【村井 真子】体臭が急に強くなり、それを理由に敬遠されるようになった社員がとった「衝撃行動」の中身
労務相談やハラスメント対応を主力業務として扱っている社労士である私が労務顧問として社労士として企業の皆様から受ける相談は多岐にわたります。
経済や社会情勢の変化によって労働問題やハラスメントの捉え方も変わり、「明らかにアウト」「明らかにセーフ」といった線が引きにくい時代になりました。
社労士としてグレーゾーンの問題を取り扱ってきた経験では、こうした問題に対処するには労働法だけではなく、マネジメントや人事制度など幅広い知識が必要になります。今回はIさんの相談事例から、デリケートな問題をどう扱うか、その際に気を付けるべきポイントなどを紹介します。
真面目で人望の厚い男性の「突然の異変」
Iさん(50代・男性)は、地方の大型小売店のバックヤードで働くベテラン社員です。気が利いたり自分から前に出るようなタイプではありませんでしたが、真面目で着実な仕事ぶりから、同僚や店長からの信頼も厚い人物でした。
Iさんは店舗の立ち上げ期から働いており、この店のことならなんでもIさんに聞けばわかると言われるほど。Iさん自身もその評価におごることなく働いており、強面で寡黙な姿勢とあいまって、そのような姿は「ヌシ」と若手社員がこっそり呼ぶような頼もしさでした。
そんなIさんに異変が起こったのは、6月の末ごろからでした。
Iさんは、突如として体臭が強くなったのです。特に不潔なようには見えないのですが、Iさんの口臭や周囲からおしっこのような、ツーンとしたアンモニア臭がするようになりました。
夏に差し掛かってきたことや、Iさんの主に就労しているバックヤードにはエアコンがないなどの理由もあり、Iさんに対して徐々に距離を置く女性社員や若手が増えてきました。
店長も気になりつつ、匂いはデリケートな問題でもあるだけに、どのように伝えたらいいのか、そもそも伝えてもいいのか、と悩みました。店長のHさんは40代の女性だったということもあり、年下で女性の自分が伝えることでより傷つけてしまうのではないかと逡巡してしまったのです。
「お客様の声」に入った強烈なクレーム
悩んでいる間に時間も過ぎてしまい、徐々にIさんは店舗内で孤立していきました。
HさんがIさんに向き合うことを決意したのは、顧客からの明確なクレームが入ったからでした。店舗の入口に備え付けられた「お客様の声」のなかに、レジに入っていた男性スタッフの体臭が強い、不潔感がある、という内容のものがあったのです。
それはIさんを名指ししたものではありませんでしたが、シフトが薄くIさんが急遽レジに入った日であり、かつレジを担当していた男性はIさんだけでした。スタッフからも何度か相談があったことだっただけに、店長はついに決心してIさんに伝えることにしたのです。
Hさんは、事態を解決すべくIさんに対して事実をそのまま伝える方法をとりました。「お客様から、体臭についてご指摘をいただきました」と淡々と伝えたものの、Iさんにとっては青天の霹靂だったのでしょう。
大きなショックを受けていたようだったといい、店長が「もしかしたら体調が悪いのでは」と伝えたことは耳に入っていないようでした。
その後、Iさんは目に見えて覇気がなくなりました。同僚から避けられていることに気が付いてしまったのか、もともと明るく社交的ではないIさんは一日中無言で働くようになりました。
仕事自体は変わらずこなしていましたが、更に近づきにくくなったことで社員から一層遠巻きにされるという悪循環になってきたのです。
…仕事もできて人望の厚い社員ゆえに、なぜ自分が避けられるようになったのかまったく自覚がないIさん。つづく<「体臭が急に強くなり、それを理由に敬遠されるようになった社員の「衝撃行動」のその後>では、その対応策について社労士の村井氏が解説します。