夏場の《白骨死体》でも、警視庁「事件性はなし」...《地面師たちの暗躍》のウラで遺体となった資産家女性の身に起きたナゾ

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第30回

「偽パスポートで住民票を移転」...《新橋の白骨死体事件》で暗躍した地面師たちの《周到すぎる》手口』より続く

地面師たちの土地転がし

高橋礼子の土地はここから目まぐるしい動きを見せる。最初に土地を購入したかっこうのA社の所有権は、A→B→C→D→E→Dとコロコロと移っていく。D社が2度出てくるのは、買い戻しているわけだ。つまり事件への関与が深いことの証しかもしれない。最後にD社からNTTグループの「NTT都市開発」がくだんの土地を買い取っている。

最初のA社からNTT都市開発まで、15年4月から7月にかけたわずか3ヵ月のあいだに実に6社の転売を経ている。まさに目がまわるような土地取引である。

むろん転売は、それぞれの会社に購入と売却の差益を落とす目的もある。90年前後のバブル景気の全盛期にはしばしばあった。が、ここまで激しい転売物件は滅多にない。というより、地面師案件だけに複雑怪奇な様相を呈している。

そして行方不明だった高橋礼子が死体で発見されるのは、NTT都市開発の購入から1年3ヵ月後のことである。路地で倒れていた彼女はホームレス同然のボロ布をまとい、すでに白骨化していた。この間、いったい何があったのか。

遺体を発見した警視庁愛宕署では、彼女の死について「事件性はない」と発表した。あくまで自然死であり、殺人など他人が介在した犯罪ではないという趣旨である。しかし、それを額面どおりに受け止められないのは、私だけではない。この土地の取引に参加した不動産業者の初村も、こう推理する。

「あまりにタイミングがよすぎるのではないでしょうか。それに白骨死体だったということは、数ヵ月も放置されていたことになる。しかし、愛宕署は16年の春に高橋さんの捜索願を受け、7月から8月にかけて自宅周辺を捜索しています。もちろん自宅にも立ち寄っているので、夏場の暑い時期に路地に遺体があれば、もの凄い異臭がしていたに違いない。捜索時にそれに気づかなかったというのは、どうも妙なのです」

なぜ事件化されなかったのか

実際、家宅捜索をした夏の時点では、彼女の死体は発見されていない。発見は10月だ。単に捜査員が見過ごしてしまったのかどうか。初村はこう首を捻る。

「少なくとも愛宕署では、最初にA社に土地を売ったときの取引で、本人確認用に見せたパスポートが偽造であることを突き止めています。ニセ高橋礼子側の司法書士も、警察に対してそれを認めているといいます。実際になりすまし役を務めた秋葉についても、警察はすでにその行動を押さえているみたいですから」

改めて時系列を整理すると、15年春なりすまし取引、1年後の16年春本人の捜索願い、さらにその半年後の10月死体発見という順だ。少なくともこの間、地面師詐欺が実行されている。なのに、なぜ、事件化しないのか。初村はこう言った。

「事件は単純なのでしょうけど、パスポート写真のなりすまし役を捕まえられていないからかな。そこを逮捕すれば、事件化するのではないでしょうか」

しかし、警視庁の捜査は難航を極めた。いったい主犯は誰なのか。

「偽パスポートで住民票を移転」...《新橋の白骨死体事件》で暗躍した地面師たちの《周到すぎる》手口