「取り調べ」はできても「摘発」はできない!? いまだ未摘発の『地面師詐欺事件』の犯人たちが使った「カラクリ」

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第32回

土地の所有権を移転させるだけで「1億円」の借金をチャラに?複雑怪奇な『地面師詐欺事件』の発端となった「不可解な取引」』より続く

次々に移る所有権

D社はA社への借金返済のために高橋礼子さんの土地の所有権をA社へと移転させた。その後まもなく、A社の土地所有権は抹消された。

そして、ここから土地の所有が、猛スピードで移っていく。A社の所有権が抹消された日と同じ6月9日には、2つの不動産会社が所有者として登場する。順番からいえば、A社から神奈川県相模原市の不動産会社B社がこの物件を買い取り、さらに東京都千代田区のC社に転売した形だ。1日でAからB、BからCと土地の所有者が変わっているのである。

なぜこんなことになっているのか。不動産業界の取材をするうち、運よくB社の社長をよく知るマンションデベロッパー経営者に出会うことができた。

「実は、うちもこの取引に乗らないか、と誘われたんです。社名貸しのようなものでいくらかになるというのですが、情報を集めるとどうも変なので断りました」

そう打ち明けてくれた。つまり、くだんのデベロッパーはB社とC社のあいだに一枚噛んではどうか、と誘われたという。むろん転売差益をエサに取引に組み入れようとしているのだが、地面師事件では、登場する業者が多いほど、それぞれの事件の関与が見えづらくなる。

転売をくり返す業者が増えれば、その分分け前が減ることにもなるが、ある不動産ブローカーはこうも言った。

「地面師事件には、たいていいくつも業者が噛んでいますが、その多くは曰く付きのところです。たとえばC社は築地にある銀座中央ビルの地上げで有名になりました。そこではC社がもとの所有者である台湾華僑に5億円の支払いをしているかどうか、という裁判になったり、地面師事件でしばしば取り沙汰される悪名高い弁護士がビルを占有したり、とかなり揉めた。トラブルの多い地上げ業者として知られています」

「つまり取引の中心は…」

新橋の土地取引でいえば、そのC社は所有権を取得して2週間ほど経った6月22日に港区の不動産会社D社に土地を売却した。かと思うと、D社は同じ日付で西新宿の不動産管理会社E社に土地を売却している。そこからひと月後の7月21日にはD社がE社から土地を買い戻した。そして同時にD社がその日のうちにNTT都市開発に土地を譲り渡しているのである。

いま一度、所有権の移転を整理すると、ニセ高橋礼子→A→B→C→D→E→D→NTT都市開発という塩梅だ。先の初村が分析する。

「つまり取引の中心はD社の椙浦なのです。あとの会社は、知っていて半ば一蓮托生で取引に参加してひと儲けした地上げ仲間か、そこに誘われてあとから儲けようとしたが、事件とのかかわりは薄い、というパターンに分かれるでしょうね。いずれにせよ、そのなかでなりすましを仕立てている。それを誰が主導したか、そこがポイントでしょうね」

とどのつまり彼らの儲けの原資は、NTT都市開発の資金である。NTT側が被害者だ。仮に事件化すれば、NTT都市開発はニセ地主が売った土地に対し、12億円を投じて買ったことになる。本物の地主はすでにこの世を去っており、今のところ相続人も見あたらない。となれば、土地は国庫に返上されなければならないようにも思える。が、そのあたりの処理は微妙なのだという。NTT側はあくまで契約上D社から不動産を購入しており、そこに瑕疵がないからだ。地面師詐欺の舞台となった物件のなかには、こうした矛盾を抱えたまま知らぬ間に再開発されたところもある。

新橋の地面師詐欺はいまだ犯人を摘発できていない。実はなりすまし役と目された秋葉紘子は愛宕警察から何度も取り調べられているという。だが、偽造パスポートには彼女とは別の写真が貼ってあった。つまりなりすまし役が2人いることになる。そのせいで警察の捜査は混乱した。半面、犯行グループにとってはそれがもっけの幸いとなった。

その秋葉は積水ハウス事件だけでなく、大手ホテルチェーン、アパグループが引っかかった赤坂の地面師詐欺でも逮捕されている。

「偽造書類は見破りようがない!?」...《不動産取引のプロ》であるデベロッパーでさえ騙されてしまう地面師たちの巧妙な「手口」』へ続く

「偽造書類は見破りようがない!?」...《不動産取引のプロ》であるデベロッパーでさえ騙されてしまう地面師たちの巧妙な「手口」