アンデルレヒト戦で後半から出場した久保。(C) Getty Images

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 恥ずべき試合だった。レアル・ソシエダはアンデルレヒトに1−2の逆転負けを喫した。なかなか波に乗れない姿に心配が増してくるが、結果は二の次というしかない事件が起きた。

 試合数日前からサン・セバスティアンに1200人のアンデルレヒトのサポ―ターが来襲し、そのうち300人は要注意人物とアナウンスされていた。誰もが何が起こるか知っていた。地元警察を除いては。

 試合は正常に進行し、ソシエダがパブロ・マリンのゴールで先制してしばらく経った前半半ばだった。ならず者たちはスタンドのスクリーンを壊し、座席を投げ込んだ。多くの家族連れが陣取っていた下層階ではパニックが発生し、中には恐怖に怯えた子供たちを連れて帰宅する者も現われた。

 不可解なことに、大混乱の中でも、警備員がハーフタイムまで介入に入らなかった。さらに悪いことにカオス状態はピッチに波及し、選手たちが気が気でない中プレーし続けたソシエダは前半のうちに逆転を許した。

 ウルトラスは、サッカー界が抱える病であり、今回は勝敗にも影響を及ぼした。
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 もちろん敗因はそれだけではない。中でも、墓穴を掘ってしまったのがイマノル・アルグアシル監督だ。週末のアトレティコ・マドリー戦に向けて主力をこれでもかというほど温存し、いたずらにチームに混乱を招いた。

 確かに今夏の補強を経て、選手層は拡充した。しかしローテーションを組むことと、10人の選手を入れ替えることはまったく別の話だ。

 タケ・クボ(久保建英)もローテーションの対象となり、ベンチから戦況とスタンドの混乱を見守った。しかし動くしかないアルグアシル監督は、後半頭からナイフ・アゲルドとアンデル・バレネチェアとともに投入。同時にフォーメーションも5−3−2からいつもの4−3−3に変更した。困ったときのタケ頼みというわけだ。

 その効果はあった。ワイドに開くタケとバレネチェアの両ウイングが常に脅威を与えながら、自陣に閉じこもる相手にポゼッションで圧倒。試合はアンデルレヒト陣内でのプレーが続くハーフコートゲームと化し、サッカーではなく、ハンドボールを見ているのではないかと錯覚してしまうほどだった。
 
 今回もまた、一部のファンがスタンドプレーに走っていると、不満を示したが、タケはいつものようにどこ吹く風と言わんばかりの堂々とした態度でチャンスを作ろうと奮闘し続けた。

 二重三重に守備網を敷く相手に手を焼く中でも、49分(ボレーを狙うもうまくヒットできず)、65分(ニアを射抜くも、コースが甘くGKがキャッチ)、83分(右足で狙うも、枠を捉えられず)、85分(強烈な左足シュートを見舞うも、GKがパンチングで弾き出す)と立て続けに積極的にシュートを打った。

 最後まで隠れることなく、チームのために労を惜しまず走り続け、たとえうまくいかなかったとしても、諦めることはなかった。

 サッカーにおいて一番の宝物はやはりファンだ。彼らがいないと何もできない。今回起こったことはもはやサッカーではない。決して許してはならない蛮行だ。
 
 タケの関心事は、チームを高みへと導くことだ。それが彼のモチベーションの源泉であり、仕事だ。今回のことでタケとチームメイトはファンに借りを作ってしまった。もちろん彼らの責任ではないとはいえ、だ。

 アノエタでの悪いニュースや不快な試合はもうこりごりだ。ファンに喜びを与える時が来たのだ。6日、ソシエダはホームに強豪アトレティコを迎える。

取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸