深海の熱水噴出孔周辺という超絶限界環境の地殻下にはチューブワームが暮らしている
熱水噴出孔は地熱で熱せられた水を噴出する大地の亀裂で、噴出される水の温度は数百度にも達する場合があるほか、重金属や硫化水素といった生物にとって有害な物質を含んでいることが特徴です。しかし、そんな極限環境下でも生物は生息しており、シュミット海洋研究所が東太平洋海嶺で実施した調査では、深海の熱水噴出孔周辺の空洞を探索するとチューブワームなどの生物が発見されたことが報告されています。
https://www.nature.com/articles/s41467-024-52631-9
Ghostly white giant worms appear to be reproducing under the seafloor where tectonic plates meet | Live Science
https://www.livescience.com/animals/ghostly-white-giant-worms-appear-to-be-reproducing-under-the-seafloor-where-tectonic-plates-meet
火山活動が活発な地域では、海底の割れ目から浸透した水がマグマと接触し、ミネラルを豊富に含む沸騰した液体として噴出することで、熱水噴出孔が形成されます。深海の海底の大部分は、ほとんどの生物が暮らすことが困難とされていますが、熱水噴出孔周辺には極端な高温や高圧下でも生存できる「極限環境生物」と呼ばれる生物群が噴出されたミネラルなどをエサとして生息しています。
これまでの研究で、熱水噴出孔周辺の地下には微生物が生息していることが確認されていましたが、チューブワームなどの大型動物の生息は確認されていなかったとのこと。研究チームは熱水噴出孔の海底下に潜む生物を観察するため、ガラパゴス諸島近くの東太平洋において水深約2515mの熱水噴出孔に遠隔操作無人探査機(ROV)を投下しました。そしてROVを用いて海底に穴を開け、アームで破片を持ち上げると、深さ約10cmほどの空洞が現れました。
以下の動画を見ると、実際にROVが海底を調査する様子を確認できます。
Supplementary video - YouTube
現れた空洞の中には最大50cm以上にも達する成虫のチューブワームが数多く生息していただけでなく、そこで繁殖が行われている兆候も見つかっています。
研究チームは「私たちは初めて深海の熱水噴出孔の海底下にある小さな空洞で動物の生息を確認しました。深海の熱水噴出孔の海底下にはこれまで微生物やウイルスの存在が確認されていましたが、同様に動物が生息していることも明らかになりました」と述べています。
さらに研究チームは、チューブワームの幼虫が複数の空洞の全体に分散していたことから「一部は海底下を移動し空洞から表面に通じる亀裂を通って熱水噴出孔に定着し、一部は空洞にとどまったまま成虫になるのではないか」と推測しています。一方で、海底下に生息するチューブワームの群れがどのようにして生態系を維持しているのかについては明らかにされていません。