恐喝共謀、性的人身売買、州をまたいだ買春行為の容疑で起訴されたこと音楽界の大物ショーン・コムズ。米ニューヨーク州で公開された連邦大陪審の起訴状によれば、2008年から2024年まで、膨大な富と名声を利用して「自らの性的快楽」を主な目的とした犯罪組織を取り仕切っていたとみられる。多岐にわたる卑劣なRICO訴訟で、Bad Boy Entertainmentの創業者は終身刑に問われる可能性もある。本記事では、コムズの刑事訴訟の行方が脚光を浴びる中、注目すべき係争中の民事裁判を以下挙げてみた。

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2023年11月21日:原告A

匿名の原告は、Bad Boy Entertainmentの元CEOハーヴィ・ピエールのアシスタントとして働いていた際、2016〜17年まで「上司の権力をふりかざされて、洗脳、搾取、性的暴行を受けた」と主張している。

匿名原告はニューヨーク州の「成人サバイバー法」およびニューヨーク市の「性暴力被害者保護法」修正条項に基づいて訴訟を起こした。修正条項では2025年3月1日まで、時効が確定した特定の事件の再審が認められている。原告はコムズ本人ではなく、Bad Boy Entertainment、Bad Boy Records、Coms Enterprisesをはじめとするコムズ所有の複数企業を訴えている。「被告人らはピエールに対する適切な監視、原告(匿名)に対する適切な監視を怠り、既知の危険から原告(匿名)を保護せず、結果としてピエールの性的暴行を招いた」と原告は訴えた。

ピエールとコムズの弁護団は訴えの棄却と、原告側に匿名ではなく法定氏名の公開を求める請求を行った。判事はこの申し立てについて、まだ裁定を下していない。

2023年11月23日:原告ジョイ・ディッカーソン・ニール

元恋人でシンガーのキャシーことキャシー・ベンチュラの訴訟申し立てから数日後、まっさきに性的暴力でコムズを訴えたのがジョイ・ディッカーソン・ニールだ。感謝祭の日に申し立てを行ったのは、この日がニューヨーク州の「成人サバイバー法」で認められる再審請求の最終期日だったからだ。ディッカーソン・ニールは1991年、大学を休学中にコムズから薬を盛られ、レイプされ、凌辱の様子を収めた動画を他人にシェアされたという(コムズは容疑を否認している)。

ディッカーソン・ニールは今年5月、リベンジポルノなど訴因の一部を取り下げ、内容を修正してあらためて訴状を提出した。コムズの弁護団は取り下げられた訴因が1991年以前に行われたもので、すでに時効が成立しており、過去に遡って申し立てることはできないと主張していた。後にディッカーソン・ニールはBad Boy EntertainmentとCombs Enterprisesを被告から外した。

審理は9月25日に予定されており、被告側は残る訴因のうち、暴力行為を除く暴行および精神的苦痛の過失賦課についても棄却を請求している。

2023年11月23日:原告リサ・ガードナー

リサ・ガードナーも感謝祭に訴訟を起こした。1990年、レコード会社MCAがマンハッタンで主催したパーティでコムズとシンガーソングライターのアーロン・ホールと知り合った後、2人に交替でレイプされたと訴えている。本人の主張では、コムズは翌日も彼女に会うやあからさまに脅しにかかり、「気絶する」寸前まで「殴打したり首を絞め始めた」という。ガードナーはコムズとホール以外に、ユニバーサルミュージックグループ(UMG)、MCA、Uptown Recordsも訴えた。コムズは容疑を否認している。

ディッカーソン・ニール同様、ガードナーも当初は匿名で名乗り出たが、後に実名公開を余儀なくされた。その後の申し立てで、ガードナーは暴行当時まだ16歳だったと明かした。

MCAの親会社にあたるUMGは、レイプがあったとされる当時ガードナーが18歳未満だったことを理由に、ニューヨーク州の「成人サバイバー法」の適用外だとして反論した。ガードナーとタイロン・ブラックバーン弁護士は、その後の調査で実際の犯行現場がニュージャージー州にあるホールの自宅だったことが証明されたとし、今年6月にニュージャージー州バーゲン郡であらためて訴えを起こした。ニュージャージー州では、未成年時に性的暴行を受けた被害者は53歳になるまで訴訟を起こすことが認められている。訴えはその後ニュージャージー州連邦裁判所に移された。

2023年12月6日:原告A

ミシガン州の匿名女性はコムズと、コムズの長年右腕だったハーヴィ・ピエールを訴えた。17歳の高校生だった2003年当時、コムズとピエールにプライベートジェットでデトロイト近郊からマンハッタンに拉致されたという。2人は原告に薬と酒を飲ませ、ほぼ完全に意識を失わせた上で、レコーディングスタジオDaddys Houseで集団レイプに及んだと原告は訴えている。

ベンチュラの弁護も担当したダグラス・ウィグドール氏とメレディス・ファイアトグ氏は、事件当夜に撮影された複数カラー写真を訴状に添付した。写真の中には原告がコムズの膝の上に座っているものもあった。匿名女性はニューヨーク市の「性暴力被害者保護法」に基づいて訴えを起こしたが、コムズとその運営会社は、州全域で適用される別の法律、すなわち「成人サバイバー法」下で2021年8月に成立した時効が「性暴力被害者保護法」より優先されるとして、訴えの棄却を請求している。

棄却請求に対する判事の裁定はまだ出ていない。仮に匿名女性の主張が認められ、審理開始となった場合でも、すでに裁判所は原告に実名を公表するよう命じている。

2024年2月26日:原告ロドニー・ジョーンズ

音楽プロデューサーのリル・ロッドことロドニー・ジョーンズは、コムズを性的暴行で訴えた唯一の男性原告だ。いわく2022年9月から2024年11月にかけて、『he Love Album: Off the Grid』製作中にたびたびコムズからセクハラ行為や身体接触を受けたという。

さらにジョーンズは、性的人身売買と恐喝の企みにも加担させられたと訴えている。コムズに代わってセックスワーカーの調達と渡航を命じられた他、コムズの関係者が違法薬物を携帯して渡航してコムズに提供していたのを見たとも主張している。

今年8月、コムズの弁護団はジョーンズの訴えを退ける申し立てを行った。訴えは「極悪卑劣な組織犯罪の陰謀論」で、「法的には何の意味もなさない疑惑とあからさまな嘘」だらけだと主張した。コムズの棄却請求に対してジョーンズは9月30日までに答弁を行い、その後判事が裁定を下す。

2024年4月4日:原告グレイス・オマーキー

2022年下旬、コムズ一家がヨットをチャーターしてセントマーティンで休暇を取っていた際、搭乗員のグレイス・オマーキーさんはキングの愛称で知られるコムズの末息子、クリスチャン・コムズ(26歳)から船内で性的暴行を受けたと訴えた。オマーキーさんは「狂暴化した」クリスチャンに全力で抵抗しなければならなかったそうだ。衣類を脱いだクリスチャンはオマーキーさんの両腕を掴み、「勃起したペニス」に「無理矢理口淫させようとした」という。

当初被告はクリスチャンだけだったが、現在はショーン・コムズも息子の行動をほう助した容疑とヨット借主の損害賠償責任で訴えられている。訴えに対して、コムズとクリスチャンの弁護団はまだ正式な答弁を行っていない。次回の審理は12月10日の予定。

2024年5月21日:原告クリスタル・マッキニー

モデルのクリスタル・マッキニーは22歳だった2003年2月、デザイナーのロベルト・カヴァッリの口添えでショーン・ジョンのファッションショウに出席した。訴えによると、その後コムズから薬を盛られ、性的暴行を受けたという。マッキニーの主張によれば、暴行があったとされる数時間前にコムズからさんざんほめそやされ、イタリア料理店「シプリアーニ」でのお忍びディナーではキャリアを約束されたそうだ。その後コムズのレコーディングスタジオで行われたアフターパーティで、混ぜ物入りの大麻を吸うようコムズから強要され、その後バスルームに連れていかれると、オーラルセックスを強要されたという。

訴状には、性的暴行でマッキニーは「身体の具合が悪くなり」、その後一瞬気を失って、目を覚ますと「タクシーに乗せられていてショックを受けた」とある。事件で心にひどい傷を負ったマッキニーは、「事件当夜の衣類を洗わずに……ビニール袋に入れて保管した」と訴状には書かれている。

他の原告同様、マッキニーも「性暴力被害者保護法」に基づいて訴えを起こした。先週コムズの弁護団は元モデルの訴えに対し、すでに時効が成立している州法が優先されるとして棄却を請求した。

2024年5月24日:原告エイプリル・ランプロス

1994年上旬、大学生だったエイプリル・ランプロスはArista Recordsでインターンを務めていた際、コムズとつかず離れずの関係になった。飛ぶ鳥を落とす勢いだった音楽プロデューサーは当初ランプロスに「猛アタック」したが、その後4年に渡る交際期間中に3度、さらに2001年に1度、性的暴行に及んだ疑いがもたれている。

訴状によると、2003年にランプロスはコムズとの関係に再び頭を悩まされた。1997年当時、コムズが彼女とのセックスを録画し、複数の人々に見せていたことを知ったためだ。

コムズの弁護団はランプロスが訴えた3件の訴因――暴力行為、暴行、精神的苦痛の過失賦課――は時効が成立しており、「性暴力被害者保護法」の適用範囲にあたらないと主張している。ランプラスは9月に訴状を修正して3件の訴因を取り下げ、法律違反に関する訴因のみであらためてコムズを訴えた。

「性暴力被害者保護法」よりも州法が優先されるとする被告弁護団の棄却請求に対し、判事はまだ裁定を下していない。

2024年7月3日:原告アドリア・イングリッシュ

ハスラークラブの元ダンサーでアダルト女優のアドリア・イングリッシュは、コムズの悪名高きホワイトパーティでダンサーとして雇われた際、売春を強要されたと訴えた。イングリッシュは2004年から2009年にかけて、コムズと取り巻きの仲介でハンプトンやマイアミに招かれ、「酒と違法な麻薬の摂取を無理強いされた」という。イングリッシュの主張によると、結局彼女はパーティの客と「性行為に及ぶ」ことを期待されており、コムズからもそうした行為をするよう「要求され」たという。「宴が終わると、よくやったと褒められた」と訴状には書かれている。

イングリッシュは「性暴力被害者保護法」に基づいてコムズを訴えた。原告弁護団はコムズとその他被告に対して呼出状の発行を請求し、8月上旬に認められた。コムズ弁護団は訴状に対する答弁をまだ行っていない。

2024年9月10日:原告ドーン・リチャード

かつてDanity KaneとDiddy-Dirty Moneyに所属していたドーン・リチャードは、レーベルの元ボスを訴えた2人目のBad Boyアーティストだ。本人いわく、コムズからセクハラと性的暴力を受け、「一連の恐喝と残忍な暴力をほのめかされて」「売春行為に関与」させられていたという。

リチャードの訴えに対し、コムズの弁護団はまだ答弁書を出していないが、メディアに宛てた声明および保釈審理の陳述では、性的人身売買および恐喝容疑に該当しないとして訴えの棄却を請求した。

トゥーゲル弁護士も指摘しているように、コムズの刑事裁判で提出された書類もリチャードの主張の裏付けとなった。検察によれば、リチャーズが申し立てを行ってから数日間、コムズはバンド仲間のカレンナ・ハーパーに128回も電話をかけていたという。ハーパーは後に、リチャードの一件と自分は無関係だという旨の声明を発表した。

コムズの弁護団は通話について、「妨害とは言いがたい」と主張して丸く収めようとしているが、リチャードの弁護を務めるリサ・ブルーム氏はローリングストーン誌の取材に応じ、「我々の民事訴訟で通話内容および携帯メールを請求するつもりです。もし証人に圧力をかけたことが認められれば、訴状に追加して徹底的に追及します」と語った。

2024年9月24日:原告タリア・グレイヴス

著名な弁護士グロリア・オールレッド氏が提出したた身の毛もよだつ訴状の中で、原告のグレイヴスはコムズと取り巻きの1人、ビック・ジョーことジョセフ・シャーマンを訴えている。訴えによると、2001年に2人にそそのかされてマンハッタンのレコーディングスタジオDaddys Houseに連れていかれ、おそらくドリンクに薬を盛られたのか、一瞬気を失ったという。目を覚ますと「ひもで縛られ、拘束された」状態で、コムズから「肛門と膣を容赦なく犯された」そうだ。シャーマンからはテーブルに押し付けられ、口にペニスを押し込まれたという。

訴状によると、その後グレイヴスは集中セラピーを受けたが、被害から完全に立ち直ることはできなかった。わずかながら進展していたものの、昨年11月に元恋人から聴いた話によって「大きく後退してしまった」という。元恋人によると、コムズとシャーマンは恐ろしいレイプの状況を録画していて、複数の男に見せていたという。これだけでも驚愕だが、さらに2人は「動画をポルノ映像として販売するなど、今日にいたるまで拡散を続けている」と原告は訴えている。

ローリングストーン誌はコムズおよびシャーマンの代理人にコメントを求めたが、すぐに返答は得られなかった。

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