「泥沼化する《数十億円の借地権》をめぐる争い」土地の所有者はアルコール依存症に...不動産ブローカーたちの《謀略》が「新橋の白骨死体事件」へと繋がっていく

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第28回

『再開発したら20億円以上!?...資産家女性の土地に群がる《地上げ業者》、この土地に《地面師》が目を付けたワケ』より続く

地面師の表の顔

「地面師と一口に言うけど、彼らのほとんどは不動産ブローカーあがりで、現実の土地取引もしています。なかには地主に対して買う約束をして手付けだけを払い、転売して儲けるパターンもある。性質の悪いブローカーは、手付け分の借用書を書いて相手に渡しておく。すると、あとから訴えられても、少しずつ返済すれば事件にならない。そういうやり方などは何度も見てきています。それもある種、地面師に近い手口ですが、地主はもちろんわれわれ普通の業者も騙されて、その物件を彼らから買わされることもある」

新橋の土地取引にかかわった別の不動産業者、初村道太郎(仮名)はそう語った。

「奴らは、むしろ最初はふつうに地上げをしようとします。だから見分けがつきにくいわけです。それがうまくいかなくなると、地面師仕事に切り替える。そういうパターンが多いようです」

3倍になる借地権

不動産取引の世界では、地面師という詐欺師に限らず、開発業者やブローカーがひと儲けしようと権謀術数をめぐらす。わけても地上げ業者同士が競合しているような曰く付きの土地だと、二束三文の建物を地主から購入し、借地権を主張してひと儲けするパターンもある。実際、新橋4丁目の件でも、そうした借地権が横行し、話を複雑にしてきた面がある、と初村が解説してくれた。

「たとえば高橋礼子名義の2つの土地に挟まれた場所には、木造の3階建てテナントビルがあります。ここの建物の所有権を買い取ったのが、ウエストという不動産会社でした。ここはかつて新橋の地上げで名を馳せたマンションデベ、菱和ライフクリエイトの西岡進が経営している。西岡の狙いは、土地がまとまったあと、NTTグループに借地権を高く売りつけることだったのでしょう」

ウエスト社がこのビルの所有権を買ったのが2016年1月だ。高橋礼子が白骨死体として発見される10ヵ月ほど前の出来事だけに、業界では何らかの関与があるのではないか、と噂されたが、関係性は不明である。事情を知る業者のあいだでは、ウエストはむしろこの一等地の再開発をめぐって借地権で儲けようとして建物を買っただけ、という見方が強いようだ。

「西岡といっしょに地上げしている不動産業者からは、彼が建物を買うために使ったのは2億から3億だと聞きました。高橋礼子さんの隣のビルだけでなく、この一帯の小さなビルや家屋を5軒も買い取ったそうです」

この土地に関与した多くの同業者と折衝してきたという初村は、こう言葉を足した。

「仮に3億円突っ込んだとしても、開発がうまく動き出せば、その2〜3倍のリターンになると思います。そういう目論見でこの土地に近づいて来た地上げ業者は、数限りなくいます。そのなかには、地面師連中と組んでいる輩もいますが、事件には手を染めていない第三者もいる。あるいは限りなくグレーの業者が、第三者だと言い張るためのアリバイをつくっている」

落ちぶれていく地主の娘

マッカーサー道路に面したこの一角に関しては、多くの不動産業者が周囲のビルの所有者への説得に走り回ってきた。実際、ウエスト社のように開発地域で上物の建物だけを買い取ったケースもあれば、底地を買い取る約束を取り付けてその権利を他に売ろうとしていたところもある。

そうして一帯の土地が地上げされていった。そのなかで彼女の所有地だけが、膠着状態に陥っていたのである。初村がつぶやいた。

「地上げ業者にとってはもう一歩のところ。だけど、彼女の放蕩ぶりはエスカレートするばかりでした。ホテル暮らしの手持ち資金が尽きてしまったのか、ワンカップ酒を買って路上で飲んでいたり、近所の知り合いに金を借りようとしたり……。銀行窓口に居座って110番されたことまであったといいます」

かつての素封家の娘は、ホームレスのようになっていく。しまいにアルコール依存症のような状態になり、16年の3月12日には、愛宕署に保護される始末だった。さすがに警察に保護された彼女は、いったん家に戻ったようだ。だが、それから間もなく、地元新橋の住人も姿を見かけなくなる。心配した隣人が愛宕署に捜索願を出した。実は地主不在のその裏で、事態が動いていたのである。

『「偽パスポートで住民票を移転」...《新橋の白骨死体事件》で暗躍した地面師たちの《周到すぎる》手口』へ続く

「偽パスポートで住民票を移転」...《新橋の白骨死体事件》で暗躍した地面師たちの《周到すぎる》手口