(※写真はイメージです/PIXTA)

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何歳になっても悩まされるのが「人間関係」です。例えば、相手に嫌われているかもしれないと思ったときに、相手は変えられないから自分が変わるというのも確かに1つの方法でしょう。しかし、精神科医の保坂隆氏は、それとは別の方法で自分を守るのも一案だといいます。今回は保坂氏の著書『精神科医が教える60歳からの人生を楽しむ忘れる力』(大和書房)から、人間関係で疲弊しないための心の持ちようをご紹介します。

織物教室での人間関係、60歳・Iさんの対処法

人間関係に疲れてしまうことがあります。仕事を退職する理由の上位にくるのが「人間関係の悩み」です。職場だけではなく、家庭で、地域で、学校やサークルで、人が2人以上集まれば人間関係ができあがり、うまくいったりいかなかったりするのが人生です。それでも、人間関係の悪化は精神的にきついものです。

Iさんは、60歳を機に再雇用となったため時間ができ、今までやりたかった織物の教室に通いはじめました。教室の先生は教え方が上手で、織り機に触れている間は心が落ちつき、とてもいい時間でした。

しかし、ひとつ気になることがありました。教室が終わったあとに、他の方々はランチにつるんで出かけるようですが、Iさんは誘われません。少し観察していると、リーダー格の女性がいて、なんだかIさんに冷たいようでした。Iさんには理由はわかりません。

こういうとき、Iさんはある人が言った言葉を思い出します。それを語った人が、スポーツ選手だったか、タレントだったかは忘れてしまいましたが、こういうことを言っていたそうです。「相手の気持ちをコントロールすることはできないし、変えることもできない。だから、こんなことは自分の人生には関係ないと思うことにしている」と。

よく、「相手は変えられないから、自分が変わるしかない」という言葉も聞きますね。これもひとつの対処法なのですが、苦手な相手のことを自分には関係がないと忘れてしまう方法もあります。

自分の人生に必要でない人からは、さらりと離れる

私たちは、ともすれば皆から好かれたいと考えてしまいます。でも、人間には相性というものがあります。相性が合うかどうか、見た目で判断するべきではないのですが、見た目で自分のテリトリーに入れたくないという人もいます。なんだか嫌われているのかなと思っても、その人は私の人生には関係ない、私にはなにも影響しないと思うことで自分を守り、相手を忘れます。

ある女性が話してくれました。娘さんが小学生のときにPTAの付き合いが大変だったそうです。やはりボス的ママさんがいて気を使ったり、いじめがあったりして巻き込まれてしまいました。

しかし、娘が成人した今、「あれはなんだったのか」と思うそうです。今ではそのときのママ友と付き合いはありません。自分の人生に大きく影響する出来事でもなかったのに、渦中にいるときは怒ったり落ち込んだりしていました。「今思えば、コメディですね」と話してくれました。

私たちは、いろいろな人間関係に巻き込まれますが、相手を「私の人生には関係ない人」として切り捨て忘れることも必要です。「南斗は随(したが)い運(めぐ)れども、北極は移らず」(『秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)』)という空海の言葉があります。

北極星は動かない星です。昔の人は北極星を探して自分の位置を確かめました。南斗は北極星より南にある星で、季節とともに動いていきます。人の言葉や感情に巻き込まれないで、北極星のように「ぶれない心」をもって自分の人生を歩んでほしいと思います。

保坂 隆
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長