連結売上高「2兆円以上」!東京スカイツリー、エスコンフィールドHOKKAIDOなどを手がけた大林組が取り組む“DX事情”についてDX本部長が言及
笹川友里がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00〜20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。9月21日(土)の放送は、株式会社大林組 常務執行役員 DX本部長の紅林徹也(くればやし・てつや)さんをゲストに迎えて、お届けしました。
紅林さんは1985年に日立製作所に入社。公共分野のSE・情報事業の企画に携わり、その後グループ会社の役員を歴任。2015年には日立製作所より内閣府に出向し、Society 5.0の策定に従事。2023年に大林組に入社し、常務執行役員 DX本部長に就任しました。
◆実は制約が多い建設業界
1892年創業の大林組は、これまで東京スカイツリーや表参道ヒルズ、近年ではエスコンフィールドHOKKAIDO、古くは東京中央停車場(東京駅駅舎)も手がけた日本屈指の総合建設会社(スーパーゼネコン)で、現在の社員数は大林組単体で約9,000人超。さらには、146社からなる連結会社を加えると約1万7,000人にのぼり、連結売上高は2兆円以上になります。
まずは建設業のDX(デジタルトランスフォーメーション)事情を伺うと、紅林さんは「建設業は現場の泥くさいイメージだったり、3K(きつい・汚い・危険)と表現され、ITの利活用とは遠いイメージを持たれがちですが、実はITの活用という意味では昔からヘビーユーザーです。なぜなら、建設業は構造計算が必須で、そのために大量の計算処理が必要なので、古くからコンピューターを使っていました」と言います。
大林組では1980年代からITの専門部門を創設してさまざまな取り組みを進め、2020年にデジタル推進室を設置、2022年には社内BPRを進めるデジタル変革プロジェクトチームも組み入れてDX本部を設置しています。DX本部ではデジタル化推進の加速、デジタルガバナンスの強化を図っています。
ちなみに、2023年に入社した紅林さんいわく、入社後は建設業独特の風土を実感し、「仕事の質やそこに携わる人間のメンタリティは(前職と)似ていて理解しやすかったのですが、建設業にはいわゆる建設業法があり、規制があるので外国企業が参入しにくく守られている反面、逆にいろいろな側面で縛りがあるのが前職との大きな違いで、思いのほか、ビジネスの自由度が制約されていることが最近わかりました」と言います。
◆“DX化”を進めるうえで意識したことは?
紅林さんは大林組に入社した際、第一印象としてはDXが進んでいると感じたそうですが、その一方で「世間で言われているDXに必要な手段をひと通り打っているイメージはあるものの“表層的”という印象を受けました。私自身の考えとしては、DXは“ダイナミックケイパビリティ(変化への対応力)”を高めることが本質で、それは経営のアップデートとセットにしないと本当の価値は生まれないと思っているのですが、(入社当初は)施策だけが進んでいる印象を受けました」と回顧。
そんななか、紅林さんがDX化を進めるうえで意識したのは、変革したことで“現場へのしわ寄せ”がいかないように、慎重に前に進めることだったと言います。「建設業は一定の制約があり、変化への対応の内部的要求があまり高くないんです。そこを無理矢理変えるのは大変ですし、現場のことを考えれば、些細なミスが人命に関わるので、少なくとも現場に大きな負担の生じない変革を心がけなければいけない、そして、時間をかけてでもしっかり前に進むことが重要だと思いました」と振り返ります。
◆建築業界の未来を担う“BIM”とは?
建築業界のデジタル領域においては、2010年代からBIM(Building Information Modeling)の活用が広がっています。これは建築に必要な図面をデジタル化し、そこに情報を埋め込んで再利用可能にしたもので、「建築業界には以前からCAD(Computer Aided Design)というアプリケーションがありますが、そこに、さらにいろいろな情報を付加したものがBIMです。しかも、BIMの世界はコンピュータ処理されるので、三次元、時系列のデータまで取り込めば四次元までできます」と紅林さん。
さらには、「デジタルの本質的なメリットは、情報共有のスピードと簡単に再利用できること、そこが生産性を上げる大きな鍵になります。逆にいうと、BIMは人力で大量のデータを打ち込まなければいけないので、最初のモデルを作るのに労力がかかります」と解説します。
紅林さんいわく、そんなBIMの現在の完成度は10%未満だそうで、100%に行き着くには最低でもあと30年くらいはかかるだろうとのこと。ただ、完成した際には、いろいろなことができると言い、「例えば、施主から変更依頼を受けたときに、瞬時に再見積もりが算定できて施工の手順も反映される、それが1つの理想形です。今は再見積もりを出すだけでも1ヵ月以上かかり、想定外のコストがかかってしまうことがありますが、そうしたことがなくなると思います」と語ります。
◆日本の全業界が抱える大きな課題
続いて、建設業に求められている改善点を聞いてみると、「ITを見ている立場からすると、今の世の中のITシステムは基本的にFit to Standard(国際標準をキャッチアップしてそれに近づけること)を目標としているアプリケーション・サービスが多く、そこで必要なのは“人材マネジメント”なんです」と言及。
日本では従来、新卒一括採用で組織戦に強い人材育成、チーム作りをしてきましたが、人材マネジメントのグローバルスタンダードは、優秀な部下をしっかり管理し、部下の成果を組織の成果として取り込むことだそう。その考え方は、ものづくりにも大きく影響し、「(日本は)コストをかけてそこを改造しないと、今の世界基準のマネジメントモデルに合わなくなるし、結果として、コストパフォーマンスが悪いシステム、サービスの導入を強いられることになります」と紅林さん。
そして、このままでは、人手不足のために外国人のマネージャーや技術者を招聘しようにも誰も来ないことを指摘し、優秀な人材の活かし方を重視した“世界基準の人材育成マネジメント”に早くシフトしていくことが重要と語りました。
次回9月28日(土)の放送も、引き続き紅林さんをゲストに迎えてお届けします。大林組のDXの試みや紅林さんの仕事術についてなど、貴重な話が聴けるかも!?
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9月21日放送分より(radiko.jpのタイムフリー) http://www.tfm.co.jp/link.php?id=9052
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<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00〜20:30
パーソナリティ:笹川友里
(左から)紅林徹也さん、笹川友里
紅林さんは1985年に日立製作所に入社。公共分野のSE・情報事業の企画に携わり、その後グループ会社の役員を歴任。2015年には日立製作所より内閣府に出向し、Society 5.0の策定に従事。2023年に大林組に入社し、常務執行役員 DX本部長に就任しました。
◆実は制約が多い建設業界
1892年創業の大林組は、これまで東京スカイツリーや表参道ヒルズ、近年ではエスコンフィールドHOKKAIDO、古くは東京中央停車場(東京駅駅舎)も手がけた日本屈指の総合建設会社(スーパーゼネコン)で、現在の社員数は大林組単体で約9,000人超。さらには、146社からなる連結会社を加えると約1万7,000人にのぼり、連結売上高は2兆円以上になります。
まずは建設業のDX(デジタルトランスフォーメーション)事情を伺うと、紅林さんは「建設業は現場の泥くさいイメージだったり、3K(きつい・汚い・危険)と表現され、ITの利活用とは遠いイメージを持たれがちですが、実はITの活用という意味では昔からヘビーユーザーです。なぜなら、建設業は構造計算が必須で、そのために大量の計算処理が必要なので、古くからコンピューターを使っていました」と言います。
大林組では1980年代からITの専門部門を創設してさまざまな取り組みを進め、2020年にデジタル推進室を設置、2022年には社内BPRを進めるデジタル変革プロジェクトチームも組み入れてDX本部を設置しています。DX本部ではデジタル化推進の加速、デジタルガバナンスの強化を図っています。
ちなみに、2023年に入社した紅林さんいわく、入社後は建設業独特の風土を実感し、「仕事の質やそこに携わる人間のメンタリティは(前職と)似ていて理解しやすかったのですが、建設業にはいわゆる建設業法があり、規制があるので外国企業が参入しにくく守られている反面、逆にいろいろな側面で縛りがあるのが前職との大きな違いで、思いのほか、ビジネスの自由度が制約されていることが最近わかりました」と言います。
◆“DX化”を進めるうえで意識したことは?
紅林さんは大林組に入社した際、第一印象としてはDXが進んでいると感じたそうですが、その一方で「世間で言われているDXに必要な手段をひと通り打っているイメージはあるものの“表層的”という印象を受けました。私自身の考えとしては、DXは“ダイナミックケイパビリティ(変化への対応力)”を高めることが本質で、それは経営のアップデートとセットにしないと本当の価値は生まれないと思っているのですが、(入社当初は)施策だけが進んでいる印象を受けました」と回顧。
そんななか、紅林さんがDX化を進めるうえで意識したのは、変革したことで“現場へのしわ寄せ”がいかないように、慎重に前に進めることだったと言います。「建設業は一定の制約があり、変化への対応の内部的要求があまり高くないんです。そこを無理矢理変えるのは大変ですし、現場のことを考えれば、些細なミスが人命に関わるので、少なくとも現場に大きな負担の生じない変革を心がけなければいけない、そして、時間をかけてでもしっかり前に進むことが重要だと思いました」と振り返ります。
◆建築業界の未来を担う“BIM”とは?
建築業界のデジタル領域においては、2010年代からBIM(Building Information Modeling)の活用が広がっています。これは建築に必要な図面をデジタル化し、そこに情報を埋め込んで再利用可能にしたもので、「建築業界には以前からCAD(Computer Aided Design)というアプリケーションがありますが、そこに、さらにいろいろな情報を付加したものがBIMです。しかも、BIMの世界はコンピュータ処理されるので、三次元、時系列のデータまで取り込めば四次元までできます」と紅林さん。
さらには、「デジタルの本質的なメリットは、情報共有のスピードと簡単に再利用できること、そこが生産性を上げる大きな鍵になります。逆にいうと、BIMは人力で大量のデータを打ち込まなければいけないので、最初のモデルを作るのに労力がかかります」と解説します。
紅林さんいわく、そんなBIMの現在の完成度は10%未満だそうで、100%に行き着くには最低でもあと30年くらいはかかるだろうとのこと。ただ、完成した際には、いろいろなことができると言い、「例えば、施主から変更依頼を受けたときに、瞬時に再見積もりが算定できて施工の手順も反映される、それが1つの理想形です。今は再見積もりを出すだけでも1ヵ月以上かかり、想定外のコストがかかってしまうことがありますが、そうしたことがなくなると思います」と語ります。
◆日本の全業界が抱える大きな課題
続いて、建設業に求められている改善点を聞いてみると、「ITを見ている立場からすると、今の世の中のITシステムは基本的にFit to Standard(国際標準をキャッチアップしてそれに近づけること)を目標としているアプリケーション・サービスが多く、そこで必要なのは“人材マネジメント”なんです」と言及。
日本では従来、新卒一括採用で組織戦に強い人材育成、チーム作りをしてきましたが、人材マネジメントのグローバルスタンダードは、優秀な部下をしっかり管理し、部下の成果を組織の成果として取り込むことだそう。その考え方は、ものづくりにも大きく影響し、「(日本は)コストをかけてそこを改造しないと、今の世界基準のマネジメントモデルに合わなくなるし、結果として、コストパフォーマンスが悪いシステム、サービスの導入を強いられることになります」と紅林さん。
そして、このままでは、人手不足のために外国人のマネージャーや技術者を招聘しようにも誰も来ないことを指摘し、優秀な人材の活かし方を重視した“世界基準の人材育成マネジメント”に早くシフトしていくことが重要と語りました。
次回9月28日(土)の放送も、引き続き紅林さんをゲストに迎えてお届けします。大林組のDXの試みや紅林さんの仕事術についてなど、貴重な話が聴けるかも!?
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9月21日放送分より(radiko.jpのタイムフリー) http://www.tfm.co.jp/link.php?id=9052
聴取期限 2024年9月29日(日) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00〜20:30
パーソナリティ:笹川友里