作家カート・ヴォネガットが考案した幻のボードゲーム「GHQ」がついに出版される
「タイタンの妖女」「スローターハウス5」などで知られる作家のカート・ヴォネガットが考案したボードゲーム「GHQ」が2024年8月に市販されました。海外メディアのPolygonが、「GHQ」がどういう経緯で開発されたのかを解説しています。
Kurt Vonnegut’s lost board game finally published | Polygon
https://www.polygon.com/board-games/467103/kurt-vonnegut-ghq-lost-board-game-publisher-interview
by Mike Schroeder
1945年の除隊後、シカゴの地方紙で記者として記事やコラムを書いていたヴォネガットは、1947年にニューヨークに移り、ゼネラル・エレクトリックの広報として働きながら小説を書き始め、1952年に処女長編小説「プレイヤー・ピアノ」を発表します。
しかし、この「プレイヤー・ピアノ」は当時好評を得られず、ヴォネガットは貧困にあえぐことになります。そんな中でヴォネガットが金策として考案したのが「GHQ」というボードゲームです。
「GHQ」は2人用の戦略的戦術ゲームです。プレイヤーは8×8マスのボード上で交互に駒を動かし、相手のHQ(司令部)を捕獲することで勝利を目指すというゲームです。以下のムービーは「GHQ」のルール解説動画で、盤面やコマのデザインを見ることができます。
How To Play GHQ - YouTube
ゲームデザイナーでもあるニューヨーク大学のジェフ・エンゲルスタイン教授がインディアナ大学のアーカイブから発見した手紙によると、ヴォネガットはさまざまな出版社にGHQを売り込んでいたとのこと。そして、この手紙にはヴォネガット自身がタイプライターで打ち込んだオリジナルのルール説明書も挟まれていたそうです。
以下は発見されたルール説明書。ヴォネガット直筆のメモが余白に書き込まれています。
ゲームに使うコマのデザインが描き込まれた直筆のメモ。余白にはヴォネガットによるいたずら書きもあります。
ヴォネガットは「猫のゆりかご」や「スローターハウス5」で戦争というものを冷笑的に描きましたが、「GHQ」を売り込むヴォネガットの手紙には「士官候補生を含む将来の軍指導者にとって優れた訓練教材になるだろう」と書かれていたとのこと。「『猫のゆりかご』を著したのと同じ人物の言葉として、現代の読者はどのように受け止めるのでしょう」というPolygonの問いに対し、エンゲルスタイン教授は「明確な答えはありません。彼はそれについて書いていません。彼が生きている間に誰もそれについて尋ねなかったので、私たちは決して知ることはないでしょう」と答えています。
ヴォネガットが「GHQ」を考案して売り込んだのは1956年頃でした。不運にも「GHQ」が日の目を見ることはありませんでしたが、その2年後である1958年には世界初のボードウォーゲームと言われる「TACTICS II」が発売され、その1年後には「リスク」「ディプロマシー」が発売されます。エンゲルスタイン教授は、もしヴォネガットがGHQをもう少し後に売り込んでいたら歴史は変わっていたかもしれないと予想しています。
「GHQ」は、エンゲルスタイン氏がヴォネガット財団の許可を得てオリジナルのルールを整理し、一部修正した上で「Kurt Vonnegut's GHQ: The Lost Board Game」というタイトルで発売されました。
ヴォネガットの息子であるマーク・ヴォネガット氏はエンゲルスタイン氏に対し、「『スローターハウス5』や他の小説の成功は十分に素晴らしいことです。しかし、今もどこからか見守っているであろう父は、『GHQ』の成功により大きく純粋に喜んでいるだろうと本当に信じています。自分の執筆活動に落胆していた当時、父は『GHQ』が間違いなく成功するという揺るぎない信念を持っていました」と語っています。