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 ドジャース・大谷翔平投手(30)は自己最多で、日本選手最多を更新中の53本塁打を放ってきた。本塁打が飛び込むたびにスタンドは熾烈(しれつ)な争奪戦へ。節目のお宝ボールを本人に返却する、あるいは競売サイトに出品する、自宅で大切に保管する。53本のアーチの分だけ、異なるストーリーがある。9月編の「Monthly Shohei」では、お宝ボールをゲットした幸運なファンたちを振り返り、その後を追った。 (取材・大リーグ取材班)

【移籍1号は大谷のもとへ】

 大谷の節目のホームランボールには「10万ドル(約1440万円)以上の価値がある」と米メディアは報じる。4月3日の移籍1号をキャッチしたアンバー・ローマンさん(28)は、球団の求めに応じ大谷本人の手に渡るよう返却した。後日球場に招待され、大谷とも交流してサイン入りバットなどを贈られた。「大谷と握手した…。二度と手を洗わない」と感激していた。

 一方で、注目されるのは50号ボールの行方だ。史上初の「50―50」達成球だけに価値は高い。FOX局電子版によると、球団が30万ドル(約4320万円)を交換条件に提示したが合意に至らず、争奪戦でボールを捕った男性は保管する意思を示して帰宅したという。

 こうした記録が懸かった試合では、本物である証明のため刻印入りの特別なボールが使用される。松井秀喜の日本選手最多を更新する通算176号となった4月21日メッツ戦での今季5号もそうだった。ゲットしたジェーソン・パティーノさんは、サインボールとの交換を提示されたが、「E6」とマークされた記念球を手に「今はキープを選択した。また、ドジャースと話すよ」と思案顔。後に競売サイトに出品したが、最低入札額の12万ドル(約1730万円)が高額だったか、取引は成立しなかった。

 日本のファンからすれば大谷の本塁打が見られるだけで幸せなのに、そのボールをキャッチしたとなれば天文学的な確率。そんな幸運に出合えたら、あなたならどうしますか?

【投げ返した2号「後悔はない」】

 熱烈なカブスファンのジム・リッチさん(48)は、今季の大谷の本塁打をゲットした観客の中で唯一、グラウンドに投げ返した。

 大谷にとって初めてリグリー・フィールドでのプレーとなった4月5日のカ軍戦での今季2号。当時は「後悔はない。リグリー・フィールドでは相手チームの本塁打は投げ返すのが伝統だ」と胸を張っていた。大谷が史上初の「50―50」を達成した現在の活躍を受けても「正直、最初はキープしようとも思ったが、今も後悔はない。決して翔平に対して失礼なつもりはなかった。これがこの球場の伝統」と言い切った。

 ボールは手にしていた球場名物のヘルメット入りのナチョス(16.99ドル=約2450円)に直撃した。「本塁打ボールの金銭的価値より、投げ返した経験の方が私にとって価値がある」と語り、「強いて言うなら、ナチョスのチーズの染みがついた本塁打ボールを持っている大谷の写真が欲しいね」と笑った。

 ナチョスのレシートは記念に手元に残してある。「大谷は偉大だ。素晴らしい1年を過ごし、見ていて楽しい」。野球を愛し、カブスを愛するからこそ、大谷の本塁打ボールを全力で投げ返した。

【頭部直撃の6歳 野球始めるきっかけに】

 大谷が7月2日のダイヤモンドバックス戦で右中間席へ運んだ27号が頭部に直撃した日本人の少年ノブヨシ君(6)は、救急隊員に担架に乗せられたが、精密検査で「異常なし」と診断された。

 その後、ドジャース側から同5日のブルワーズ戦に招待され、球団スタッフを通じ、大谷の直筆サイン入りボールを贈られる“サプライズ”もあった。

 東京から父と息子の2人旅の最中のアクシデントで、帰国後は日本の病院での経過観察も終え、現在は元気に保育園に通っている。ノブヨシ君は公園では父と一緒に野球を始め、テレビの前では今まで以上に熱心に応援するように。「オータニさんは今、ホームランが◯本で、盗塁が◯個だね」と毎日家族に教えるようになったという。

 大谷のボブルヘッド人形と、もらったサインボールは、2歳の弟に触られないように家の戸棚の上に大事に飾っている。ノブヨシ君は家族を通じ「オータニさん、“ホームラン50本、盗塁50個”達成おめでとう!たくさんホームランを打って、走るのも速くてかっこいいです。優勝目指して頑張ってね!」とエールを送った。

【48号ゲット大学生 記念球自宅で保管】

 マイアミで17日に48号ボールをゲットした大学2年生のジェナ・バンダービーゼンさん(19)は、ワシントン近くの自宅で記念球を大事に保管しているという。「私が知っている唯一の選手だったのよ」と普段野球は見ないが、大谷の存在だけは知っていた。ドジャースタジアムで20日に52号ボールを手に入れたのも、大学生のアラン・メンデスさん(24)。自宅は本拠地から車で約10分の距離で、大のド軍ファンだという。後日、ボールを保管して飾るためのケースを購入した。「絶対に売りません。幸せの象徴ですから」と家宝にするつもりだ。