嫁の朋美を尊重し、呪いから解き放つ姑のエマ「推し嫁ルンバ 嫁ぎ先のお姑さんがいつも私に冷たいと思っていたら、実は推しとして見られていた話」より


【漫画】本編を読む

NHK連続テレビ小説「虎に翼」がついにエンディングを迎えた。主人公が不条理に直面しながらも、道なき道を切り開く姿に心を揺さぶられるドラマだった。男尊女卑の価値観が色濃い時代、理不尽な出来事に行き当たるたびに闘い、ときにはくじけた日もある。しかし、そんな主人公のそばには、いつも温かく激励する人のいたことが印象的だった。たとえば、厳しくも優しく、六法全書を渡して娘の背中を押した母。どんなときも主人公の幸せを第一に考え、見守り続けた夫。苦境にあっても孤独ではなく、周りの人々とのかかわりによって前進していく主人公の姿が心に残った。

新しい家族関係を描いたコミック、かときちどんぐりちゃん(@katokich)さんの「推し嫁ルンバ 嫁ぎ先のお姑さんがいつも私に冷たいと思っていたら、実は推しとして見られていた話」にも主人公を尊重しながら、ともに歩んでいく人物たちが描かれている。

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本作の主人公・佐藤朋美は、出版社で編集長をしている。30代の終わりに雑貨屋店主・光林寺ひろしと出会い、結婚。仕事もプライベートも充実した日々を送るが、旧時代的な価値観を持つ父親のもとで育った朋美には、自信が持てない、女性らしく振る舞うことへの違和感がある…といった影響が及んでいた。

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朋美の父に言わせると、朋美は「行き遅れの年増」であり、「女らしいところもなく仕事にばかり打ち込んで」いる娘らしい。また、朋美がウエディングドレスを試着した際は、その姿を見るや否や開口一番「とうに三十路過ぎた女がみっともない」と一蹴するのだった。

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そんな朋美の呪いを解いたのが姑である光林寺エマだった。自由で自立した生き方を貫くエマは、朋美に対して「ありのままのあなたが素晴らしい」とメッセージを送る。そして、夫のひろしもまた、彼女の選択を大切にする存在だ。朋美を尊重しながら、温かく見守るパートナーとして息づいている。そんなエマやひろしと交流するうちに、やがて朋美の父までも価値観を改めていく様子が感慨深い。

作者のかときちどんぐりちゃんさんに、本作を制作する中でどのようにキャラクターや関係性を構想されたかお話を伺った。なお、かときちどんぐりちゃんさんは「虎に翼」の視聴者であり、関連するイラストをSNSに投稿されている。

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■絆はポジティブな局面だけではなく、心の傷や渦巻く負の感情からも生まれる

――朋美の父親とエマのやり取りが印象的でした。エマはどのような価値観を持っているとお考えでしょうか?

エマさんは2020年代で年齢70代という設定で、激動の1960〜70年代にダンサーとして青春を過ごした人です。まだまだガラスの天井がぶ厚かった時代だと思いますが、勇気ある先人たちをロールモデルにして、力をもらいながら芸術の世界で奮闘してきたのではないでしょうか。ジャンルを問わず、あとに続く女性たちに向けて背中を見せながら力を与えていこうと思っているに違いありません。

――エマは、朋美に対する父親の態度を見たとき、どのような感情を抱いたでしょうか?

「私の推しサマに対して何ということを…!」とブチギレ状態だったかと。

――父親とひろしは対照的な男性だと感じました。ひろしのキャラクターはどのように考えられましたか?

朋美やエマに対してはいつもニコニコと優しい笑顔で接していますが、実は社会悪や世界の不条理にずっと腹を立てている、曲がったことが大嫌いな正義感を持った強い人なのでは?と描きながら思っていました。本当に強い人は、変革をもたらそうとするとき力に頼らず、きちんとロジカルに交渉します。普通の人なら朋美の父親と喧嘩するところでしょうが、ひろしは辟易しつつもきちんと向き合ったんですね。

――朋美とエマは嫁と姑であり、推しとファンという関係性にあることが本作のユニークなポイントです。そして、物語が進むにつれて二人の関係は深まり、嫁と姑、推しとファンを越えた絆が芽生えていきます。彼女たちの人間関係の核となる部分はどこにあるとお考えでしょうか?二人の関係を描くうえで大事にしたポイントを教えてください。

2024年4月から放映され、話題となった「虎に翼」。私も毎朝楽しみに観ていましたが、これまでになく女性の権利や社会的弱者に寄り添い、かなり攻めた内容で驚きと感動の連続でした。私がこのドラマから受け取ったのは「すべての人は失敗する権利を持つ」ということ。現代社会では、一度しくじってしまうと失敗を克服し挽回するチャンスがなかなか与えられず、周囲(見ず知らずの人も含め)から落伍者の刻印を押されてしまいます。かく言う私もこれまでの人生は失敗の連続で、寛容な人々からの赦しを得て何とか生きていますが、同じように他人の失敗を赦してきたのだろうか?寛容さを持ち得ただろうか?と自問することがあります。

ドラマの主人公・寅子さんも多くの軋轢を繰り返し、そのたびに新たな気づきと学びを得る賢さを備えていましたが、同時に周囲の温かい寛容さも描かれていたように思います。絆はポジティブな局面だけではなく、ときには心の傷や渦巻く負の感情からも生まれるような気がしています。「推し嫁ルンバ」では(描きおろしで言及していますが)、過去の蹉跌(さてつ)や挫折、相克などを抱えた登場人物が家族として出会い、家族を超えた心の繋がりでともに歩み始める物語を描きたかったので、そこを目指しました。

「虎に翼」の主人公・寅子はやがて、後輩の女性のために働く環境を改善しようと声をあげる。次世代のために、露払いする存在となったのだ。「推し嫁ルンバ」の朋美の前にも先駆者がいて、100年前の誰かが切り開いてきた道があって、そして朋美もまた、新しい道を作っていくのかもしれない。