海外のレストランやパブで「日本の音楽」が再生されても「報酬が支払われない」という異常事態

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世界的に人気を博している日本のアーティスト

今、J-POPが海外で着実に存在感を高めている。

YOASOBI、藤井風、Ado、新しい学校のリーダーズなど、ここ数年でブレイクした人気アーティストが海外でライブツアーを開催し盛況を収める例が相次いでいる。ストリーミングサービスが普及し、SNSやYouTubeなどを通じて国境を超えて楽曲が伝播していくことが可能になったのがその大きな要因だ。

グローバルな音楽市場が着実に成長を続ける中、日本の音楽産業にも海外展開への新たなチャンスが生まれている。そして、政府もその動きを支援している。

今年6月、政府の知的財産戦略本部が「知的財産推進計画2024」を発表した。

同計画では、アニメやゲームなど日本のコンテンツの人気が世界的に高まっている状況を踏まえて、コンテンツ産業を日本の新たな基幹産業のひとつと位置づけている。そのうえで、ゲーム、アニメ、マンガ、音楽と、コンテンツビジネスそれぞれの分野における現状と課題を整理している。

音楽においては、アニメとタイアップした楽曲が海外で聴かれている傾向にあること、SNSを起点としたヒットが生まれていることが指摘されている。また、ボーカロイドやVTuberなど独自の文化も含めたカルチャーの多様性と蓄積が日本の音楽の強みとなっていると分析されている。

ただ、日本の音楽産業の海外展開を見据えた上で、現在ひとつの課題が浮かび上がっている。

ヨーロッパやアジアなど海外の多くの国でアーティストに認められている権利である「レコード演奏・伝達権」が日本では認められていないことが、海外展開において足かせのひとつとなっているという。

どういうことか。

海外に後れを取る日本の法整備

レコード演奏・伝達権とは「市販された音源を店舗等で聴かせる目的で利用する場合に適用される権利」のこと。日本の現行の著作権法においては、この権利は作詞家、作曲家には認められているが、実演家(アーティスト)とレコード製作者(レコード会社)には認められていない。一方、海外では世界150カ国以上でこの権利を認めている。

つまり、レストランやバーやホテルや美容院などでBGMとして音楽が使用されたときに、海外各国ではその対価がアーティスト側に還元されるが、日本では還元されないということだ。

一般社団法人日本レコード協会の楠本氏はその弊害をこう説明する。

「せっかく海外でアーティストに人気が出たり、街中でたくさん流れていたりとしても、レコード演奏・伝達権が日本で法制化されていないことがネックになって、音楽に対しての対価が得られない現状があります。具体的には、現地のレストランやパブで日本の音楽が再生されたとしても、その報酬が支払われないという環境になっている。海外で活躍するアーティストにとっての足かせになっていると言えるでしょう」

イギリス、フランス、ドイツなどヨーロッパ各国に加え、K-POPがグローバルな人気を獲得した韓国を筆頭に、最近ではアジア各国でもレコード演奏・伝達権の導入が進んでいるという。

「韓国は2009年、中国は2020年、シンガポールは2021年の法改正により、レコード演奏・伝達権が導入されました。台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、マレージア、インドネシアなど多くの国でも導入され、アジア諸国の中で日本だけが取り残されている状況です」(日本レコード協会・楠本氏)

「音楽を伝える環境が変わってきている中で、先進国の中で日本だけ独自のルールになっていることで機会を損失している」(日本音楽事業者協会・中井氏)、「まずは制度を確立してほしいというのが僕らの本音です」(日本音楽制作者連盟・金井氏)

と、音楽業界各団体もこれを問題視している。

この先はどうなっていくのか。

クリエイターが活動する環境の整備が不十分

知的財産戦略本部構想委員会コンテンツ戦略ワーキンググループ委員をつとめる内山隆氏(青山学院大学総合文化政策学部教授)は「制度としてはグローバルスタンダードに合わせるべき」と言う。

知的財産戦略本部が6月に発表した「新たなクールジャパン戦略」にも、政府の取り組みとして「実演家・レコード製作者に対して適切な対価を還元する観点から、国際的な著作権制度や報酬請求権の導入に係る関係者の合意形成及び円滑な徴収・分配体制の見通し等を踏まえつつ、実演家・レコード製作者への望ましい対価還元の在り方について検討を進めるべきである」との提言がなされている。

今後は法改正を経て国際的な著作権制度との調和が図られていくのが望ましいだろう。

また、「知的財産推進計画2024」では、クリエイターへの収益還元と活動環境の整備についても触れられている。

特に音楽の分野においては、デジタルプラットフォームの普及によって、従来のようにメジャーレコード会社や大手事務所に所属せずとも個人で楽曲を配信し収益を得ることが可能になってきている。また、たとえばVTuber のファンコミュニティに見られるように、ユーザーによる二次創作、三次創作など「n次創作」のコンテンツが共有されることで楽曲が広まっていく例も指摘されている。こうしたユーザーは楽曲をただ聴くだけでなく、UGC(User Generated Content/ユーザー生成コンテンツ)の担い手となる。

こうした時代の変化を踏まえて指摘されているのは、クリエイターが活動する環境の整備が不十分であることだ。アナログ時代のビジネスモデルや商慣習を前提とした契約が行われ、クリエイターに適切な収益が配分されていないということが問題視されている。

内山教授は「幅広いアーティストが適正な報酬を得て活動を続けられるような社会制度を考えていくことが必要」と言う。

「特に音楽に関しては、ただ聴くだけではなく誰しもが作り手になっていけるという環境が徐々に出来始めています。将来的にはそうしたことを踏まえて報酬分配をするための仕組みも議論しなければいけない。クリエイターが自分の才能を活かしてステップアップしやすくなる、そういう社会システムを目指すのが望ましいと思います」(内山教授)

日本のポップカルチャーの強みはクリエイターの裾野の広さにある。その土壌は、インディペンデントなミュージシャンやクリエイターが自由に創作活動を繰り広げる環境があってこそ豊かになる。

そうした環境の整備が進むことに期待したい。

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