大量絶滅事件後の地球で急激に「多様化した哺乳類」…海に生息場所を求めた「奇獣」たち。なんと、北海道にも生息していた

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新生代は、今から約6600万年前に始まって、現在まで続く、顕生代の区分です。古生代や中生代と比べると、圧倒的に短い期間ですが、地層に残るさまざまな「情報」は、新しい時代ほど詳しく、多く、残っています。つまり、「密度の濃い情報」という視点でいえば、新生代はとても「豊富な時代」です。

マンモスやサーベルタイガーなど、多くの哺乳類が登場した時代ですが、もちろん、この時代に登場した動物群のすべてが、子孫を残せたわけではありません。ある期間だけ栄え、そしてグループ丸ごと姿を消したものもいます。

そこで、好評のシリーズ『生命の大進化40億年史』の「新生代編」より、この時代の特徴的な生物種をご紹介していきましょう。今回は、現生のジュゴンやマナティを仲間に持つカイギュウ類について見ていきます。

*本記事は、ブルーバックス『カラー図説 生命の大進化40億年史 新生代編 哺乳類の時代ーー多様化、氷河の時代、そして人類の誕生』より、内容を再構成・再編集してお届けします。

ジュゴンで知られるカイギュウ類が登場

以前に、クジラ類の進化を追っていった一連の記事を出したが、その中でごく初期の仲間、古第三期に反映したムカシクジラ類のパキケトゥスをご紹介した。そのパキケトゥスは南アジアに登場したが、同じ頃カリブ海では別の哺乳類が海洋進出を始めていた。

カイギュウ類である。現生のジュゴン(Dugong dugon)やアメリカマナティー(Trichechusmanatus)の仲間たちだ。

最初期のカイギュウ類として、ジャマイカから化石が発見された「ペゾシーレン(Pezosiren)」を挙げておこう。

ペゾシーレンは全長2.1メートル。ジュゴンやアメリカマナティーのように寸詰まりの吻部と長い胴体をもつ一方で、ジュゴンやアメリカマナティーとはちがって、しっかりとした四肢をもっていた。つまり、ペゾシーレンは、完全な水棲適応を遂げていない。

一方で、水棲哺乳類のような“重い骨”(水中でからだが浮き上がりすぎないようにするための重りになる)や、高い位置の鼻(水面下に頭部の大部分を沈めても、呼吸ができる)などの特徴もあるため、基本的には水中生活をしていたのではないかとされる。

カイギュウ類や長鼻類に近縁の奇獣

古第三期・漸新世の哺乳類として、忘れてはいけない古生物たちのグループがある。

その名は、「束柱類(そくちゅうるい)」。

カイギュウ類や長鼻類に近縁とされるグループで、横幅のある胴体とがっしりとした四肢、幅のある頭部という姿をしている。このグループの化石は日本、ロシアのカムチャツカ、アメリカやカナダの西海岸と北太平洋沿岸域で発見され、とりわけ、日本産の化石は保存状態が良くて高品質で知られている。その化石や全身復元骨格を展示している国内の博物館は少なくない。ぜひ、博物館訪問の折には、束柱類の展示を探してみてほしい。

グループの名前は、「海苔巻きのような」と形容される円柱が束になったような歯にちなんでいる。概して哺乳類の歯は、他の脊椎動物よりも複雑で、多様性に富む。歯さえみつかれば、種類を特定できるということも少なくない。しかし、束柱類のような歯は、束柱類固有のもので、現生種を含めて、他に似た歯をもつグループが存在しない。そのため、生態を推理することが難しい。束柱類が「謎の奇獣」と呼ばれるゆえんでもある。

北海道・足寄町の世界を代表する化石

北海道の十勝地域に「足寄町」という町がある。十勝地域の中核都市である帯広から車で1時間ほどの距離にある町で、日本の町村では最も広い面積をもち、その面積の大部分が山地という町だ。

この町から、初期の束柱類として世界を代表する2種類の化石が発見されている。

一つは、町名を冠した「アショロア(Ashoroa)」だ。

アショロアはすべての束柱類の中で最小級であり、その全長は1.8メートルほどしかない。歯をみると、“円柱”の発達が不十分だ。口先を見ると切歯が横一列に並んでいる。

もう一つの足寄町産初期束柱類が、「ベヘモトプス(Behemotops)」である。こちらは、アショロアよりも一回り以上大きくて、全長は2.7メートル。基本的な姿はアショロアとよく似ているけれども、アショロアよりもがっしりとしていて、切歯も、その脇の犬歯も大きい。

2013年、岡山理科大学(当時の所属は大阪市立自然史博物館)の林昭次たちは、束柱類の骨の断面を分析した研究を発表した。

骨の断面構造は、泳ぎを得意とする水棲の哺乳類と、泳ぎを不得手とする陸棲の哺乳類では異なることが知られている。前者の骨の断面には空隙が多く、後者の骨の断面は緻密だ。林たちが、実際にさまざまな束柱類の骨を裁断して調べたところ、アショロアもベヘモトプスも、その骨の断面は後者であったという。そのため、林たちは、アショロアもベヘモトプスも、「さほど高い遊泳能力をもっていなかった」としている。

一方で、化石が発見された地層の分析などから、束柱類が海に関係していた可能性は高い。そのため、林たちはアショロアとベヘモトプスの生息域は沿岸域にあったとした。

なお、足寄町には、束柱類の展示がとくに充実した「足寄動物化石博物館」という博物館があり、筆者のお気に入り&おすすめだ。

カラー図説 生命の大進化40億年史 シリーズ

好評シリーズの新生代編。哺乳類の多様化と進化を中心に、さまざまな種を取り上げながら、豊富な化石写真と復元画とともに解説していきます。

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