ワールドシリーズ制覇のカギを握るドジャース・山本由伸

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フルスロットルの代償

 米大リーグ、ドジャースの山本由伸投手(26)が10月26日(現地時間)にワールドシリーズの第2戦で先発登板に臨む。デーブ・ロバーツ監督によると、中5日で11月1日の第6戦に投げる可能性がある。相手はヤンキースで、43年ぶりの東西の名門球団同士の対戦。メジャー1年目にして、これ以上ない舞台に立つ。先発投手陣の台所事情が苦しいドジャースでは山本の出来がチャンピオンリングを手にできるかどうかを大きく左右する現状で、専門家たちは二つのコトをタブーに挙げる。

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 山本は今年6月7日、レギュラーシーズンのヤンキース戦で七回まで2安打無失点と今季のベストピッチを披露した。投手ではメジャー史上最高の12年総額3億2500万ドル(約470億円)で契約しながらも、オリックス時代の圧倒的な投球が影を潜め、実力に懐疑的な見方が出ていた中で、アーロン・ジャッジやジャンカルロ・スタントンを擁する強力打線を力でねじ伏せる圧巻の内容だった。試合前までは156.4kmだったフォーシームの自己最速は158.4kmと実に2kmもアップするなど、明らかに出力を上げていた。

ワールドシリーズ制覇のカギを握るドジャース・山本由伸

 さる大リーグ解説者はこう述懐する。

「この試合の山本には心中期するものを感じました。特別な球場と特別な相手。それまでの登板とは違った気迫が球速に表れていたと思います。出だしからフルスロットルで投げる姿はオリックスで見た記憶がなく、まるでポストシーズンのような明日なき投球にも見えたのですが……」

 その代償は大きかった。十分に登板間隔を空けた同15日のロイヤルズ戦で右上腕に異変を訴え、たった2イニングで降板を強いられた。「右肩腱板の損傷」で負傷者リスト入りし、9月10日に復帰登板するまで、実に約3ヵ月も戦列を離れることになったのだ。

「今回は初登板のワールドシリーズです。6月のヤンキース戦以上に力が入りやすいシチュエーションです。第6戦で2度目の登板があり得るわけですから、出力を上げ過ぎて故障することだけは絶対に避けなければなりません」(同前)

 かといって力をセーブしながら抑えられるような打線ではない。さじ加減がカギとなりそうだ。

メッツとの因縁

 もう一つのカギとして、米大手マネジメント会社の代理人は「ヤンキースというかニューヨークを刺激しないこと」を挙げた上で、こう続ける。

「いまだにニューヨークのファン、メディアの山本への敵意は消えていませんから」

 昨オフ、山本はポスティングシステムによる移籍交渉でドジャース以外にヤンキース、メッツとも交渉した。両球団からは熱烈なラブコールを送られながらも最終的には断りを入れることになった。しかし、やり方が頂けなかったというのだ。

 特にメッツはスティーブ・コーエン・オーナー(68)が直々に、日米で2度にわたって山本を食事に招待した。同オーナーはヘッジファンドのマネジャーとして巨万の富を築き、2020年9月に北米プロスポーツ史上最高額となる24億7500万ドルでメッツを買収。就任時の編成方針では「野球で儲けようとは思っていない。本業で儲けているからだ。中途半端なチームにはしない」と豪語した通りに、カネに糸目をつけない補強を敢行していった。山本に対してもドジャースに勝るとも劣らないオファーを出したようだ。

マネーゲームの“ダシ”で怒り心頭

「コーエンさんはアメリカでのディナーには夫人も同席させました。(買収から)5年以内のワールドシリーズ制覇を目指しているとあって、切り札になる山本の獲得には相当な熱の入れようでした。山本が2度も面会したことで、手応えはあったでしょうから……。しかし終わってみれば、早い時期から意中の球団はドジャースだったようで、コーエンさんは(争奪戦で)マネーゲームのダシに使われと怒り心頭だったようです」

 ヤンキースもメッツと同様に山本の代理人の“条件闘争”に利用されたとみられている。ニューヨークのファンやメディアは期待した分、失望も大きかった。

「山本には恨み骨髄というやつですね。(その後)ヤンキースとメッツの選手はことあるごとに、山本にフラれたことに絡めた質問を、記者から持ち出されてきました。対戦時には痛い目に遭わせなければならないという義務感に近いものを持っているようです。ワールドシリーズという大舞台ですからファンやメディアの目はより厳しくなることでしょう。ヤンキース打線は“山本攻略”に目の色を変えてくるでしょう」(同代理人)

山本は言動に慎重だが

 だからこそ、山本は不用意な発言は厳に戒めるべきだという。

 山本はリーグ優勝決定シリーズのニューヨークでのメッツ戦登板を前に、昨オフにメッツと交渉した事実を問われた。この際どい質問に対し「何度かミーティングをさせていただいて、すごくいろいろな話をしていただきました。本当に最後まで(選択を)迷うようないいチームだなと感じました」と慎重に回答。畳みかけるように今季、ヤンキース戦で登板した際のニューヨークの印象を聞かれても「特にないです」と言及を避けた。

「山本は揚げ足を取られないように気を付けていましたね。ワールドシリーズでもニューヨークのくせ者の記者たちは、この手の質問で山本の失言を誘おうとすることでしょう。山本も重々承知でしょうが、通訳を介してのやり取りでは誤解を招くこともありますから……」(同)
 
 見どころ盛りだくさんのワールドシリーズで、グラウンド内外の山本の動向もその一つとなりそうだ。

デイリー新潮編集部