給料激減でも元気に仕事…”68歳、年収200万円”の「働き方の実態」

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さまざまなデータから浮かび上がってくるのは、小さな仕事に対して確かな意義を感じながら前向きに働く人々の姿である。

人生100年時代と言われて久しいなか、定年後のキャリアに対して世間ではどのように受け止められているだろうか。

ベストセラー『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』では、定年後の就業者の事例から「定年後のキャリア」の実態を明らかにしている。

ここでは、メーカー系列の自動車販売会社に再雇用で働く、68歳・年収200万円・契約社員の谷雄二郎さんの事例を掘り下げる。

再雇用で同じ部署で働く

55歳のときに役職定年を迎え、同じ部署で働き続ける。別の部署から異動してきた上司はその仕事が未経験だったため、役職を外れても谷さんの仕事内容はこれまでとあまり変わらなかった。

60歳で定年となり、再雇用で週5日同じ部署で働くことに。66歳からは半年更新という雇用形態で、店舗が忙しい金曜、土曜、日曜の週3日勤務となり、いまに至る。

仕事内容は定年前の59歳から大きく変わった。数百ある全国の店舗から送られてきたデータをもとに、中古車を査定し下取り価格を設定する。お客様が待っているので、値付けの理由とともに、数字をすぐに返す必要がある。給料は大きくダウンした。

「そんなに難しい仕事ではありません。毎日多くの件数をこなさなければなりませんが、これでお金をもらっていいのかと思うくらいです。上司との難しい折衝なんかもありませんしね。勤務日数もいまは金土日と祝日だけの出勤です。要するに、忙しいときだけ。でも、私が仕事をしているから若手や中堅の従業員が休日にゆっくり休めて、家族との楽しい時間を過ごせるんです。だから、私の仕事はとても意義がある仕事だと思っています。休息時間に同僚と話すことも楽しいですよ」

「給与に関しては、私の父が地方公務員だった。だから、生涯ずっと上がってくんじゃなくて、必要なとき、要するに子育てで金かかるときに一番上げて、子育て終わったら下げていくんだって、親父から聞いてたもんですから。そういうものかと、頭にあったもんで、特に不満っていうのはなかったです。そういうものだと思ってました」

下取り価格決定のプロセスをオープンに

一方で、仕事の創意工夫は怠らない。たとえば、下取り価格決定のプロセスは担当者の暗黙知になってしまいがちだが、それを明らかにするようにした。

「どんなデータや情報を参考に決めたのかという記録をすべて残すようにしたんです。後進のスキルアップに使ってほしいと考えました。パソコンのサーバーの容量が少ないから無理だと会社には言われたんですが、私が何度もうるさく言ったので、できるようになりました」

55歳で役職定年となった。手当が減り、賞与も目減りした。そうしたなか、谷さんにも、ある時期までは出世して偉くなりたいという希望もあった。

「『可能性はいくらでもあるよ』と周りからも言われ、自分もその気になりました。でも、40代後半になると、自分の能力はこんなものだと徐々にわかってきます。そのときに考えが変わりました。上を目指すだけが仕事ではないと。仮に2週間、私が休んだら、この仕事は廻らなくなってしまう。そういう重要な役割を自分は担っているのだと思うようになりました」

「マニュアル通り」の仕事はしたくない

再雇用で同じ仕事に就いた人のなかには、言われたことをマニュアル通りにやる人もいた。谷さんはそういう仕事の仕方だけはしたくないと考えている。

「ほんとに言われたことだけをやって、何も考えないでマニュアル通りやってたらろくな仕事はできなくなると思います。そういう人もいるんです。しかも、昔、僕よりもずっと上の立場だった人が。それを見てるとなんて情けないんだと思って、ちゃんと考えてやりなさいよって。私からは言えないんですけどね。そんなことやってて、仕事つまんなくないのかなと思います」

いまと同じ働き方は70歳まで可能で、少なくともそのときまでは元気に働きたい。経済的な事情もある。現役時代には子供のための教育費など出費が多く、十分な貯蓄ができなかった。40代で購入した都内の住宅の残債も残っていたことから、退職金も住宅ローンを完済するために充当した。現在の貯蓄は1000万円弱。勤め先からの収入と年金を合わせると月におよそ30万円を超える収入になるため、現在もなお貯蓄を積み増している。ただ、体力は60代半ばを過ぎると明らかに落ちた。

「まだ両親が健在で、毎週休みの日に介護のために家に帰っています。それと私は腎臓が悪くて、定期的に通院をしています。なので、週に4日休めるのはとても助かっています。経済的にゆとりある生活をしようと思うと働けるうちは働きたいですが、そのうち体力との相談になるでしょう」

つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。

多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体