円から2023年には約9.2億円とほぼ倍増。輸出国別に見ると、中国が2億円、イタリア1.9億円、オランダ1.8億円と、中国を筆頭にEU諸国でも盆栽需要が高まっていることがみて取れる。

中国筆頭に欧州でも盆栽需要が高まっている(出典:農林水産省資料)

それらの国に併せ、近年ではベトナムをはじめとしたアジア諸国での盆栽人気も高まっているという。

被害者が明かす被害の実態

そのような事情も相まってか、「盗まれた盆栽は海外などで転売されていると思います」と実際の窃盗被害に遭った盆栽業者の武部和弘さんは推測する。

「窃盗被害に遭ったのは昨年の3月ごろ。一度に30鉢ぐらいが盗まれました。盆栽はその性質柄、屋外管理が基本です。ですが、盗難時にはまさか被害に遭うなんてことは考えていませんでしたから、防犯設備もほとんどありませんでした」

一度目の窃盗被害に遭ってから、武部さんは防犯カメラの設置や敷地内にフェンスを設置するなどの防犯対策を施した。しかし、設置に時間がかかってしまったため、昨年12月に再度の被害に見舞われてしまった……。

「被害は計約260鉢で被害総額は約1200万円。盗まれた盆栽の中には樹齢100年を超えるヒノキ科の『真柏』(約250万円)もあったんです。防犯カメラには3人の外国人らしき犯人の姿が映っていて警察にも提出しました」(武部さん)

”ベトナム人グループ”が犯行関与の可能性も

警察が防犯カメラの画像などを基に捜査を進めたところ、〝ベトナム人グループ〟が犯行に関与している可能性が浮上したという。

「知人の業者も窃盗被害に遭いましたが、逮捕されたのはベトナム人でした。警察も把握していますが、彼らは日本では情報開示請求などが難しいSNSなどで情報をやり取りし、組織的に窃盗を行っていると思われます。国内では盗んだ盆栽を売りに出しても盗品だとすぐにばれますから、恐らく海外に転売しているのだと思います」(武部さん)

窃盗被害以降、武部さんは「1000坪の敷地に7、800万円を出して塀を作った」というが、「個人で防犯対策を施すには限界がある」と憤りを隠さない。

武部さんが続ける。

「被害状況などの情報は警察よりも業者間同士の方が早いのが現状です。海外をまたいだ捜査が困難なのはわかりますが、SNSの情報開示も含め警察には本腰を入れて捜査に当たって頂きたいと願っています」

盆栽協同組合では盗難対策として、転売防止のために窃盗被害に遭った盆栽の写真を掲載することや、個々の業者へのセキュリティー強化を呼び掛けている。