SNSなどに投稿するため、候補者らの街頭演説をスマホで動画撮影する陣営のスタッフ(17日、横浜市都筑区で)=三浦邦彦撮影

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 27日投開票の衆院選では、街頭演説や政見放送を短く編集した「ショート動画」をSNSで発信する候補者が目立つ。

 7月の東京都知事選でこうした動画を多用した候補者が躍進したことを受け、視聴時間が短い動画を拡散し、若年層への浸透を図る戦略が定着しつつある。識者は「SNS上の情報や短時間で印象に残るフレーズだけに惑わされず、冷静に政策を見る必要がある」と話している。(大重真弓)

 「動画は投稿の本数が勝負。確実に注目度は上がってきている」。17日昼、横浜市都筑区の市営地下鉄センター南駅前。街頭演説に立った小選挙区の候補者を撮影していた20歳代男性が手応えを語った。

 男性はユーチューバーで、昨年夏から陣営の動画チームを率いる。動画チームでは、候補者の生い立ちや政策を紹介する1本10〜20分程度の動画を中心に、ユーチューブなどに投稿してきた。ただ、衆院選公示後は一転、街頭演説を30秒程度に編集したショート動画の投稿に切り替えた。

 男性は「都知事選を参考にショート動画を1日4〜5本作るようにした。街頭演説を立ち止まって聞いてくれる人は少ないが、短時間の動画なら見てくれる人が多い」と強調する。

 愛知県の小選挙区に出馬した候補者も昨年秋から、ショート動画の投稿を始めた。視聴回数が7万回を超えた動画もあり、陣営幹部は「支持層を広げる良い機会だ。選挙戦終盤に向け、投稿の頻度を上げていきたい」と気合を入れる。

 各陣営がショート動画の投稿に力を入れるのは、7月の都知事選で広島県安芸高田市前市長の石丸伸二氏(42)がSNSや動画投稿サイトを駆使し、2位に食い込んだ影響が大きい。

 石丸氏は、政見放送や街頭演説などを数十秒程度に切り抜いた動画をSNSや動画投稿サイトで拡散させ、若者を中心に支持を拡大させた。投稿はボランティアや支持者が主に担い、動画投稿サイトで街頭演説のライブ中継も行われた。政治や行政のSNS戦略を分析するシンクタンク「ネットコミュニケーション研究所」の調査では、選挙期間中、石丸氏と応援者らのユーチューブ計16アカウントの動画再生数は約2億回を数えた。

 ただ、動画投稿サイトでは再生回数が広告収入につながることから、過激な発信や表現が増える恐れがある。参院選や知事選など活動範囲が広い選挙とは違い、衆院選の小選挙区ではSNSの効果が限定的だという見方もある。

 ネットメディアに詳しい国際大の山口真一准教授(社会情報学)は「一般的にSNS上には、極端で強い意見が多く見られる傾向がある。有権者はSNS上で発信される政策について、しっかりと吟味するべきだ」としている。

ネット選挙運動 ルール細かく

 2013年に解禁されたインターネットによる選挙運動は、政党や候補者にとって今や欠かせないものになっている。一方で、ルールは細かく定められており、有権者も注意が必要だ。

 政党や候補者は選挙期間中、ホームページやSNSを通じて投票を呼びかけることができる。今回の衆院選の場合、選挙期間は公示日の15日から投開票日前日の26日までとなる。

 有権者側もSNSで特定の候補者への投票を呼びかけたり、発言を紹介したりすることは可能だ。ただ、電子メールや携帯電話のショートメッセージでの呼びかけは、なりすましなどの悪用防止のため禁止されている。ネット上のビラを印刷して配るのも認められていない。

 ネット上で特定の候補者を落選させる目的で中傷するなどした場合は、公職選挙法や刑法で処罰される可能性がある。

 公益財団法人「明るい選挙推進協会」の調査では、21年衆院選で「政党や候補者のSNSを見た」と回答した人は8・2%だった。若年層ほど高く、18歳〜20歳代は17・7%、30〜40歳代は15・3%に上った。