「霞が関省庁再編」に戦々恐々…! 岸田政権を支えた「開成の嶋田」が去って、経産省が失いかねない「権力の源泉」の正体

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開成OBが引き合わせた「岸田と嶋田」

「嶋田先輩が官邸中枢にいたお陰で、エネルギー政策も産業政策も思うようにやらせてもらえた」

経済産業省の飯田祐二事務次官(1988年旧通商産業省)周辺筋は、岸田文雄政権時代の3年間を感慨深げに振り返る。実際、首相筆頭秘書官を務めた嶋田隆・元事務次官(1982年同)の「活躍」で経産省は省益を拡大できた。

長年の懸案だった東京電力福島第一原発事故後の「呪縛」が解かれ、原発復権に道筋を付けられた。「グリーントランスフォーメーション(経済の脱炭素化)」や「経済安全保障」を口実に財務省から多額の「軍資金(予算)」も分捕れた。

嶋田氏は岸田氏と開成高校同窓だが、2人を引き合わせたのはやはり開成OBの故・香川俊介元財務事務次官(1979年旧大蔵省)だったという。

感情の起伏をめったに顔に出さない冷静沈着さの一方で、政策で共鳴した政治家には省内でのキャリアも投げ打つ覚悟で、献身的に仕える熱量も併せ持つ嶋田氏。

1998年に与謝野馨通産相の大臣秘書官を務めて以来、2012年の政界引退まで与謝野氏が歴任した経済財政相、官房長官、財務相のすべてで政務秘書官に起用され、ライフワークだった消費増税と社会保障の一体改革の推進や、包括的な経済成長戦略の策定などを支えた。

安倍政権でもできなかったことを⋯

自らの囲む勉強会などで交流してきた岸田氏はそんな経歴を買い、首相に就任した2021年秋、官邸を仕切る筆頭秘書官に引っ張った。

旧岸田派(宏池会)の木原誠二元官房副長官とともに最側近となった嶋田氏は、「与謝野氏とは大違いで、自ら成し遂げたい政策は皆無」(与党筋)とされる岸田首相の下、経産省の年来の課題解決に注力した。

安倍晋三「一強」政権でも成し遂げられなかった原発の運転期間の大幅延長や建て替え、新増設に道を開く政策転換を実現したのはその象徴。「GX」や「経済安保」を誘い文句に首相に原発回帰の旗を振らせる一方、本来、脱炭素化に逆行するはずの石炭火力発電の温存も図らせたのは、電力業界に通じた嶋田氏ならではの老獪な振る舞いだった。

岸田氏が首相退陣を表明した後の8月末に開かれた政府のGX実行会議では、年末に取りまとめる予定の国家戦略「GX2040ビジョン」のたたき台を、経産省に提示させた。原発推進や、アンモニア混焼発電など石炭火力の延命策について、事業者への公的支援拡充を図る方針を盛り込んだものだ。

「増税メガネ」と言われたが

さらに、嶋田氏がかつて社外取締役として出向していた東京電力の経営再建を後押しするため、柏崎刈羽原発の早期再稼働に向けた地元同意取り付けの環境整備を政府主導で行うことを、退陣間際の岸田首相に改めて確認させた。石破茂政権の政策を縛ろうとする意図がうかがえ、「省益のために死に体化した政権をしゃぶり尽くそうとする、経産官僚ならではの貪欲さ」(霞が関の経済官庁幹部)を見せつけた。

ネット上では「増税メガネ」と揶揄されるなど財務省シンパと見られがちな岸田首相だったが、実態は「経産省内閣」色が強かった。

ただ、嶋田氏がいくら用意周到に布石を打っても、経産省が新政権を思い通りに操れるかどうかは分からない。先の自民党総裁選では、従来「脱原発」の急先鋒だった河野太郎氏が議員票獲得のため、人工知能(AI)の普及などに伴う電力需要見通しの増加などを口実に原発活用の立場に転じた。

このため、経産省の原発復権路線の障害はなくなったように見えるが、電力業界では「河野氏らアンチ経産省・電力会社の勢力が今度は石炭火力にターゲットを変え、廃止期限の明示などを迫ってくるのではないか」と懸念する声がある。また、嶋田氏が官邸から去ることで、電力業界や東電に対する支援策がこれまでのように「かゆい所に手が届く」(大手電力首脳)ような内容にならないことを心配する向きもある。

経産省が恐れる「省庁再編」

さらに、総裁選で複数の候補者が脱炭素とエネルギー安全保障の両立を図るとの名目で「環境エネルギー省」や「GX省」の創設を訴えていたことも気がかりなところだろう。

嶋田氏と組んで、GX推進を錦の御旗に予算や天下り先の開拓など省益拡大の旨味を享受してきた経産省だが、資源エネルギー庁を分離され、環境省と統合されてしまえば、最大の権力の源泉を失ってしまうことになる。

ある次官OBは、エネ庁分離論が福島原発事故直後にも政府・与党内(当時は旧民主党政権)で高まったことを紹介したうえで「『全原発の停止で電力不足の危機が顕在化している時に、組織をいじるべきではない』と必死に説いて回って葬り去った」と説明。「そこまでして死守したエネルギー行政を、我が省が推進するGXを理由に取り上げられたのでは目も当てられない」と語る。

ただ、裏金問題で厳しい批判を浴びる石破政権は、発足時の内閣支持率が歴代最低水準となっている。世論の目先を変えようと省庁再編という「改革」に飛びつかないとも限らない。経産相に就いた武藤容治氏は、外相や通産相を歴任した武藤嘉文氏の長男で毛並みは抜群だが、当選5回で閣内での発言力は大きいとは言えないのも心許ないところだ。

岸田前政権の3年間「我が世の春」を謳歌してきた経産省だが、今はそこはかとない不安感が漂っている。

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