2024年のノーベル文学賞を受賞した韓国のハン・ガンさんは、シンガーソングライターとしての作品もあり、CDも発売していた(写真・ソウル新聞)

「さよならといった人/すべてを捨てた人/労ってもらえなかった人/あなたはそんな人」

「それでも生きなければならない時間/生きなければならない時間」

「さよならを言ったとしても/すべてを捨てたとしても/労ってもらえなくても/あなたは今ここに」

「今はもう生きなければならない時間/生きなければならない時間」

夢の中に出てきた音楽をそのままCDに

韓国で初のノーベル文学賞を受賞した小説家ハン・ガンさん(53)は、歌手デビューをしたわけではないが、シンガーソングライターとしての活動をしたことがある。2007年に発売した散文集『そっと 静かに』の巻末付録CDに収録された10曲を作詞・作曲し、直接本人が歌ったのだ。

このCDには、木に対する畏敬の念を歌った「木はいつでも私のそばに」や、「夜明けの歌」「日の光ならいい」「静かに歌う歌」などが収録されている。

実際に歌うのは別の歌手を起用することを望んだが、ハン・ガンさんの友人で音楽監督のハン・ジョンリムさんが強く押し、本人が録音までした。

楽譜の書き方は知らない。ただ、頭の中に浮かんだメロディーを録音しておいた。それを専門家がピアノ、チェロ、ベース、オーボエなどで編成して演奏された。

ハンさんがCDを出したのは、「急に夢の中でとある音楽が聞こえてきて、これをCDにすることになった」と打ち明けている。

ハンさんがCDを作ることになったのは2005年、『菜食主義者』の第3部を書いていた時だった。ある日夢の中でとある音楽が聞こえ、朝起きてから「変な夢だった」と思いながらも、この音楽を記憶し、歌を作った。ハンさんは「詩を書くように文章を前後に広げてみたら歌になった」という。

ハンさんは執筆中には「音楽から多くのインスピレーションが得られる」と打ち明けている。

ハンさんは2021年にYouTubeチャンネル「文学トンネ」(トンネは村といった意味)に出演し、「音楽が持つ情緒があるが、そんな情緒が『そうだ、私はこれが書きたかったんだ』と突然気づかせてくれる」と話している。

「音楽から多くのインスピレーション」

さらに『別れを告げない』を執筆していた当時に聴いた歌の中で、韓国の男女(兄妹)デュオであるAKMUが歌う、「어떻게 이별까지 사랑하겠어, 널 사랑하는 거지 How can I love the heartbreak, you're the one I love」(どうして別れまで愛せようか、君を愛しているのに)」を紹介している。

2019年9月にAKMUが発表したアルバム「航海(SAILING)」の中の1曲で、NMIXXリリーとイ・ムジンやBLACKPINKのメンバーをはじめ、これまで韓国の多くの歌手にカバーされている曲だ。

ハンさんは「初稿を書き終えてタクシーに乗ったら、この歌が流れていた。知っている歌だし有名な歌だろうと思って聴いていたが、最後の部分の歌詞がまったく違う意味を持って迫ってきて、知らぬ間に涙を流していた」という。

ハンさんが紹介した歌詞は「어떻게 내가 어떻게 너를(どうやって私が どうやってあなたを)/ 이후에 우리 바다처럼 깊은 사랑이(この先私たちは 海のように深い愛が)/다 마를 때까지 기다리는 게 이별일 텐데(すべて乾いてしまうまで待つことが別れなのに)」だ。

ハンさんは、第117回ノーベル文学賞を受賞した。女性としては18人目、アジアの女性作家としては初の受賞だ。1913年に受賞したインドのタゴール、1968年受賞の日本の川端康成、1994年受賞の大江健三郎、2021年受賞の中国の莫言に続いて、アジアの作家としては5人目だ。

スウェーデン・アカデミーは「歴史的トラウマに向かい合って人間の生の脆弱さを表した強烈な詩的散文」と、その選定理由を発表している。

(ソウル新聞)